糖尿病治療薬と心不全と利益相反

お金は本当に力があります。お金の前では事実が曲げられてしまうかもしれません。

ロシグリタゾンという糖尿病の薬に関して、また有害性の論文が発表されました。この薬は日本では発売されていませんが、類似薬としては日本で発売しているアクトス(ピオグリタゾン)があります。ロシグリタゾンはアメリカでは販売されているようですが、ヨーロッパは承認を停止、他の多くの国からも撤退している薬です。

この薬には以前から副作用の懸念がありました。2007年以降、さまざまな分析アプローチを使用し、ロシグリタゾンの心血管リスクに関する矛盾する結果を報告したいくつかのメタアナリシスが実施されました。しかし、2010年に医師と企業の癒着を問題にした論文が発表されました。

ロシグリタゾンの心血管系リスクに対する見解と製薬会社との関係を調べるために、202の論文を調べました。うち108(53%)の論文には企業との利益相反に関する記載があり、90人の著者(45%)が利益相反を有していました。ロシグリタゾンの心筋梗塞のリスクについて否定的な見解を示した著者は、肯定的な見解を示した著者に比べて、ロシグリタゾンの企業と経済的利益相反を有する傾向が認められました。

ロシグリタゾンの安全性について好意的な見解を述べた著者の大部分31人中29人(94%)は、一般的に製薬会社と経済的利益相反がありました。ロシグリタゾンのメーカーとは31人中27人(87%)利益相反を認めました。類似薬のアクトス(ピオグリタゾン)のメーカーとの利益相反は31人中20人 (65%)でした。中立低下見解を述べた著者の利益相反は84人中25人(30%)でした。もちろん利益相反があっても、65人中13人(20%)では、リスクの存在を肯定する人もいました。

しかし、ロシグリタゾンの安全性について好意的な見解を示した著者は、不利な見解を示した著者よりも3.38倍も製薬会社との経済的利益相反の可能性が高くなり、ロシグリタゾンのメーカーとの利益相反だけを考えると、4.29倍も経済的利益相反の可能性が高くなりました。

人間、金に弱いんですね。

多くのメタアナリシスでは患者の生のデータは示されません。今回の研究では、最近外部の研究者が臨床試験の生データ(個別患者レベルデータ(IPD))を利用できるようにしたために、データが再度分析されました。そうしたところ、ロシグリタゾンは対照と比較して複合心血管イベント(心臓発作、心不全、心血管および非心血管関連死)の33%増加したリスクに関連していることがわかりました。特に心不全の増加(54%増加)と関連していました。

研究には透明性が重要だと思われますが、企業が絡んでいる場合にはなかなか難しいのでしょう。論文において利益相反を申告するだけでなく、承認された治療法の信頼性を確保するための独立したエビデンス評価をすることの必要性があると思います。しかし、まずは無理でしょうね。

心血管疾患

「Association between industry affiliation and position on cardiovascular risk with rosiglitazone: cross sectional systematic review」

「ロシグリタゾンを用いた心血管リスクに関する企業の所属と立場との関連:横断的系統的レビュー」(原文はここ

「Updating insights into rosiglitazone and cardiovascular risk through shared data: individual patient and summary level meta-analyses」

「共有データによるロシグリタゾンと心血管リスクに関する洞察の更新:個々の患者と要約レベルのメタアナリシス」(原文はここ

2 thoughts on “糖尿病治療薬と心不全と利益相反

  1. ある大学の教授が「頭が良いという事は、狡い事とイコールだ(頭良い人は大抵狡い)」
    と仰っていたのを御本人から直接伺ったことがあります。

    知的資源をなるべく、利他的に使用していただきたいとは思いますが、
    こればっかりは明かに違法では無い限り、難しい問題なのでしょうね。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      「頭が良いという事は、狡い事とイコールだ(頭良い人は大抵狡い)」というのはあまり同意できません。
      あまりお金を得ずに、本当に頭が良く、自分の得意分野に没頭している人もいますから。

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