新型コロナウイルスの感染7段階モデルとインフルエンザ

最近、新型コロナウイルス感染について、日本で重症化率・死亡率が低い理由の仮説として「感染7段階モデル」が話題になっています。(ここ参照)今までの仮説の中で最も的を射ている仮説だと思います。非常に説得力があり、一部のマスコミが食いつき、テレビでも高橋先生が出て話をされています。(しかし、高橋先生は説明が上手くなく、一般の人には非常にわかりにくいのではないでしょうか?)

(図は東洋経済オンラインの記事より)

ただ、この仮説の説明の中で、「インフルエンザの場合は、ウイルス自体の毒性が強く、すぐに、鼻汁、咳、筋肉痛、熱と明らかな症状が出る。暴れまくるので、生体(人の体)はすぐに抗体、いわば軍隊の発動を命令し、発症後2日~1週間で獲得免疫が立ち上がり、抗体ができてくる。よって、抗体検査を行えば、ほぼ全ケースで「陽性」となる。」と書かれています。恐らく獲得免疫=抗体産生と言いたいのだと思います。しかし、実際には自然免疫と抗体産生の間には細胞性免疫(T細胞)による免疫活動があります。強い症状を出さない人では抗体検査が本当にほぼ全てで陽性でしょうか?疑問ですね。

以前の記事「新型コロナウイルス感染における細胞性免疫」で書いたように、新型コロナウイルスの感染で、無症状または軽い症状の人で、抗体が陰性でも新型コロナウイルス特異的T細胞応答の人がかなりの割合でいるという報告があります。だから、上の表のステージの2と3の間にもう一つステージを設けて8段階にすべきだと思います。

そして、インフルエンザではすぐに明らかな症状が出て、すぐに抗体ができてくる、と述べていますが、私は違うと思います。

インフルエンザの不顕性感染については、報告によっても違うと思いますが、3分の1くらいは症状のない、不顕性感染です。軽い風邪症状も含めればもっと多いでしょう。(ここ参照)健康なボランティアによるこの研究で、鼻づまり、鼻水、喉の痛み、くしゃみ、などの上気道症状はインフルエンザ全体で58.8%に認められましたが、A型インフルエンザH3N2ではもっとも症状出現の割合が低く、38.4%でした。つまり、A型インフルエンザH3N2では60%以上の人では上気道症状が認められませんでした。

さらに、37.8°C以上の発熱症状では、インフルエンザ全体として34.9%でした。B型インフルエンザではたった7.5%しか37.8°C以上の発熱症状を認めませんでした。

これまでの感染症学は恐らく病原体に対する特異的な抗体についてがメインであり、自然免疫や細胞性免疫による非特異的な免疫は軽視されてきたのかもしれません。私は最近ここ10年ほどインフルエンザに罹った記憶がありません。それは、強い抗体でも持っているのであろうと思っていました。しかし、そうではなく、自然免疫とT細胞の細胞性免疫で十分インフルエンザと戦えているのでしょう。

ずっと以前におけるインフルエンザの自然感染後に、体内で作られた、もっと寿命の長い交差反応性CD8+ T細胞が、ウイルス特異的な抗体がなくても、発症を防ぐ役割を果たすと考えられています。

そう考えると、毎年のインフルエンザワクチンは人間本来に備わった免疫力を低下させている可能性があります。以前の記事「前年にインフルエンザワクチンを接種していた人の方が多く新型インフルエンザを発症していた」に書いたように、毎年ワクチン接種をしている子供と接種していない子供を比較した研究では、毎年ワクチンを接種していると、ウイルス特異的CD8 + T細胞応答の年齢依存的な増加は見られなかったのです。

同様にタミフルなどの治療薬も同様に免疫力を抑制している可能性があります。以前の記事「日本人は新しい薬がお好き?」で書いたように、前の年にA型インフルエンザに罹患した患者の次の年の再感染率を調べたところ、再感染率は無治療であった群の8.6%に比べ、タミフル単独投与群では37.3%、リレンザ単独投与群でも45%と有意に高かったのです。インフルエンザの薬を使うせいで、次の年もインフルエンザに感染するリスクが大きく高まるのです。

感染7段階モデル仮説によると、新型コロナウイルスは98%が無症状や軽い症状です。インフルエンザよりも圧倒的に不顕性感染が多いでしょう。自然のままであれば、人間は通常なら寿命の長いウイルス特異的または交差反応性CD8+ T細胞を作ってくれるでしょう。というよりもすでに多くの日本人は新型コロナの交差反応性CD8+ T細胞を持っているでしょう。ワクチンはこれに対してどのように影響するかわかりません。

今後、新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬ができるかもしれません。その時にそのワクチンや薬を使うかどうか、ちゃんと考えた方が良いかもしれません。

 

「Cellular immune correlates of protection against symptomatic pandemic influenza」

「症候性パンデミックインフルエンザに対する防御の細胞性免疫の関連」(原文はここ

8 thoughts on “新型コロナウイルスの感染7段階モデルとインフルエンザ

  1. ワクチン開発競争や、イギリスではもう1億人人分以上のワクチンが確保された等のニュースを見ました。
    ワクチンがそれこそ期待通りの効果を発揮できればよいのでしょうが、そんなに都合の良い薬が(いままでの感染症も含めて)開発された例は多いのでしょうか?

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      ワクチン全てが悪いわけではありません。必要なワクチンはいっぱいあると思います。
      しかし、最近のワクチンはちょっと違うような気がします。
      肺炎では新型コロナウイルスよりも圧倒的に死者数が多く、年間10万人が亡くなっています。
      その原因の一つの肺炎球菌はおよそ30%程度の割合だと思いますが、ワクチンが存在しているのに、
      こんなに死んでいます。子宮頸がんワクチンも様々なことが言われています。
      インフルエンザワクチンも記事に書いたように、問題がある可能性があります。
      私は新型コロナウイルスのワクチンを早く接種したいとは、全く思いません。

    1. NANAさん、コメントありがとうございます。

      もちろん7段階モデルは現在のデータによってフィットするようにしています。
      しかし、感覚的には一番的を射ているように思えます。
      このモデルは42万人死亡仮説のような将来を予測しているものではなく、これまで起きてきたことを説明するものです。
      軽くそのサイトをのぞいてみましたが、K値に関する批判では、PCR検査が以前と現在では全く違う意味であるのに、
      同列で扱っているような感じで様々な批判を展開しているので、あまり真剣に読もうとは思えません。

        1. NANAさん

          私もこの仮説の全てに同意しているわけではありません。
          記事にも書いたように細胞性免疫について、この仮説では触れていません。
          未来を予測する仮説ではなく、あくまでファクタ-Xの推測だと思います。
          また、この仮説はサイトカインストームについて言及していますが、私は血栓症での死亡の方が多いのではないかと思います。
          まあ、自分の判断で好きなように考えれば良いと思います。新型コロナウイルスの専門家は存在しないのですから。

  2. 今までインフルエンザは季節性があり暑い夏には活性が低下し寒い冬に流行すると言われてきましたが、実際は季節を問わず水面下では常に感染が拡大していて、単に冬に発症者が増え流行していると感じるだけの事ではないでしょうか?新型コロナにもそのことが当てはまるとすれば、この秋から冬にかけてどんなことが起こるのか想像するだけでも恐ろしいです。(逆に言えば感染するなら今ということになりますが(笑))特に第1波で感染し投薬による治療を受けた人が冬に再度感染すれば免疫、抗体の有無にかかわらず重症化し最悪死に至るのではないかと危惧しています。スペイン風邪でも第2波では、患者数、死者数は第1波より少なかったものの致死率はむしろ高いです。
    考えすぎでしょうか?

    1. まーさん、コメントありがとうございます。

      誰にもわかりません。
      しかし、別に感染症は新型コロナだけではありません。ワクチンもある肺炎球菌で毎年何万人も亡くなっていることを考えれば、
      ただ免疫力の弱い人が死に至るかもしれない感染症の原因が一つ増えただけのことです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です