先週の週末、循環器や脂質異常の専門家たちはSNSで大騒ぎでした。その理由は、登場間近だと思われていた、Lp(a)低下薬のペラカルセンの第III相試験、Lp(a)HORIZON試験が大失敗に終わってしまったからです。(ここ参照)
この第III相試験は、リポタンパク質(a)(Lp(a))が上昇した患者で、既存の心血管疾患を有する患者に対し、Lp(a)低下薬のペラカルセンまたはプラセボを投与しました。(詳しい内容はここ参照)Lp(a)値が70 mg/dL以上である8,323人の患者を対象としていました。主要エンドポイントは、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、および入院を要する緊急冠動脈再血行再建の複合したものです。
そして、9月4日にノバルティス社は、ペラカルセンがプラセボと比較して心血管イベントリスクを低減するという主要エンドポイントを達成しなかったと発表したのです。
第Ⅱ相試験では、ペラカルセンは、用量依存的にLp(a)を有意に減少させ、20mgを4週間ごとに投与した場合の平均減少率は35%、40mgを4週間ごとに投与した場合の平均減少率は56%、20mgを2週間ごとに投与した場合の平均減少率は58%、60mgを4週間ごとに投与した場合の平均減少率は72%、20mgを毎週投与した場合の平均減少率は80%であったのです。つまり最大では80%もLp(a)を低下させるような薬です。
循環器業界では、新たに儲けられる薬の登場を心待ちにしていたはずです。専門家たちは、本気でLp(a)が心血管疾患の原因、リスクを大きく上げる因子だと思っていた人も多いでしょう。中にはそう思っていなくても、ビジネスのために期待していた人もいたでしょう。
このサイトの記事(ここ参照)によると、ある専門家は、「実際に使えるようになるかは、第3相試験の結果次第。試験でASCVDリスクの有意な抑制を示せるかにかかっている」としつつも、 「Lp(a)高値がASCVDのリスクであることは分かっていたが、効果的な介入手段がなかったため今まで放置されてきた。Lp(a)低下薬が承認されれば、早期の段階からLDLコレステロール(LDL-C)とともにLp(a)を測定して、高値ならLp(a)低下薬も併用するという治療アルゴリズムになるだろう」と大きな期待を寄せていたことがうかがえます。準備万端、あとは試験の結果を待つだけ、という状態だったでしょう。
でも、ペラカルセンによりLp(a)レベルが低下したにもかかわらず、心血管イベントリスクはプラセボと変わりがなかったということなのです。もちろん、まだ詳しい結果が発表されているわけではありませんが、失敗であることは確実です。
現在、Lp(a)低下薬の他の薬も複数開発されて、2種類が第III相試験中です。今回の結果を受けて、どのようにデータを操作して、エビデンスを作り出そうとするのか、それともちゃんと失敗を認めることになるのか?今回の結果を考えれば、たとえリスク低下がわずかに認められたとしても、ほんのわずかな統計学的な有意差を使って、絶対リスクではなく、相対リスクで大きく見せるしかないでしょう。
今回も上手くいったように見せると思っていました。(「医療によるLDLコレステロール攻撃の次の標的はLp(a)」参照)恐らく、良いデータが得られることを確信していた専門家は多いでしょう。そして、(私はもちろん参加していませんが)今年の循環器や脂質系の学会ではLp(a)やLp(a)低下薬についての講演がいくつかあったんではないかと想像します。
ほとんどが遺伝で決められているというLp(a)ですが、そんなことはありません。下の図は私の人体実験です。(「5日間の高脂肪高エネルギー食負荷試験(人体実験) その2」参照)
私のLp(a)はベースライン時では24.5あったのですが、高脂肪食を食べ始めてどんどん低下し、5日後には9.2まで低下しました。
また「Lp(a)に対する食事や運動などの影響」にも書いたように、飽和脂肪酸摂取を大きく減らすと、24%もLp(a)が増加します。活動性についても活動性が高い方がLp(a)が高くなりますし、マラソンのトレーニングを行うと、どんどんLp(a)が上がってしまいます。
Lp(a)が遺伝的に決まっているというのもウソですし、心血管疾患の原因であるというのもウソです。
Lp(a)低下薬の失敗は何を意味するか?
Lp(a)の数値を80%も低下させても、心血管イベントは減らせませんでした。誰が考えてもわかります。それはLp(a)が心血管イベントを起こしているわけではないということを。小学生でもわかるでしょう。今後の他も臨床試験の結果によっては、Lp(a)が消え去る可能性もあるでしょう。
ただ、今のガイドラインはLp(a)が超悪玉の扱いです。(ここ参照、下の表はここより改変)
| Lp(a)濃度 nmol/L (mg/dL) | 動脈硬化性心血管疾患相対リスク: 中央値(20 nmol/L、7 mg/dL)と比較して増加 |
|---|---|
| 430 nmol/L (180 mg/dL) | 4倍 |
| 350 nmol/L (150 mg/dL) | 3倍 |
| 250 nmol/L (100 mg/dL) | 2倍 |
| 125 nmol/L (50 mg/dL) | 1.4倍 |
| 75~124 nmol/L(30~49 mg/dL) | 1.2倍 |
| <75 nmol/L (<30 mg/dL) | 1 |
確かに、上の表のようなデータを出している研究はあります。ただ、これも相関関係なのか因果関係なのかは、わかりません。Lp(a)が高いような状態、食事が悪いのか、そもそもLp(a)は原因の一つなのかわからないのに、犯人扱いです。Lp(a)を下げてもリスクが下がらないので、犯人ではないです。
さらに、上の表をグラフにすると下の図のようなのです。(図はここより)
上の図は生涯の累積の主要な心血管疾患イベントの発生率です。Lp(a)が350 nmol/L (150 mg/dL)(一番上の赤い線)では、確かに他の値のグラフよりも発生率は高いですが、縦軸を見ると、70歳付近でも0.3%程度?。緑色の線が70歳付近で0.1%程度?ミスプリでしょうね。恐らく30%と10%が正しいでしょう。でも、これもLp(a)を下げれば、リスクが下がる証拠にはなり得ません。
さらに、Lp(a)値で興味深いのは、「ますます怪しいリポタンパク質(a)Lp(a) 糖尿病との関係」でも書いたように、Lp(a)が高い方が糖尿病やインスリン抵抗性などが起きにくいのです。Lp(a)が低くなると、糖の代謝異常が起きやすくなるのです。糖質制限でLDLコレステロールが増加することと似ています。
ただ、この臨床試験の失敗でますます、LDLコレステロールへの執着が強くなる気がします。LDLコレステロールを下げる薬はいっぱいありますから。Lp(a)は測定しておいて、それが高値であれば、危険だからLDLコレステロールをもっと下げなければならない!という方向に行きそうです。心配です。
私の最新のLp(a)値は、29.7mg/dLです。だからどうした?この数値を気にしたことはありません。
根本原因はそのままで、単なるマーカーの数値を整えて儲けようとする医療業界、相変わらず懲りませんね。



「根本原因はそのままで、単なるマーカーの数値を整えて儲けようとする医療業界、相変わらず懲りませんね。」
新たな「飯のタネ候補」が否定されてしまいましたね、残念でした。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
まだ油断はできません。データは製薬会社が握っていますから。