エネルギー消費量は食事で変わる

エネルギー消費量は体重と共に増減すると考えられています。1日のエネルギー消費量の推定値は基礎代謝量に身体活動レベルをかけて計算するのですが、この基礎代謝量は体重がもとになります。体重が減少すると、それ以上の体重減少を防ごうとするのか、エネルギー消費量が少なくなると考えられています。

しかし、身体活動が同じで、体重の増減がなければエネルギー消費量は変化しないのでしょうか?栄養素のカロリーは、どのような栄養素でもカロリーが同じであれば同じエネルギー量なのでしょうか?

当然違います。何を食べるか?そのときのインスリン分泌はどうか?によって変化するのは当然だと思われます。

今回の研究では、対象が18歳~65歳の成人でBMI25以上の人です。まず導入期で9~10週間体重の12%の減量を行い、その後体重減少を2kg以内にとどめるように調整を行い、その後20週間3種類の食事に無作為に割り当てられました。個々にエネルギー必要量を求め、導入期ではエネルギー摂取量は推定必要量の60%に制限されました。調整期では最近の減量率に基づいて体重を安定させるようにエネルギー摂取量を調整しました。その調整期の調整は次のような式に基づきます。

体重減少時のエネルギー摂取量(kcal/日)+(体重減少率/日)×7700kcal/kg)

その後の3種類の食事の内容は、高、中、低の炭水化物食で、炭水化物はそれぞれ全エネルギーの60%、40%、20%および脂肪はそれぞれ20%、40%、および60%、タンパク質は固定し20%でした。(図は原文より)

 

上の図は上のグラフがintention-to-treat解析で、意図としていたことから逸脱があっても当初割り付けられた群で比較するものです。下のグラフはper protocol解析で、プロトコールから逸脱したはは除外して解析するものです。

青いグラフが低炭水化物高脂肪群、黄色いグラフが中炭水化物中脂肪群、赤が高炭水化物低脂肪群です。縦軸は総エネルギー消費量の変化量を示しています。

炭水化物が少なく脂肪が多いほど、エネルギー消費量が増加していることがわかります。高炭水化物低脂肪群ではエネルギー消費量が減少しています。intention-to-treat解析で、エネルギー摂取量に対する炭水化物のパーセンテージが10%増加する毎に、エネルギー消費量は52kcal/日減少していることになります。エネルギー消費量の変化量は高炭水化物群と比較して中炭水化物群では91kcal/日、低炭水化物群では209kcal/日増加していました。

per protocol解析では、エネルギー消費量の変化量は高炭水化物群と比較して中炭水化物群では131kcal/日、低炭水化物群では278kcal/日増加していました。

 

上の図はインスリン分泌量による3種類の食事の違いを示しています。先ほどと同様に、上のグラフがintention-to-treat解析、下のグラフはper protocol解析です。色分けも先ほどと同じです。体重減少前の経口グルコース30分後のインスリン濃度により3分位に分けています。左側の方がインスリン分泌が少なかった群で、右がインスリン分泌が多かった群、つまり右側ほどインスリン抵抗性が高かったと考えられます。

そうすると、最もインスリン分泌が多かった群でエネルギー消費量の変化量は、intention-to-treat解析で308kcal/日、per protocol解析で478kcal/日にもなりました。つまり、インスリン抵抗性が高かった人ほど、低炭水化物高脂肪食のエネルギー消費量の増加効果は大きくなっていたのです。

 

 

上の図は血液検査で得られたものです。一番上のグラフが血中1, 5-anhydroglucitol (1, 5-AG)で、 高血糖で低下するので、短期間の血糖変動の指標になります。真ん中が中性脂肪で、下がHDLコレステロールです。

明らかに低炭水化物高脂肪食の方が、1, 5-AGが低下し、中性脂肪値も低下、HDLコレステロール値は増加と非常に好ましい変化です。

また、グレリンは高炭水化物食と比べて低炭水化物食で急激に低下し、レプチンは低炭水化物食の方が低い傾向を示しました。グレリンはいわゆる食欲増進ホルモンです。以前の記事「空腹感はエネルギーが足りないとかお腹が空っぽの合図ではなく、脳の罠?」で示したように、いつもの食事の時間の前になると分泌され、食欲を増進します。しかし、絶食を続けると段々と分泌が少なくなります。今回の研究で示されたようにグレリンは低炭水化物食で低下しています。そうすると、食欲を増進させているのは高炭水化物、つまり、糖質過剰摂取が原因だということが考えられます。逆に言えば高脂肪食は食欲を抑える働きがあるのかもしれません。

いずれにしても、栄養素のカロリーを計算しても無駄です。食事の栄養素の割合を変えるだけでエネルギー消費量は大きく変化します。カロリーという言葉は死語になりつつあります。低カロリー食にしても、高糖質食であればエネルギー消費量が減少して痩せられないことがこれでわかったと思います。

糖質制限は非常に好ましい変化を起こす食事であることは明らかですね。

 

 

「Effects of a low carbohydrate diet on energy expenditure during weight loss maintenance: randomized trial」

「低炭水化物食の減量維持時のエネルギー消費に対する効果:無作為化試験」(原文はここ

2 thoughts on “エネルギー消費量は食事で変わる

  1. 清水先生、こんにちは。
    先生なら恐らく御存じかと思われますが、2013年に、イングランド人のサム・フェルサム(Sam Feltham)さんが行った過食実験があります。

    簡潔にまとめますと、
    1日に5000kcalを超えるエネルギーを摂取し続けた結果(期間はいずれも21日間)、低糖質・高脂肪な食事では全く太らず、身体が引き締まったのです(体重は1.3kg増加、腰回りは3cm縮んだ)。余剰分のエネルギーは56645kcalにも及びましたが、太るどころか見事に痩せました。
    逆に、高糖質・低脂肪な食事では、みるみるうちに太ってしまいました(体重は7.1kg増加、腰回りは9.25cm膨らんだ)。
    ヴィーガン食では、体重は4.7kg増加し、腰回りは7.75cm膨らみ、顎の脂肪も膨らみ、体脂肪率は12.9%から15.5%に上昇してしまいました。

    カロリー信者の皆様なら、屁理屈や難癖をゴチャゴチャと垂れ流しながら必死で全否定するでしょうけど、糖質制限を実践して痩せた人なら、彼の身体に起こった現象には大いに納得するはずです。

    カロリー信者によれば、「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば痩せ、下回れば太るに決まってる。これが真実だ」だそうですから、映画『あまくない砂糖の話』を真似て、「1日に砂糖を250g食べるだけ」の生活をずっと送ってみれば良いのです(あの映画での砂糖の摂取量は「1日に160g」でしたが)。
    「1日に250gの砂糖を食べるだけ」なら、炭水化物のカロリーは1gにつき4kcalであり、摂取カロリーはたったの1000kcalだけで済むのですから、カロリー信者の言い分が正しければ、この生活でも身体はちゃんと痩せるはずです。
    そのうえで、ひたすら運動に励んでもらいます。彼らが正しければ、この生活で痩せるはずですから。
    連中によれば、「脳の唯一のエネルギーはブドウ糖だけ」だそうです。「炭水化物を食べないと筋肉だけが減る。脂肪は減らない!最悪の場合、脳が死ぬ!」そうですから。
    連中によれば、「炭水化物だろうが、脂肪だろうが、タンパク質だろうが、カロリーさえ同じならどれも作用を示す。基礎代謝分を上回った分のエネルギーは、全部脂肪に変えられて太っていく!」だそうです。
    連中の言っていることは全てデタラメであることは、サム・フェルサムさんが身体を張って証明してくれました。

    また、
    「糖質制限とはカロリー制限の一種です。摂取カロリーを制限しなければ結局は痩せられません」
    「炭水化物を食べないでいる分、摂取カロリーが減って痩せるだけ。『炭水化物を避けたから痩せる』わけではない。カロリーを減らしたから痩せただけだ」
    「炭水化物を避ける代わりに脂肪の摂取を増やすんだから、血管がドロドロになる。コレステロールも溜まる。痩せたとしても身体に悪い」
    などと、糖質制限を奨めるフリをして、炭水化物ではなくカロリーを制限させようと巧みに誘導する悪質な輩もいます。
    連中の言っていることは全てデタラメであることは、サム・フェルサムさんが身体を張って証明してくれました。
    カロリー信者とは嘘吐きの集団であり、人間のクズであることは間違いありません。
    連中が跳梁跋扈している限り、肥満・心臓病・糖尿病を患う人は今後も増え続けるでしょう。

    そんなにカロリーが気になるのなら、毎日炭水化物だけを喰い続けて、毎日運動し続ければ良いのです。結果、彼らにどんな運命が待ち受けているか、楽しみですね。

    1. クリードンさん、コメントありがとうございます。

      人体の代謝をカロリーであらわすのは無理がありますよね。早くカロリー神話がなくなってほしいものです。

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