以前の記事「Lp(a)低下薬の失敗は何を意味するか?」で書いたように、ノバルティス社はLp(a)低下薬の治験に失敗しました。それに続いて、今度はノボノルディスク社の治験も失敗して中止になりました。(ここ参照)
「デンマーク製薬大手ノボノルディスクは7日、開発中の心血管系治療薬「ジルチベキマブ」について、心不全患者を対象とした同薬の追加の臨床試験2件を予定より早く中止したと発表した。主力製品の肥満症・糖尿病治療薬以外への事業多角化を目指す同社にとってさらなる打撃となった。
同社は7月に、ジルチベキマブはプラセボ(偽薬)群と比較して、死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中を含む重大な心血管有害事象のリスクを低減できなかったと発表していた。
広報担当者は、独立したデータ監視委員会が、いずれの試験も、先に失敗に終わった試験と異なる結果をもたらす「可能性は低い」と判断したため、両試験を中止したと述べた。」
ジルチベキマブという薬は、免疫応答や炎症反応の調節に重要な役割を果たすインターロイキン6(IL-6)を下げる薬です。その薬のZEUS試験(詳しくはここ参照)というものが行われていましたが、その前の第Ⅱ相試験のRESCUE試験(カッコ良さそうな試験の名前ですね。ここ参照)では、中等度から重度の慢性腎臓病、および高感度CRPが2 mg/L以上の参加者264人を対象としました。ジルチベキマブによる12週間の治療後の高感度CRPのベースラインからの変化率を分析しました。
ランダム化から12週間後、高感度CRPの中央値は、プラセボ群の4%と比較して、7.5mg群で77%、15mg群で88%、30mg群で92%減少しました。IL-6を標的とした薬で、見事に炎症を示すCRPが90%前後も低下したのです。すごいですね!
でもマーカーのCRPが下がって喜んでいて良いのでしょうか?
そこで、心筋梗塞や脳卒中が減るだろうと、第Ⅲ相試験のZEUS試験が行われました。アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、慢性腎臓病(CKD)、全身性炎症(hsCRP値が2 mg/L以上)を有する患者6376人を対象に、ジルチベキマブによるIL-6阻害の安全性と有効性を調べたのです。その結果、ジルチベキマブはプラセボ群と比較して、死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中を含む重大な心血管有害事象のリスクを低減できなかったのです(ハザード比、0.99;95%信頼区間、0.88~1.11)。(ここ参照)さらに有害事象については、全体的な発生率はプラセボと同程度でしたが、IL-6阻害を標的とした治療であることから、ジルチベキマブ投与群ではプラセボ投与群と比較して重篤な感染症の発症率が高かったのです。ダメじゃん!全死因死亡率に差は認められませんでした。
IL-6は確かに免疫応答や炎症反応に重要な働きをしているでしょう。しかし、それは人間の身体のメカニズムのほんの一部です。それさえブロックすれば健康になれるわけがありません。そして、何かを阻害したり、何かを強く促進したりすれば、他の代謝や反応に歪みが生じる可能性も高いのです。人間の身体は超複雑系であり、製薬会社や専門家がわかっていることはほんの一部のことでしかありません。
スタチンのように、LDLコレステロールを下げようとすれば、筋肉に大きな影響を及ぼし、糖尿病リスクや認知症リスク、そしてがんのリスクまで高くなる可能性があるのです。
炎症は非常に重要ですが、それは原因ではなく、結果です。炎症が心血管疾患を引き起こすわけではありません。もちろんコレステロールが心血管疾患を引き起こすわけでもありません。炎症が起きる根本原因があるのです。それを治療せずに、起きた現象だけ、変化した数値だけ改善したように見せかけても、病気は改善しないということがよくわかります。
ちなみに、Lp(a)低下薬の治験に失敗したノバルティス社は、1型筋強直性ジストロフィー(DM1)治療用の治験薬「デルデジラン(del-desiran)」の第III相臨床試験でも失敗しました。主要評価項目を達成できなかったのです。(ここ参照)
Lp(a)低下薬と共に、IL-6阻害薬のジルチベキマブの誕生を心待ちにしていた専門家の人も多いでしょう。残念でしたね。
遺伝的な疾患は別として、健康のために、毎日の食事に気をつけ、運動をしましょう。