早くも四万十川ウルトラマラソン(「ドクターシミズのウルトラランナーへの道2026秋 第32回四万十川ウルトラマラソン」参照)から1週間が経ちました。あんなに苦しかったのに、もう次のウルトラを走りたくなっています。時間とお金をたっぷり使って、観光もせず終わったらとんぼ返り、疲れ果て、あちこち痛くなるのに、また走りたい。ウルトラマラソンの沼は深いですね。
恐らく、オアシス効果のような感じなのかもしれません。ウルトラマラソンは非常につらいです。しかし、走っているとエイドが見えてきます。砂漠の中のオアシスのように、そこにたどり着けば、何かが飲め、何かを食べることができます。精神的に非常に落ち着きます。苦しい後にオアシス、また苦しいときにオアシス。その連続が脳にドパミンを出すのかもしれません。そして、ゴール後の解放感。やっと終わった!ドパミンがドバッ!という感じで、また走りたくなるのでしょう。
さて、エネルギージェルを製造、販売している企業からすると、足りない足りない、と言い続け、もっともっと、と言えば儲かるでしょう。実際にマラソン中にエネルギーの枯渇を感じたら、エネルギージェルを補給したくなりますし、その前に補給をしようと計画します。つまり、どんどんランナーはエネルギージェルに依存するようになります。
最近の研究では、糖質(炭水化物)摂取量の上限は90g/hから120g/hに引き上げられる可能性があることが示唆されています。
でも、本当にそんなに頻繁にエネルギー補給が必要なのでしょうか?1時間に90gだとしても1時間にジェルを3~4個必要になります。4時間のランだとすると12~16個も摂らなければ走り切れないことになります。
私はフルマラソンでは、恐らく100g程度の糖質摂取です。4時間で100gだと、1時間にジェル1個で良い計算になります。
ウルトラマラソンでも200gも糖質を摂るかどうかです。もちろんジェルだけでなく給食(主に果物)や飲み物の糖質を合わせて200gです。今回の四万十川ウルトラマラソンの11時間40分の間に200gですから、1時間当たり17g程度。1時間でジェルを1個も必要としません。それでも、ゴールが見えてきたときにはラストスパートができました。
練習で50kmを走る場合は、エネルギー補給はゼロです。
例えば、ある研究(ここやここ)では、1時間あたり90gを超える炭水化物摂取は、グリコーゲンの維持に失敗するだけでなく、筋肉のグリコーゲンの分解を促進する可能性があることが示唆されています。
私の半分くらいの時間でゴールをしてしまうエリートランナーであれば、120gの糖質も効果があるのかもしれません。
全員が2時間30分より速いマラソン自己ベストを持つエリート男子ランナー8人を対象にした研究(ここ参照、図はここと原文より)
上の図は1時間に60g(B)、90g(C)、120g(D)の糖質を摂取したときのエネルギー消費量を示しています。図のAは総エネルギー消費量ですが、糖質摂取量による違いはありません。しかし、その中身は、●が糖質、○が脂肪のエネルギー消費量ですが、60gだと60分を過ぎたあたりから脂肪の燃焼の方が上回ります。90gだとほとんど終盤に脂肪の燃焼が上回ります。120gだと最後まで糖質がメインのエネルギー源のままです。
総エネルギー消費に対する摂取した糖質の寄与は条件間で有意に異なり、60gで43%、90gで51%、120gでは65%でした。
では、ランニングエコノミーを見てみると、下の図のように、120gのときは60gよりも3%ランニングエコノミーが向上していました。
それが実際のパフォーマンスの向上にどれくらい影響するのかはわかりません。さらに、60gと比較すると120g摂取では、有意に吐き気や腹部痙攣を起こしやすくなります。腹痛や吐き気は極端にパフォーマンスを落とします。
上の図は、エチオピアの男性マラソンランナー (A および B) と女性マラソンランナー (C および D)の糖質と脂肪のエネルギー源の割合です。男性ランナーでは、時速17キロというトップスピードではない場合では脂肪を45%程度も燃焼できます。さすがにレースペースの速い速度ではもう少し脂肪を使っていませんが、それでも10~20%程度の脂肪をエネルギー源にできるのです。
自分のレベルで考えないと、エネルギー源の割合はわかりません。しかし、我々市民ランナーが全力のギリギリで走り続けられることは少ないので、やはり、脂肪をエネルギーにする割合は高いでしょう。
ウルトラマラソンならなおさらです。(ここ参照)糖質制限に慣れたウルトラマラソンランナーの脂肪酸化率は、運動開始時にすでに1.2 g/分であり、3時間でも比較的変化しませんでした。糖質の酸化率も、運動期間中、約0.4 g/分でほぼ変化しませんでした。対照的に、糖質過剰食に慣れたアスリートの脂肪酸化率は、運動開始時に0.48 g/分から始まり、3時間の運動後にようやくピークの0.82 g/分に達しました。この間、糖質の酸化率は、1.75 g/分から始まり、180分後には1.15 g/分に低下しました。糖質制限のウルトラマラソンランナーが使用するエネルギーの84%以上は脂肪酸化によって供給されました。一方、糖質過剰摂取群では、運動開始時の総エネルギーのわずか38%しか脂肪酸化によって供給されませんでしたが、最終的には脂肪酸化は61%に増加しました。
クロスオーバーポイントとは、運動強度の増加に伴う糖質酸化の増加を指しますが、85%を超える運動強度では、脂肪酸化からエネルギーを得ることは不可能であると提唱されています。これが、高強度運動そして、長時間の運動中に発生する疲労の原因として、活動中の筋肉における筋グリコーゲンの枯渇が最も有力な説明です。逆クロスオーバーポイント(RCOP)は、長時間の定常状態の持久運動中に、運動強度が維持されているにもかかわらず、脂肪酸化によるエネルギーが糖質酸化によるエネルギーを上回る時点と定義します。(ここ参照)RCOPは、グリコーゲン利用可能性の低下、インスリンレベルの低下、および脂肪分解と脂肪酸化経路の漸進的なアップレギュレーションによって引き起こされる可能性のある、基質利用の時間依存的なシフトを反映しています。
つまり、市民ランナーの長時間のマラソン、特にウルトラマラソンでは、恐らく普段の食事に関わらず誰でも、後半には脂肪がメインネイルぎーになってくるでしょう。
さらに、61人の男性アイアンマン選手を対象とした研究(ここ参照)では、レースタイムと脂肪酸化の関係を調べました。
上の図のように、レースタイム(横軸)は最大脂肪酸化率(MFO)と最大酸素摂取量(VO2peak)と逆相関し、体脂肪率とは相関しました。つまり、最大脂肪酸化率が高い方がレースタイムが早く、体脂肪が少ない方がレースタイムが早いのです。最大脂肪酸化率と最大酸素摂取量でレースタイムの変動の50%を説明できるそうです。
ウルトラマラソンで制限時間ギリギリの完走を目指している場合、1kmを7.5分で走るとしても、最大酸素摂取量( VO2max)の45~55%の運動強度くらいの走りであり、糖質過剰摂取に適応しているランナーであっても、脂肪酸化によって必要なエネルギーのほぼすべてを提供できると考えられます。
ウルトラのエイドは楽しみです。ホッとします。オアシスです。そこで食べるものは格別です。でも、食べないとエネルギー切れを起こすと思い込み、強迫的に、無理にエイドで食べている人もいます。恐らくそれはマイナスでしょう。
食べなくても、身体の脂肪がランナーを助けてくれます。
胃腸に負担を強いてまでも無理に食べ物を詰め込む必要はありません。消化機能も落ちているのに、固形物はそれほど消化吸収ができないかもしれません。
無理のない程度にジェルを摂取すれば、ゴールは見えてくるはずです。
普段から、空腹ランをしていると、脂肪がエネルギー源になりやすくなると思います。糖質制限をしてケトランまで持っていくとさらに良いでしょう。
「From Metabolism to Medals: Contemporary Perspectives and Revisiting Carbohydrate Guidelines for Fueling Endurance Athletes during Exercise」
「代謝からメダル獲得まで:現代の視点と、運動中の持久系アスリートのエネルギー補給のための炭水化物ガイドラインの再検討」(原文はここ)




エネルギー代謝の問題もありますが、以前飴を舐めながらなど、糖質摂取しながら走る習慣はてきめんに歯を傷めました。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
アスリートは口腔内のトラブルは多いですからね