うつ病にはプラセボ(偽物の薬)がめちゃくちゃ効く!

うつ病は世界中で非常に問題になっていますが、これまでの研究を見てみると、プラセボという偽物の薬が、非常に効果があることが分かります。

うつ病の診断や病状の経過を見ていくには客観的な数値による評価が必要になります。そこで検査が行われます。うつ病で用いられる心理検査はいくつかあるようですが、世界的に広く用いられているハミルトンうつ病評価尺度(HRSD)というのがあり、抗うつ薬の効果判定でも多くの薬にこの検査が用いられています。HRSDはうつ病の重症度を点数化します。例えば、HRSD17という検査はうつ病の様々な症状を17項目に分けて、その質問に対する回答を点数化することにより重症度を判定します。点数の高い方ほど重症度も高いです。通常下のように重症度を分類します。

0点~7点         正常
8点~13点       軽症
14点~18点     中等症
19点~22点     重症
23点以上         最重症

 

うつ病に対して抗うつ薬とプラセボ(偽薬)では、どの程度効果が違うのか、FDAに実際に提出された臨床試験のデータによるもので見てみましょう。

 

「Initial severity and antidepressant benefits: a meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration.」

「初期重症度および抗うつ薬の効果:FDAに提出されたデータのメタ分析」(原文はここ

 

下のグラフは横軸が抗うつ薬によるHRSDの変化量(改善度)、縦軸がプラセボによる変化量(改善度)です。赤い線は抗うつ薬とプラセボの変化量が同じであるところを示しています。赤い線よりは下の点はプラセボの効果よりも抗うつ薬の効果の方が高いことを表し、逆に赤い線より上の点は抗うつ薬よりもプラセボの方が効果が高いことを表しています。

そうすると、やはり赤い線よりも下に点が多いのがわかりますが、赤い線よりも上にも点があることや、赤い線のすぐ近くにも点が少なからずあります。

 

 

では、抗うつ薬の変化量からプラセボの変化量を引いた、正味の抗うつ薬の変化量を見てみましょう。縦軸が正味の抗うつ薬による変化量で、横軸は今度はベースライン(薬を投与する前)のHRSDの数値を表しています。つまり、右に行くほど最初は重症であったことを表します。

 

 

そうすると約半分は正味の変化量が3以下であり、最初のベースラインの数値が低いほど正味の変化量が少ないことがわかります。とはいっても、2つ以外は23以上の最重症患者です。その患者に抗うつ薬を使用しても正味の効果は2~3程度なんてこともいっぱいあるということです。実際のすべての平均は、抗うつ薬の変化量10.46、プラセボの変化量7.53、正味の抗うつ薬による変化量2.93という有様です。抗うつ薬を飲んでもその効果の4分の3程度はプラセボによる効果と言っても過言ではありません。抗うつ薬なんてこの程度の薬なんです。この程度の効果を凄い効果だと思わせるのが、製薬会社やその薬を処方する医師の腕なのかもしれません。

まさに「病は気から」そのものです。

逆に考えると、うつ病にはプラセボだけで十分効果があるとも言えます。プラセボは夢の万能薬なのかもしれません。脳に関連している病気であれば非常に効果が高いと思われます。痛みに関しても非常にプラセボは高い効果をしめします。これは今度記事にします。

さらに最近の抗うつ薬のNNTは6~10ぐらいです。(NNTは治療必要数とも言われているもので、ある症状や疾患を呈する患者を1人減らすために、何人の患者の治療を必要とするかを表したものです。)平均して8としても8人に1人しか効きません。効果のある人は1~2割程度です。

このプラセボ効果をどんな治療でも考えなくてはなりません。人間の脳はそれほど騙されやすいのです。騙されやすいというか、自分で治っていこうとするのだと思います。自分の体の中に良いものが入ったと思うだけで改善するのです。「うつ病やパニックに鉄」はどれほどのプラセボ効果なのでしょう。「あなたの症状の原因は○○です。だから、この薬を飲めば必ず良くなりますよ!」と言われると、かなりのストレス、不安の軽減になり、「ああ、やっと私の不調の原因がわかった!これでこの薬を飲めば良くなるんだ!」と思った瞬間から改善していくのです。

女性は鉄を補充しても1か月に5程度くらいまでしかフェリチンは上昇しないと言っています。しかし、フェリチンが4未満の非常に重度の鉄欠乏にもかかわらず、2週間後や1か月で症状が改善しているようです。1か月後ではまだ10にもなっていないひどい鉄欠乏です。では症状改善は鉄のおかげですか?プラセボや他の食事の改善(糖質制限)によるものの方が大部分でしょう。

私はプラセボが治療に最も重要な要素の一つと思っています。同じ治療をしても、医師の対応次第で改善度にかなりの差が出ると思っています。それを悪用すれば昔話題になった心霊治療のようなものも可能なのです。それほどプラセボは効果抜群だと思います。実際にプラセボによって脳がしっかり反応していることもわかっています。

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