糖尿病のコントロールの指標として、HbA1cが使われています。なぜかHbA1cがゴールデンスタンダードになってしまっています。この値に一喜一憂している人もいるかもしれません。
HbA1cは過去1〜2か月間の平均的な血糖の状態を示すと言われています。血液中のブドウ糖がヘモグロビンとくっつくと糖化ヘモグロビンになります。血糖値が高いほどヘモグロビンに結合するブドウ糖の量が多くなり、一旦糖化したヘモグロビンは、赤血球が寿命になるまでそのままです。その赤血球の寿命はおよそ120日と考えられています。
もし、何らかの影響で赤血球の寿命が短くなれば、HbA1cの値にも影響があり、実際よりも低く出てしまいます。逆に寿命が延びれば、その分HbA1cは高めに出ます。
さて、問題なのは糖尿病でこの赤血球の寿命がどうなのか?ということでしょう。
例えばこの症例報告(ここ参照)では、2002年初診時、空腹時血糖は 169mg/dLと糖尿病型であったのに、HbA1cは5.4%でした。2008年も空腹時血糖値が高値だったのに、HbA1c は 6.1でした。持続血糖モニターの平均血糖値は 186mg/dLで、この値より推測した HbA1c は8.4なのに、実測 HbA1c は 5.9でした。赤血球の寿命を測定したところ、この患者の赤血球寿命の平均は 34.2 日でした。
これほど極端に赤血球の寿命が短くなると、 HbA1c は8.4が5.9と示されてしまうわけです。
ある研究(ここ参照、図もここより)で、416人の2型糖尿病患者の赤血球寿命を調べました。
上の図の横軸が赤血球寿命です。一般的に考えられている寿命の120日よりも長い人もいますが、どちらかと言えばそれよりも短い人の方が多いですね。中には50日を下回る人もいます。逆に200日を超える人もいます。
ヘモグロビン糖化変動指数(HGI)は、HbA1c測定値と推定値との乖離を評価するための重要な指標であり、HGI = 測定HbA1c – 推定HbA1c(eHbA1c)として計算されます。その変曲点は66日でした。66日以下になると、HbA1c値の過小評価を引き起こす可能性が高くなります。
66日以下の人は19%もいました。赤血球寿命が90日以上だったのは47.6%と半数以下でした。
上の図のように、赤血球寿命が90日未満のグループのAG(平均血糖値)およびeHbA1c(推定HbA1c)値は、正常(90日以上)な赤血球寿命のグループと比較して著しく高くなりました。66日以下では平均血糖値が最も高いのに、HbA1cは最も低く、-0.855も過小評価していました。
赤血球寿命が短くなると、実際よりも2型糖尿病患者では血糖コントロールが不十分になり、慢性合併症を発症するリスクが高まる可能性があります。赤血球寿命が90日未満の場合、心血管疾患疾患の可能性が1.865倍、末梢神経障害は1.599倍と、リスクが著しく上昇しました。
同じグループの研究(ここ参照、図もここより、表もここより改変)で、測定したHbA1cが7%未満の患者326人を、赤血球寿命が90日未満のグループと90日以上のグループの2つに分けました。
赤血球寿命が90日未満の患者では平均赤血球寿命は70.0±15.8日であったのに対し、赤血球寿命が90日以上の患者では平均赤血球寿命は119.8±23.5日でした。
| パラメータ | 合計 | 赤血球の寿命は90日未満 | 赤血球の寿命は90日以上です。 |
|---|---|---|---|
| ヘモグロビン(g/L) | 142.2 ± 18.6 | 144.1 ± 20.4 | 143.5 ± 15.1 |
| 平均血糖値(mmol/L) | 8.07 ± 1.48 | 8.30 ± 1.50 | 7.74 ± 1.06 |
| 空腹時血糖値(mmol/L) | 7.20 ± 1.47 | 7.41 ± 1.76 | 6.88 ± 0.92 |
| 食後2時間血糖値(mmol/L) | 9.20 ± 1.43 | 9.61 ± 2.12 | 8.80 ± 1.34 |
上の表のように、同じHbA1cが7%未満だと測定されたのに、赤血球寿命によって、実際には大きく異なります。(日本の血糖値の単位にするには18をかけてください。)
平均血糖値は149mg/dL対139mg/dL、空腹時血糖値は133mg/dL対124mg/dL、食後2時間血糖値は173mg/dL対158mg/dLで、どれも赤血球寿命が90日未満のグループの方が明らかに高くなっています。
上の図のように、血糖値の測定からの推定糖化ヘモグロビン(eHbA1c)は赤血球寿命が90日未満だと、eHbA1cが7%以上なのは33.87%にもおよび、90日以上の12.50%よりもかなり多くなります。つまり、赤血球寿命が短いとHbA1cは過小評価される可能性が非常に高くなるのです。
別の研究を見てみましょう。(ここ参照)38人の糖尿病患者と40人の健康な人の赤血球寿命と年齢や血糖との関連を調べました。
上の図は、横軸が年齢で縦軸が赤血球寿命です。年齢とともに赤血球寿命は低下していきます。50歳にもなれば100日を切るような感じですね。ただ、ばらつきも大きいです。30代なのに赤血球寿命が50日ほどの人もいます。逆に170日くらいの人もいます。
上の図は横軸が空腹時血糖値です。日本の単位にするには18をかけます。血糖値が5mmol/L、つまり日本の単位だと90mg/dL付近にいっぱい点が集まっていますが、健康な人はこの血糖値の付近にあるはずです。赤血球寿命が170日くらいの人もここにいます。赤血球寿命が50日くらいの人は、空腹時血糖値が15mmol/L(270mg/dL)を超えてしまっています。ただ、中には空腹時血糖値がかなり高いにも関わらず、赤血球寿命が正常の120日くらいの人もいます。
全体的に考えれば、空腹時血糖値が高いほど、赤血球寿命は短くなります。
上の図は横軸がHbA1cです。空腹時血糖と同様に、HbA1cが高いほど赤血球寿命は短くなります。しかし、やはりばらつきが大きいですね。
血糖コントロール不良で入院した、2型糖尿病患者31人を対象にした研究(ここ参照、図もここより)を見てみると、治療により、血糖値が改善されると、赤血球の寿命は延びていきます。
上の図はAの赤が食後2時間血糖値、緑が空腹時血糖値、青がHbA1cです。左がベースライン、真ん中が退院時、右は退院3か月後です。ベースラインのHbA1cは10.2%で、退院後 3 か月の HbA1c値は 6.6%とかなり改善しています。
図のBは赤血球寿命です。入院時の87日から退院時で106日、退院3か月後で111日と増加しました。
腎臓の機能が悪くても、赤血球の寿命は短くなります。(ここ参照、図もここより)
上の図は慢性腎臓病(CKD)のステージと赤血球寿命との関連です。ステージが進むと赤血球寿命が短くなるのがわかります。CKDステージ 1~5 の赤血球寿命は、それぞれ 122 日、112日、90日、88日、60日です。
そうすると、血糖値が高く、腎機能の悪い人では、赤血球寿命がかなり短くなっているかもしれません。そして、その人のHbA1cはかなり過小評価されてしまいます。
逆に糖質制限をしていると、なぜか普段の血糖値が下がっているのに、HbA1cが思ったほど下がらず、または逆にちょっと上がってしまう人もいます。
それは、この赤血球寿命で説明がつきます。糖質制限をすると、酸化ストレスも低下し、赤血球の寿命は長くなる可能性が高くなります。120日をゆうに超えてしまうかもしれません。そうすると、どうしても段々と糖化はしてしまうので、自然にHbA1cが高くなってしまうのです。糖質制限の場合は過大評価してしまう可能性も十分にあるのです。
ただ、上のいくつかの研究で見るように、かなりの個人差が存在します。
赤血球の寿命も考えない、HbA1cの値で一喜一憂する必要はありません。こんないい加減な検査で、糖尿病はコントロールされてしまっているのです。これも糖尿病の医療の闇でしょう。
血糖値コントロールが悪い、糖質過剰摂取の人は、実際のHbA1cは測定値よりも1以上高いかもしれません。それよりも、フリースタイルリブレ、空腹時血糖、食後血糖、そして空腹時インスリン値で自分の状態を知った方が良いでしょう。







