全身麻酔のときに、胃に食べ物が残っていると危険です。それを吐いてしまい、誤嚥を起こすリスクがあるからです。だから全身麻酔をする前には必ず絶食が必要です。現在では固形物は6時間前、水やお茶などの水分は2時間前まではOKですが、それ以降は絶飲食になるのが通常でしょう。
しかし、糖尿病や肥満のためのGLP-1受容体作動薬が登場して、問題が発生しています。GLP-1受容体作動薬は胃の運動を低下させ、内容物の排出時間を遅くして、胃内容物貯留のリスクを高めることが知られています。
今回の研究では、GLP-1またはGLP-1/GIP薬を飲んでいる60人を対象としています。今回は全身麻酔ではなく、上部消化管内視鏡検査の患者です。GLP-1を継続する群と、検査前に1回中止する群に分けています。臨床的に有意な胃残存量として、内視鏡検査を不可能にする、早期中止または気管挿管を必要とする、および/または誤嚥事象を引き起こし、長期の観察またはモニタリング、予定外の治療、または入院を必要とする胃内容物、と定義しています。
全ての患者は通常の絶食指示に従いました。上部内視鏡検査のみを受ける予定の患者は、前日(深夜0時まで)は通常の食事を続け、検査の2時間前までは透明な液体を摂取しました。一方、大腸内視鏡検査と上部内視鏡検査の両方を受ける予定の患者は、検査の24時間前から透明な液体食を摂取しました。
結果は驚くべきものです。(図は原文より)
上の図のように、濃い緑の介入群(薬を継続する群)と検査前の1回分の薬を中止する群では、大きな違いがありました。継続群では25.0%(28例中7例)に臨床的に意味のある胃の内容物を認めたのに対し、休薬群ではわずか3.1%(32例中1例)でしかありません。薬を中止せずに継続すると、有意に高頻度で危険な状態になる可能性があるのです。
そして、この中身を見てみると、上部の内視鏡と大腸内視鏡の両方を受けた患者群では、薬の継続群でも休薬群でも臨床的に意味のある胃の内容物は全例で認められませんでした。大腸内視鏡を行う場合、検査前日に透明な液体食を摂取し、腸管前処置を行うのが有効だったのでしょう。
しかし、上部消化管内視鏡検査のみの患者は、前日まで通常食です。現在の全身麻酔を受ける場合と同じです。その場合、薬の継続群の46.7%に臨床的に意味のある胃の内容物が認められたのです。およそ半数です。ちなみに中止群では5.6%でした。
我々麻酔科医がいつも恐れている誤嚥のリスク。
もう一つ見てみましょう。週1回のGLP-1受容体作動薬を使用している群と、私用していない群で、全身麻酔を受けて手術を行う124人が対象です。胃超音波検査で固形物、粘稠な液体、または1.5 mL/kgを超える透明な液体が認められる場合を胃内容物増加と定義しました。
GLP-1薬を使用している患者(曝露群)では胃内容物増加の有病率が56%(62名中35名)であったのに対し、GLP-1薬を服用していない患者(対照群)では19%(62名中12名)でした。曝露群の方が2.92倍胃内容物増加の有病率が高いのです。
薬剤中止期間が長くなるにつれて胃内容物増加の有病率が減少します(図は原文より)
上の図のように、最後の薬から1日だと、7割近い人が胃内容物が増加しています。しかし、7日経っても50%程度です。それほどまでに半減期が長い薬です。しかも、GLP-1薬群では22人 (35%)に固形物の残留を認めているのです。
糖尿病網膜症または糖尿病腎症の存在があると、さらに胃の内容物の増加のリスクが高くなるという研究もあります。(ここ参照)
日本麻酔科学会からは、確か、まだ何も声明が出ていないはずですが、私の病院ではかなり前から、GLP-1薬は最後の1回は中止にしています。しかし、学会から声明が出る前だと、多くの病院では、このGLP-1薬問題はスルーされている可能性があります。GLP-1薬を使っていて、手術や内視鏡を受ける人は十分に注意してください。
指示がなくても、自衛する手段はあります。
そして、そもそもGLP-1薬を使用しない食事をすることの方がもっと重要です。それは糖質制限です。
「Holding vs Continuing GLP-1/GIP Agonists Before Upper Endoscopy: The OCULUS Randomized Clinical Trial」
「上部内視鏡検査前のGLP-1/GIP作動薬の中止と継続:OCULUS無作為化臨床試験」(原文はここ)
「Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonist Use and Residual Gastric Content Before Anesthesia」
「麻酔前のグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬の使用と胃内容物残存量」(原文はここ)

