やはり中高生から「食育」をしなければならない 「成人病の胎児起源」仮説その1

「倹約遺伝子」という考えがあります。「飢餓に備えて消費するエネルギーを最小限にして、余ったエネルギーは脂肪として最大限に蓄える」という遺伝子です。
狩猟採集の時代は、食料を確保することが難しかったので、消費するエネルギーをできる限り少なくして生きることが、生き残るために必要であったため、このような遺伝子ができたと考えられている仮説です。まだ、実際にはこの倹約遺伝子は見つかっていないと思います。

その倹約遺伝子を持っている人は非常に太りやすく、通常の摂取エネルギーでも肥満になってしまう可能性があります。

しかし、実際にはこの倹約遺伝子は親から単に遺伝子として受け継ぐのではなく、多くの人に存在して、条件によりスイッチが入る遺伝子かもしれません。その条件の一つとして非常に有力なのが子宮内での胎児期の栄養や環境です。

「成人病の胎児起源」fetal origins of adult disease (FOAD)という仮説がDavid Barkerにより唱えられましたが、あまりにも多くのその仮説を肯定する研究が発表されていることを考えると、もうすでに仮説ではないかもしれません。子宮内での栄養の状態により、その後の成人期の疾患が起こるリスクが高まるというものです。つまり、子宮内でプログラミングが起こっているという考えです。

子宮内での栄養不足が起こると、胎児はその低栄養状態に適応して、子宮内で成長して生まれてきます。そして、生まれた後はその子は少ない栄養で成長するようにプログラミングされているので、豊富な栄養が与えられると「ミスマッチ」が起こり、肥満を呈したり、糖尿病や心臓病などの生活習慣病を起こすリスクが高くなってしまうのです。

人間の赤ちゃんには十分な体脂肪が必要です。それは、人間の脳はあまりにも大きいため、エネルギーが大量に必要であり、生まれたばかりの時にはさらにエネルギーが必要です。それをまかなうために体脂肪をたっぷり蓄えて生まれてくると考えられています。そうすると、子宮内で低栄養状態であれば、胎児は脂肪をより蓄えようと反応するのです。そして、生まれた後には低栄養ではなくなり、過剰な栄養が待っています。しかし、すでにプログラミングは終わっているので、時すでに遅し、太りやすい体質になるのです。

しかも、小さく生まれ、その後追いつき成長を示す幼児の方が、その後の生活習慣病のリスクがより高くなるとも言われています。

以前の記事「日本人の平均身長は低下している その原因は?」で、日本の低出生体重児の割合が非常に高いことを書きました。そうすると、その子供たちが成長して様々な疾患に悩まされるリスクも高くなります。

やはり日本の妊婦さんの栄養状態は良くないのかもしれません。日本の「おにぎり」の文化、そして具合の悪い時には「おかゆ」を食べるという考え方が良くないと思います。糖質しかとっていない状態ですから。そこにはタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルがほとんど何も含まれていません。

以前の記事「高齢者の「食育」は誰の仕事か?」で高齢者の食事に必要なものの優先順位を示しましたが、同様に妊婦さんにも同じように食べるべき優先順位を教えないとなりません。

それには、中高生でしっかりと「食育」をすべきだと思います。ちょうど「ダイエット」に走る時期であり、そのころに間違った栄養の知識を吸収しやすくなります。

そして、どんな人も自分の「出生の秘密」を知るべきです。つまり、自分が帝王切開で生まれたのか、自然に生まれたのか?妊娠第何週で生まれたのか(予定よりどれぐらい早かったのか)?体重は何グラムだったのか?妊娠中に母親は喫煙していたのか?

これらのことを聞くだけで、自分が子宮内でどのようにプログラムされていたのか大体の察しがつきます。早く生まれた、小さく生まれた、喫煙していた場合には栄養が十分でなかった可能性が高くなります。その場合には成人になって生活習慣病のリスクが高くなるので、早い時期から食事に気を使わないとなりません。

 

関連する論文をひとつ挙げておきます。

「Association between postnatal catch-up growth and obesity in childhood: prospective cohort study.」

「小児における出生後の追いつき成長と肥満との関連:前向きコホート研究」(原文はここ

 

 

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