高タンパク質摂取による有害性は? その2

人間だけでなく、生物には寿命があります。寿命を全うする前に老化というものがあります。老化の前には成長というものがあります。つまり、人間は生まれた後、成長し、老化し、死ぬのです。

成長の延長線上に老化というものがあります。また、がん化も成長の延長線上にあると考えられます。人間はある程度成長したら、その成長速度を緩めて、老化をゆっくりにして、寿命を延ばすようにできています。その成長をコントロールしている中心にあるものの一つがmTORというタンパク質です。

タンパク質を構成しているアミノ酸、ロイシン(BCAAの1つ)はmTORの合成を促進します。もちろん糖質摂取でもmTORは合成が促進されます。このmTORはオートファジーを抑制し、老化、がん化、がんの進展に寄与します。成長期には非常に重要なmTORの活性化ですが、成長の延長線上に老化があるのです。 つまり、体にすごく良いことが起きているように思える高タンパク質ですが、若返っているのではなく、大人の人では老化やがん化を早めている可能性もあるのです。

成長段階であれば何も考えなくてもお肌の状態は良く、傷もすぐに綺麗に治っていたと思います。大人になったときにお肌の状態があまり良くなくなってくるのも、傷の治りが遅くなるのも、mTORの活性が段々と低下し、細胞の増殖がゆっくりとなるからだと考えられます。高タンパク質摂取でmTORが活性化され、タンパク質の代謝回転が上がり、細胞の分裂、増殖が多くなると、確かにお肌の状態が良くなったり、傷の治りがよくなったり、と色々良いことと思われることが起きます。しかし、これは大人にまで成長した人間が生き延びるために、優先順位として比較的低い部分までタンパク質の代謝回転が増加したことを意味します。お肌が綺麗か、傷は綺麗かなどは生命に関係しないのです。

加齢性の変化に抗うことは、短期的には満足度が高いでしょう。テロメアという細胞の分裂があとどれぐらい可能かを示すDNAの先端にくっついているものがあり、それがどんどん短くなって最後には細胞分裂が行われなくなります。そしてテロメアの長さが細胞のレベルでの老化と関連があると考えられています。mTORを活性化させて、細胞分裂をどんどん進めるということは、このテロメアをどんどん短くしていってるとも考えられます。

人間は体の成長が終わった後は徐々に成長(老化)のスピードを低下させ、テロメアを使い切らないように自然と調整しているのです。それを無理やり若い時のようにmTORを活性化させると、長期的には老化や寿命が早く訪れる可能性があるのです。テロメアという回数券を早く使い切るか、ゆっくりと使っていくかの違いでしょう。

プロテイン飲料は非常に強くmTORを活性化してしまいます。(図はこの論文より)

上の図はmTORの活性化を示しています。左端が何もしていない状態。その次から2つのバーはアルコール摂取+炭水化物摂取の後2時間と8時間後、その次がアルコール摂取+プロテイン摂取の2時間ごと8時間後、その次がプロテインのみ摂取の2時間ごと8時間後です。ちなみにプロテインの量は25gです。そうすると、プロテイン摂取の2時間後に大きくmTORが活性化されているのがわかります。アルコール摂取はそのmTOR活性化を抑制しています。このことが、もしかしたら適度なアルコールの健康面への有益な効果のメカニズムかもしれません。また、トレーニング後にアルコールを飲むと筋肉の増強効果が弱くなるとも言えます。

プロテイン飲料は液体であり、食事での肉などのタンパク質よりも吸収が早いと考えられます。そうすると、急速に血中のアミノ酸濃度が高まり、mTORをより強く活性化する可能性があります。

体のタンパク質合成はmTORにより促進されます。筋肉が増加したり、傷が治ったりするのも、mTORが活性化して、タンパク質合成が促進されるからです。mTORの活性化はアミノ酸でもインスリンやIGF-1などの成長因子でも起きます。つまり、糖質とタンパク質による細胞の信号伝達、作用はよく似た部分があるのです。

肝臓でmTOR活性が低下すると、肝臓でのケトン体産生を起こし、逆に、肝臓でmTORを過剰発現させるとケトン体産生は阻害されると考えられています。すい臓のβ細胞でmTORが活性化すると、β細胞の数やサイズが増加し、インスリン分泌が促進されますが、慢性的にmTOR活性化が続くとβ細胞は疲弊し、2型糖尿病発症を引き起こすと考えられています。だから、糖尿病の人が過剰にタンパク質を摂取し、mTORを過剰に活性化することは、β細胞にも悪影響がある可能性があります。(前回の記事「高タンパク質摂取による有害性は? その1」参照)

タンパク質、アミノ酸の中でもmTORを活性化するのはロイシンなので、BCAAを追加で大量に摂取することはあまり良いことではない可能性はあります。ランナーやアスリートには人気ですが、私は使っていません。

最近、若いアスリートにがんが多いような気がします。実際にはどうなんでしょう。(それは次回以降に)

私自身は別に長生きしたいわけではないので、それほど高タンパク質を気にはしていません。がん化に対しても、恐らくは糖質よりは起こる可能性が低いのでは?と勝手な解釈をして、気にしていません。タンパク質はいくら私がたくさん摂っていても200gにもなりません。せいぜい120~150g程度です。糖質過剰摂取時代は糖質だけで300~400g摂っていたかもしれません。それにプラスタンパク質ですから、mTORに対する刺激も今の3倍以上にになっていたと思っています。

ただ、むやみな過剰摂取はやはり止めといた方が良いでしょう。運動もしていないのであれば、2g/kgもいらないでしょう。

「mTOR Signaling in Growth Control and Disease」

「成長制御と疾患におけるmTORシグナル伝達」(原文はここ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です