心血管疾患のリスクと大出血のリスク あなたはどちらを選びますか?

心血管疾患のない人でも、「予防」目的にアスピリン投与が行われていることがあります。しかし、心血管疾患のリスクを低下させる一方で、大出血リスクを増加させる可能性があります。

今回の研究では13の無作為化試験を対象にメタアナリシスを行いました。

心血管疾患のない1,000例以上を対象に、追跡期間12ヵ月以上、アスピリンとプラセボまたは無治療を比較した無作為化試験を対象に、分析を行いました。

主要心血管アウトカムは、心血管疾患での死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合としています。主要出血アウトカムは、それぞれの試験で定義したすべての大出血としました。

13の無作為化試験で16万4,225例、105万511人年を分析したところ、心血管複合アウトカムの発生率は、アスピリン群57.1/1万人年に対し、非アスピリン群は61.4/1万人年でした。(図は原文より)

上の方の図は心血管疾患の複合アウトカムを表わしています。心血管疾患のリスクは0.89と低下しています。しかし、絶対リスク減少はというと0.38%です。NNT(治療必要数)で考えると265です。265人にアスピリンを投与して1人に利益があります。さてあなたは265分の1になれるでしょうか?

下の方の図は大出血アウトカムを表しています。大出血の発生率は、アスピリン群23.1/1万人年、非アスピリン群は16.4/1万人年でハザード比1.43となりました。絶対リスク増加0.47%であり、NNH(有害必要数)で考えると210となります。さてあなたは210分の1になってしまうでしょうか?

つまり、心血管疾患のない人がアスピリンを飲むということは、その目的としている心血管疾患のリスクをたった0.38%だけ低下させます。そのかわり大出血のリスクが0.47%増加させます。どちらもわずかですが、予防効果を得るよりも大出血のリスクの方が高いことになります。

では、心血管疾患のリスクが高い人にはアスピリンはいかがでしょうか?

上が心血管疾患の複合アウトカムを表わしています。心血管疾患のリスクは0.92と微妙です。しかし、絶対リスク減少はというと0.51%です。NNT=196です。196人にアスピリンを投与して1人に利益があります。心血管疾患のリスクの高い人ですらこの数字です。大出血アウトカムはどうでしょうか。ハザード比1.41となりました。絶対リスク増加0.64%であり、NNH=152です。またもや大出血のリスクの方が高くなってしまいました。

だったら、飲まない選択が一番です。漫然と予防の薬を飲むのはやめましょう。出血のリスクがほんの少し増加する覚悟で、ほんのわずかな利益を得るかもしれない薬を飲む必要がありますか?処方する医師もこの説明が必要でしょう。

「Association of Aspirin Use for Primary Prevention With Cardiovascular Events and Bleeding Events: A Systematic Review and Meta-analysis」

「一次予防のためのアスピリン使用と心血管イベントおよび出血イベントとの関連:システマティックレビューとメタアナリシス」(原文はここ

2 thoughts on “心血管疾患のリスクと大出血のリスク あなたはどちらを選びますか?

  1. 私は冠動脈にステントを1本入れているため、医者の指示に従いバイアスピリンを飲んでいますが、効果と副作用を考えるとこの薬を服用していくのか疑問に思っています。この薬は消化器官の出血の他にもアスピリン喘息など重篤な副作用がありますから、安いからと安易に飲むべき薬ではないと承知しています。
    私の場合はバイアスピリンを服用してアルコールを摂取すると咳がでるので、好きだった酒は飲んでいません。好きな酒もやめてあまり効果の無い、むしろリスクの方が大きい薬を毎日義務的に飲んでいるとしたらなんだかばかばかしいですね。

    1. ゆでたまごさん、コメントありがとうございます。

      ステント入っているなら、バイアスピリンは致し方無いと思います。

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