ウイルスや細菌が原因と考えられているがんは本当にウイルスや細菌のせいなのか? その2 C型肝炎ウイルス①

その1」では、ヘリコバクター・ピロリと胃がんについて書きました。今回は肝炎ウイルスと肝臓がんの関連についてです。

東京慈恵会医科大学外科学講座のホームページには次のように書かれています。(ここ参照)

わが国の肝細胞癌の原因には、その約90%が肝炎ウイルス、すなわちB型やC型肝炎ウイルスが関与し、その内訳はC型肝炎ウイルス(HCV)が約70%、B型肝炎ウイルス(HBV)が約20%です。肝炎ウイルスが肝臓に持続的に感染することで肝炎(慢性肝炎)が起こり、肝臓の正常な細胞が死滅・再生を繰り返し線維化が進行します。この線維化が高度となると肝硬変となります。このような線維化の過程でがん遺伝子やがん抑制遺伝子の影響を受けて、肝細胞癌が起こるといわれています。

つまり、日本の肝臓がんの70%はC型肝炎ウイルス(HCV)によるものです。なので、まずはC型肝炎ウイルスについて見ていきましょう。

B型肝炎ウイルス(HBV)は、肝細胞の突然変異を促進して肝細胞がんを引き起こす慢性壊死性炎症性疾患を誘発するDNAウイルスです。HBVキャリアの腫瘍組織を評価すると、HBV DNAがゲノムに組み込まれていることが多いそうです。しかし、HCVは宿主のゲノムに組み込まれないRNAウイルスであり、したがって腫瘍形成の主要な開始因子である可能性は低いのです。

そう考えると、ピロリ菌と同様に、発がんには共因子が必要になると考えられます。HCV関連肝臓がん症例の約90%は肝硬変が認められるので、HCVは反復的な損傷、再生、線維化を通じて腫瘍形成を促進する可能性が高いと考えられます。そうすると、肝臓の繊維化、肝硬変を促進する因子も重要です。

過度のアルコール摂取は肝臓がんのよく知られた危険因子ですが、少量の摂取の影響はそれほど徹底的に調査されていません。前向き研究のメタアナリシス(ここ参照、図もここより)では、多量のアルコール摂取(1日3杯以上)は肝臓がんリスクを16%増加させることと関連していました。確かに関連していますが、たった16%の増加です。ただ、飲む量が増えるほど、リスクは上がります。

 

 

上の図のように、25gのアルコール摂取では肝臓がんリスクは 1.13倍、50gの場合 1.29倍、75gの場合 1.46倍、100gでは1.66倍でした。

少量の摂取(1日3杯未満)との関連はありませんでした。しかし、アメリカのプロジェクトでは、非飲酒者を除外した後でも、少量の摂取(1日3杯未満)は肝臓がんのリスクを有意に低下させることと関連していることがわかりました。ただし、この関係は糖尿病の状態によって異なり、糖尿病患者では少量の摂取との関連はなかったが、糖尿病でない人ではリスクが35%低下したのです。

メタボリックシンドロームと肝臓がんのリスクを分析したメタアナリシスでは、メタボリックシンドロームは81%のリスク増加と関連していました。

他の研究(ここ参照、図もここより)では、下の図のように糖尿病は肝臓がんのリスクを大きく増加させ、2.13倍になりました。追跡期間が10年以上だと糖尿病は肝臓がんのリスクは2.41倍になりました。

 

 

血糖値と肝臓がんリスクのメタアナリシスも見てみましょう。(ここ参照)

 

 

上の図は、空腹時血糖値と肝臓がんのリスクの関連を示しています。肝臓がんのリスクは、空腹時血糖値が10 mg/dL増加するごとに1.11 倍になり、(95% CI: 1.06, 1.17; I 2 = 78.30%、P < 0.001)であった。117 mg/dL以上にまで上昇すると有意になり始めました。

B型肝炎およびC型肝炎ウイルス感染があると、血糖値が高い場合、肝臓がんのリスクは2.48倍になりましたが、ウイルス感染がなくても、1.64倍になりました。

75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行った研究(ここ参照、図もここより)では、インターフェロン治療を受けたHCV陽性患者203人を対象としました。13人が肝臓がんになりましたが、後に肝臓がんになった人は肝臓がんになっていない人と比較して、OGTTで血糖値が30分以降、120分でも増加しました。

 

 

上の図はOGTTの推移です。左が血糖値、右がインスリン値です。インスリンは30分値のみ肝臓がん群で高くなっています。120分値で200mg/dLの血糖値のある人では、肝臓がんのリスクが6.9倍になりました。

さらに、糖尿病は、抗ウイルス療法でHCVの排除後、肝硬変を伴わない慢性C型肝炎患者における肝臓がんのリスクを4.32倍も高めました。(ここ参照)

C型肝炎の重症度を表す肝臓の線維化が進行するほど肝臓がんの発症リスクが高まります。では、肝臓の繊維化、肝硬変と糖質過剰症候群との関連を見てみましょう。

ある研究(ここ参照、図もここより)では、C型肝炎の軽度の線維化患者と重度の線維化患者では、下の図のように、有意に重度の線維化の方がインスリン抵抗性が高くなっていました。

 

また、ある研究(ここ参照)では、慢性C型肝炎で糖尿病と高中性脂肪血症がない人と比較して、糖尿病と高中性脂肪血症が合併する人は、9.643倍も肝硬変に進行するリスクが高くなります。また、糖尿病と肥満がない人と比較して、糖尿病と肥満が合併する人は、3.962倍も肝硬変に進行するリスクが高くなります。

他の研究(ここ参照)でも、重度の線維化と有意に関連していたのは、高齢で2.675倍、肥満で2.156倍、2 型糖尿病はなんと8.739倍でした。

糖質制限(ケトン食)は肝臓の脂肪を減少させ、炎症も減少させます。そうすると、恐らく肝臓の線維化も改善するでしょう。非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対し、20%の炭水化物というかなり甘い糖質制限を行っても、半年ほどで、Fib-4 スコア(肝線維化を予測するスコア:1.3未満が肝線維化の可能性が低い状態)は2.25から1.40と有意な改善を認めました。(ここ参照)

つまり、C型肝炎ウイルス感染は確かに、肝臓がんのリスクを上げますが、その背景または共因子として、糖質過剰摂取による高血糖、インスリン抵抗性などが大きくかかわっている可能性が非常に高いと思われます。

糖尿病にはなっていなくても、糖質過剰摂取による影響は甚大でしょう。もしかしたら、C型肝炎ウイルス感染していても、糖質制限をしていれば肝臓がんにはならないのではないかと思っています。まだ、エビデンスはありませんが。

「Epidemiology of Hepatocellular Carcinoma」

「肝細胞がんの疫学」(原文はここ

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