若年性のがんの発生率は世界的に増加している その2 コリバクチン産生大腸菌犯人説

以前の記事「日本人大腸がん患者の5割に腸内細菌の発がん毒素?」でも書いたように、大腸がんの発症に、腸内細菌の毒素であるコリバクチンが大きな影響を与えている可能性があるようです。大阪大学や東京大学などの研究グループが今回、さらに衝撃的(?)な発表をしました。(ここここ参照)

国内の大腸がん患者200人を対象に、大腸がんと大腸菌のコリバクチンによるDNAの損傷の痕跡を調べた結果、日本人全体の大腸がんの約45%でコリバクチンによるDNAの損傷が認められ、さらに、40歳未満で発症した若年性大腸がんについて調べたところ、約70%でコリバクチンによる変異パターンが認められた、とのことです。ただ、70%と書いてありますが、サンプルは10であるので、何とも言えないかもしれません。さらにさらに、コリバクチンによるこの変異パターンは1965年以降に生まれた世代で高い頻度で認められ、またコリバクチンによるDNAの損傷が見られる大腸がん患者では、発がんの最初期にできる遺伝子変異が10歳未満の幼少期に起きている可能性も示されたのです。

では、コリバクチン産生菌には、どこで感染してしまうのでしょうか?ある記事(ここ参照)によると、次のように書かれています。

「母親が非保菌者であれば子も非保菌者である。母親が保菌者でも、子は非保菌者である例がある。これは帝王切開のケースでした。すなわち、自然分娩の場合には産道感染することが示唆されます。
また、人工乳で育った子に感染者は少なく母乳で育った子の方が感染者が多いことも分かりました。帝王切開で生まれた子でも、母乳で育てると感染した例がありました。
継続的に調べると、生後1ヶ月で保菌者が27%になりました。これは、健康な成人における保菌者の割合と一致しています。つまり、コリバクチン産生菌は母子感染で、なおかつ生後1ヶ月で、感染・非感染が決まり、それ以降は変化しないことが明らかになったのです。」

では、帝王切開率を見てみましょう。ちゃんとした古いデータはありませんが、一部のデータ(ここ参照)によると、

「全国の病院・診療所における帝王切開率は、1984 年= 7.3%、2023 年= 23.0%である。1984 年以前については、ごく一部の医療機関に関するデータになるが、松岡(1999)が以下のように
まとめている。1927-45 年= 0.625%(東大病院)、1946-55 年= 2.17%(東大病院)、1956-61 年= 4.07%(東大病院)、1962-67 年= 10.6%(慶応義塾大学病院)、1970 年=約 5%、1975 年= 8.2%(東京オペグループ)」

そうすると、1965年ころの帝王切開率はまだ高くないものの、それ以前よりはかなり増加しつつあります。産道感染がメインであれば、1965年以前に生まれた人の方がこの大腸菌を保菌している人の割合が高くなっていてもおかしくありません。あとは母乳での感染ですが、ここによると、2015 年の乳幼児栄養調査では、国全体の生後 1 か月の母乳率は 51.3%と過半数を超えました。2024 年に公表された令和 5 年(2023 年)の乳幼児身体発育調査では 1 か月の母乳率は34.5%まで低下していました。またこのサイトの記事(ここ参照)によると、生後1か月健診時の母乳育児率(母乳だけで育てている人の割合)は、1960年に70.5%でしたが、1970年には31.7%まで低下しました。1980年には45.7%まで回復しましたが、その後20年以上変化のない時期が続き、2010年に51.6%とようやく半数を超えましたが、2013年度の調査では47.5%となっています。

母乳育児による感染を考えても、1965年以前の方が母乳率は圧倒的に多かったはずです。

また、以前の記事で採用した論文(ここ参照)でも、腸内細菌のコリバクチン毒素産生大腸菌を有する割合は、大腸腫瘍の症例群で32.6%、対照群で30.8% で差はありませんでした。大腸がんと食事要因との関連を見てみると、穀物を中央値を超える摂取量で摂取した人では、コリバクチン毒素産生大腸菌を有する人の大腸腫瘍の発生の可能性が1.66倍上昇と有意に関連していました。穀物を中央値以下の摂取量で摂取した人の間では、有意ではない逆相関が認められました。肉も乳製品も関連はありません。

西洋型の食事が原因であるという話が良く出てきます。そもそも西洋型の食事っていい加減な定義です。一般的には西洋型の食事は、赤身肉や加工肉、砂糖、精製穀物の摂取量が多く、野菜や豆類の摂取量が少ないことが特徴です。肉も糖質も超加工食品も一緒くたです。しかも食事の研究は、自己申告のいい加減なデータによる質の低い研究に過ぎません。

また、もしコリバクチンを産生する大腸菌が大腸がんの原因だったとしても、その大腸菌だけを取り除く方法は現在のところないです。約1000種類もあると言われている腸内細菌叢から、この大腸菌だけを殺すものを開発することはかなり難しいでしょう。新生児期から感染し、それががんになるまでには、この大腸菌を保菌していることだけが原因ではないと思われます。

サンプル数は少ないですが、大腸内視鏡検査中に、大腸洗浄液サンプルを98人の患者から採取した研究(ここ参照)があります。内訳は、大腸がん患者35人、腺腫患者37人、対照群26人です。コリバクチンを産生するpks+大腸菌の保菌率は、大腸がん患者で43%、腺腫患者では51%で、どちらも対照群の46%と有意差は認められませんでした。

腸内細菌の全体のバランスの中で、この大腸菌が蔓延る、毒性を悪化させる原因が問題です。

ある研究(ここ参照、図もここより)では、コリバクチンを産生するpks+大腸菌の保菌率を見ると、満期産児55人中31人(56%)とNICU乳児128人中85人(66%)が、生後2年以内に少なくとも1つのpks+サンプルを持っていました。下の図のように、母乳で育てられた満期産児では、6か月から12か月の間に38%でピークに達しましたが、その後減少し、NICUの乳児では、2か月時点での有病率は正期産児よりも有意に高く、保菌の可能性は3.02倍でした。

 

さらにNICU児は12か月以降も増加傾向にありました。当然、NICU児は帝王切開率が高く、80%が帝王切開で満期産児の2倍です。それなのに、この大腸菌の保菌率は高い。産道感染も本当かどうかはわかりませんね。

しかも、新生児の60%前後がpks+大腸菌を保菌していて、大腸がんの発症率をはるかに上回っています。これは、この大腸菌がほとんどの場合有害な影響を及ぼさずに、正常な発達中の腸内細菌叢の一部である可能性が高いと考えられます。これらの細菌を幼少期に保有することが、病原性コリバクチン発現につながる何かが必要でしょう。

興味深いことに、NICUの乳児では、生後30日以内に抗生物質を投与された乳児が、生後早期に抗生物質を投与されなかった満期産児群と比較して、非常に早期にコリバクチン遺伝子を保有しているというパターンが観察されました。抗生物質は腸内細菌叢のバランスを崩し、コリバクチン遺伝子を持つ細菌の過剰増殖を招く可能性があります。したがって、乳幼児期の抗生物質使用は、乳児の腸に定着する微生物の種類に影響を与える可能性があるでしょう。この大腸菌は抗生物質に耐性があり、死滅せず、逆にこの大腸菌を抑制する細菌が大きく減少するようなことになれば、コリバクチンが長い年月で大腸に有害性をもたらす可能性はあります。

一つ気になる研究があります。(ここ参照)オリゴ糖やイヌリンは大腸の善玉菌の栄養源になり腸内環境を整える働きがあると言われています。しかし、実験上では、ガラクトオリゴ糖およびイヌリンを添加すると、pks+大腸菌の増殖を促進し、コリバクチン関連遺伝子の発現を上昇させ、コリバクチン産生によって誘発されるDNA損傷を悪化させました。オリゴ糖はコリバクチン産生大腸菌の栄養源にもなるのかもしれません。

これは食事アンケートの質の低い研究(ここ参照)での結果と一致しています。オリゴ糖(フルクタンとガラクトオリゴ糖)の最も多い群では大腸がんのリスクが1.78倍でした。もちろん糖質過剰摂取の状態の研究なので、糖質制限ではどうなるかはわかりません。

日本での大腸がんは罹患数で男女とも第2位、死亡数では第1位です。日本の50歳未満の大腸がんの罹患率も増加しています。(データはここより)

 

上の図のように、男女とも20代から40代にかけての大腸がんの罹患率が増加しています。

アメリカはもっと顕著で、50歳未満の大腸がんによる死亡率のみが2005年以降、年間1.1%増加し、1990年から1994年までの5番目に多いがんから2023年にはがんによる死亡第1位へと上昇しています。(ここ参照)「Colorectal cancer statistics, 2026」によると、2013年から2022年の間に大腸がんの発生率は年間0.9%減少しましたが、これは65歳以上の成人で年間2.5%の減少が主な要因であり、対照的に、20~49歳の成人では発生率が年間3%、50~64歳の成人では年間0.4%増加しており、これは遠位結腸と直腸の腫瘍が大部分を占めています。

つまり、高齢者の大腸がんはどんどん減っているのに、若い世代の大腸がんがぐんぐん増加してしまっているのです。

大腸がんは肥満関連がんの一つです。以前の記事「肥満関連がんはより若い年齢層にシフトしている」 で書いたように、若い世代の肥満に関連したがんは増加しています。

糖質過剰摂取では、インスリンやインスリン様成長因子(IGF-1)を介して、大腸がんのリスクを高めると考えられます。もちろん、糖尿病は大腸がんのリスクを増加させるという研究はいくつもあります。

また、実験的には果糖は大腸上皮の代謝によって大腸がんの腫瘍形成および転移に関与しているという証拠があります。

ある研究(ここ参照)では、肥満があると、早期発症大腸がん全生存期間の悪化の可能性は6.63倍でした。

また別の研究(ここ参照)20~39歳の非常に早期発症の大腸がんの発症の可能性は、糖尿病で19.797倍、肥満で1.819倍、喫煙で2.675倍、非大腸がんの家族歴で7.333倍でした。また炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)または大腸がんの家族歴のある患者では非常に早期発症の大腸がんの発症の可能性が非常に高く、潰瘍性大腸炎で10.46倍、クローン病で10.69倍、大腸がんの家族歴で49.26倍でした。

クローン病ではインスリン抵抗性が有意に上昇していることを示す研究(ここ参照)、潰瘍性大腸炎においてインスリン抵抗性が増加することを示す研究(ここ参照)もあります。

ほとんどすべての疾患はつながっています。

コリバクチン産生大腸菌の保菌=大腸がんでは全くありません。しかも、この大腸菌を持っているかどうかなんて、コントロールできるものではありません。コリバクチンは関連している可能性はありますが、それが大腸がんになるには、恐らく糖質過剰摂取が最も影響していると考えます。

小さいころから何度も抗生剤を使っている人、炎症性腸疾患、大腸がんの家族歴、糖尿病、肥満のある若者は、すぐにでも糖質制限を始めましょう。

「Prevalence and chronology of colibactin-associated mutational processes and their microbiome spectra in Japanese colorectal cancer」

「日本人大腸がんにおけるコリバクチン関連変異プロセスの有病率と経過、およびマイクロバイオームスペクトル」(原文はここ

One thought on “若年性のがんの発生率は世界的に増加している その2 コリバクチン産生大腸菌犯人説

  1. 『ダイエットの科学』
    (ティム・スペクター著)
    肥満や糖尿病、抗生物質と、
    (意外と健康に影響が大きい)
    腸内細菌の関係が詳しく
    記載されていました。

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