ウルトラマラソンと運動関連低ナトリウム血症

新型コロナのためにマラソンどころではありませんが、昨日東京マラソンがエリートランナーだけで行われ、見事大迫傑選手が日本新記録の2時間5分29秒という記録を出しました。すごい走りでしたね。30km過ぎにあの走りをできるなんて。しかし、これでも世界的に見れば大した記録ではありません。記録だけで考えればオリンピックのメダルか厳しいでしょう。あとは天候か?そもそもオリンピックができるのか?

今回は運動と血中のナトリウムの話題です。

運動をすると大量の汗が出るために、水分補給が必要で、その時に電解質、特にナトリウムが汗とともに体外に出てしまうために、スポーツドリンクなどから補給することが必要であると洗脳されています。しかし、このことには科学的根拠があるのでしょうか?

通常の運動は1~2時間程度かもしれませんが、持久的な運動で最も長時間行うのはウルトラマラソンだと思います。私はウルトラランナーですが、まだまだの記録しかありませんから、100kmを11~12時間かかります。こんな長い運動ではやはりナトリウムが必要になると思われますが、ナトリウムを補給すれば運動関連低ナトリウム血症は防止できるのでしょうか?

今回の研究では、250km(150マイル)の6ステージRacingThePlanetウルトラマラソンの80km(50マイル)のステージにおいて行われました。266人のランナーで、平均年齢43歳、女性61名(36%)、平均体重74 kg、平均レース時間14.5時間でした。 174名(74%)でレース後の血中のナトリウムが収集され、164人(62%)で血液サンプルとレース後のアンケートの両方を収縮されました。

結果は、11人(6.3%)のランナーが運動関連低ナトリウム血症を発症し、30人(17.2%)が高ナトリウム血症を発症しました。運動関連低ナトリウム血症の人はレース前で14kg体重が重く、トレーニング距離が大幅に短く、他の参加者よりも50マイル(80 km)を走るのに平均5〜6時間長くかかっていました。高ナトリウム血症の人は、トレーニング距離が著しく長く、1週間あたりの最大走行距離が長いことがわかりました。そして、時間当たりのナトリウム摂取量と総摂取量のいずれも、ナトリウム異常と相関しておらず、飲水行動やナトリウム補給の種類に、正常ナトリウムのランナーと比較して有意な差はありませんでした。つまり、レース中に摂取した電解質(ナトリウム)の量・種類・方法などは血中のナトリウムレベルと全く関係がなかったのです。(図は原文より)

上の図はレース後のナトリウムの状態と体内の水分の状態を示してます。表の上から高ナトリウム、低ナトリウム、正常ナトリウムです。左から水分過剰、正常な水分、脱水です。高ナトリウムの人は水分過剰よりも脱水であることが多く、運動関連低ナトリウム血症の人は脱水よりも水分過剰が多いことがわかりました。運動関連低ナトリウム血症の人の3分の2は水分過剰です。

上の図は表の上からレース後の体重変化、ナトリウム摂取率、総ナトリウム摂取量、レース時の温度で暑いレースと涼しいレースです。表の横は左から高ナトリウム、低ナトリウム、正常ナトリウムです。有意差はありませんが、低ナトリウムの人では体重変化が非常に少ない傾向がありました。時間当たりのナトリウム摂取率はそれほど違いはありませんが、総ナトリウム摂取量は皮肉なことに低ナトリウムで最も多くなっていました。涼しい気候のレースではナトリウムの異常は起きにくく、正常の人が93%以上になっていましたが、暑い気候のレースでは約28%で高ナトリウムとなり、約9%で低ナトリウムになっていました。つまり、ナトリウムの異常は気温に左右されると考えられます。涼しいレースと比較して暑いレースで低ナトリウムは3.5倍起きやすく、高ナトリウムは8.8倍起きやすくなります。ナトリウムを摂取するかどうかなんて関係ありません。

ほとんどのアスリートは脱水症を心配していますが、脱水での死亡例はほとんど存在しません。しかし、運動関連低ナトリウム血症による死亡報告は14件にもなります。

運動関連低ナトリウム血症は、吐き気、嘔吐、めまい、疲労、脳症、けいれん、肺水腫、または死に進行する場合もあります。しかし、これらの症状は高ナトリウムでも起きる症状もあり、勘違いする場合もあるでしょう。喉が渇いていないのに症状がある場合は低ナトリウムである可能性が高くなるかもしれません。脱水と勘違いして水分補給を大量にしてしまうと、さらに低ナトリウムを促進してしまう可能性があります。脱水よりも低ナトリウムの方が危険です。

企業が勧める電解質が入ったスポーツドリンクに含まれている電解質の濃度は、血液に含まれている電解質の濃度よりも低く、それを摂取し続けると、血中の電解質濃度は当然低下してしまいます。そして、企業は喉が渇く前に十分に摂取することを勧めています。その通りにスポーツドリンクをガブガブ飲むことは、結果的に逆効果になる、つまり低ナトリウム血症を招く可能性があります。

上の図は飲水計画とナトリウム摂取の種類の比較です。ナトリウム摂取の種類はばらけていて、関連はありません。低ナトリウムの人では、63.6%であらかじめ飲水のスケジュールを持ていましたし、18%の人は喉が渇く前に飲水を行っていました。有意差はありませんが、正常なナトリウムの人や高ナトリウムの人では喉が渇いてから飲む人が多くいました。正常ナトリウムの人ではあらかじめ飲水のスケジュールを持っていた人は38.5%でした。

つまり、企業が勧めるような、1時間に何ml飲むとか、喉が渇く前に飲むという推奨は非常に怪しいもので、根拠が非常に薄いと思われます。

当然、10時間以上も続くウルトラマラソンでも電解質の補給は必要ないのですから、ウォーキングや軽いジョギングなどは全く電解質の飲み物を必要としていませんし、ジムなどでの運動や部活動などでの運動にも電解質の含まれるスポーツドリンクは必要ありません。電解質について心配したとしても、スポーツドリンクなどで電解質を摂取する必要はありません。通常の食事には十分な量の電解質が含まれているのですから、そこから補給ができるのです。

そして何よりもスポーツドリンクは糖質がたっぷりです。運動中ならまだしも、日常生活や夏の高齢者の脱水予防目的でのスポーツドリンクは病気促進薬でしかありません。絶対に飲むべきではありません。

企業に騙されないようにしましょう。

 

「Effect of Sodium Supplements and Climate on Dysnatremia During Ultramarathon Running」

「ウルトラマラソンランニング中のナトリウム摂取と気候がナトリウム異常に及ぼす影響」(原文はここ

2 thoughts on “ウルトラマラソンと運動関連低ナトリウム血症

  1. 数年前「仙台30K走」という雑誌ランナーズ企画イベント参加後、脚が攣って動けなくなったことがあります。今なら芍薬甘草湯持参のところですが、当時は知りませんでした。
    暑くて、脱水予防と思い、無料配布されていたスポーツドリンクや補給ゼリーそして冷水を大量摂取していました。
    きっと低ナトリウム血症を起こしていたのだと思います。
    (スポーツドリンクの充実の割には、梅干や塩分は全く準備されていませんでした)

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      レース後の芍薬甘草湯は効果があるときとない時がありますね。私はひどい時は何をやってもダメで、ひたすら痛みに耐えて良くなるのを待っていました。
      この時も夏の北海道マラソンだったので、低ナトリウムだったかもしれないですね?
      梅干しや塩は持参が基本だと思います。

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