医療業界ではGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬への称賛が止まりません。心保護効果、腎保護効果……。本当でしょうか?
特に最近はGLP-1受容体作動薬の効果が派手に宣伝されています。GLP-1受容体作動薬の心血管イベント抑制効果を見てみましょう。
今回の研究では、GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(商品名:マンジャロ)が主要心血管イベント(MACE)の減少の程度を評価しました。(図は原文より、表は原文より改変)
まずは、その結果から。上の図のようにGLP-1受容体作動薬はMACEリスクを32%も減少させました。すごい効果に見えます。主要心血管イベントの個々の要素では心筋梗塞も33%減でしたが、虚血性脳卒中では有意差は認めらませんでした。全原因死亡も45%減、感染関連死亡率は60%も減少しました。拡大複合エンドポイント(心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術、不安定狭心症)は8%の減少でした。
これだけを見れば、やっぱりGLP-1受容体作動薬はすごい薬なんだと思います。
では、もう少し細かいところを見てみましょう。対象となったのは、2型糖尿病および確立された動脈硬化性心血管疾患を有する40歳以上の52,971人で、35,353人がGLP-1薬に割り振られ、残りの人にはシタグリプチンが投与されました。シタグリプチンというのは、以前の記事「糖尿病薬DPP-4阻害薬のショボい効果」でも書いた、商品名:ジャヌビア、グラクティブなどのDPP-4阻害薬です。DPP-4阻害薬はプラセボにも勝てず、DPP-4阻害薬が勝てる薬はスルホニル尿素くらいしかないのです。そんなほとんど効果を示すことができない薬と比較して、GLP-1受容体作動薬はMACEリスクなどを大きく減少させたと言っているのです。
医療の世界では、2型糖尿病にも糖質過剰摂取を推奨します。もちろんほとんどの患者は糖質過剰摂取を続けています。糖質過剰摂取を続けさせて、いいだけ心血管疾患のリスクを高めておいて、薬を投与して、リスクが改善しました、しかもそれは非常にショボい薬と比較して改善しました、という話であることを忘れてはなりません。さらに、過体重(BMI25以上30未満)の割合は13.6%しかいなく、それ以外はBMI30%以上の肥満患者であり、BMIが40%以上の人も16%もいるのです。インスリン抵抗性がバリバリある人ばかりです。
さらに、MACEの1年リスクは、DPP-4阻害薬のシタグリプチン群が4.4%であったのに対し、GLP-1薬のチルゼパチド群は2.9%で、1年後の絶対リスク差は-1.4%しかなく、治療必要数(NNT)は70でした。NNT=70ということは、70人に一人しかGLP-1薬の恩恵は受けられないことになります。(表は原文より改変)
| エンドポイント | 1年間のリスク | ハザード比(95%信頼区間) | NNT | ||
| GLP-1受容体作動薬 | DPP-4阻害薬 | 絶対リスク差 | |||
| MACE | 2.9(2.5~3.4) | 4.4(3.8~4.9) | -1.4(-2.1~-0.7) | 0.68(0.58~0.80) | 70 |
| 心筋梗塞または脳卒中 | 1.8(1.5~2.1) | 2.6(2.2~3.0) | -0.8(-1.4~-0.3) | 0.74(0.61~0.91) | 124 |
| 心筋梗塞 | 1.1(0.9~1.4) | 1.9(1.5~2.3) | -0.8(-1.2~-0.3) | 0.67(0.52~0.87) | 130 |
| 脳卒中 | 0.7(0.5~0.9) | 0.7(0.5~1.0) | -0.0 (-0.4~0.3) | 0.91(0.64~1.28) | 2500 |
| 全原因死亡率 | 1.3(1.0~1.5) | 2.1(1.7~2.5) | -0.8(-1.3~-0.3) | 0.55(0.42~0.72) | 122 |
| 感染関連死亡率 | 0.5(0.3~0.7) | 1.0(0.7~1.2) | -0.5(-0.8~0.2) | 0.40(0.26~0.61) | 200 |
| 心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術、不安定狭心症 | 13.1(12.3~13.9) | 14.5(13.6~15.4) | -1.4(-2.6~-0.2) | 0.92(0.85~0.99) | 72 |
さらにさらに、上の表のように心筋梗塞のリスクが低下したと書きましたが、その絶対リスク差は-0.8%しかなく、NNTも130です。全原因死亡もその絶対リスク差は-0.8%で、NNTは122です。感染関連死亡率なんて60%も減少と言いますが、絶対リスク差は-0.5%でしかなく、NNTも200です。
最初のグラフの縦軸は0~5%までしかなく、差が大きく見えるようにしていますが、0~100%にして、棒グラフにすると次のようになります。
ほとんど差がわかりませんね。このような方法は医療の世界では当たり前になってしまっています。針小棒大に効果を見せるのです。スタチンのときと同じです。(「高LDLコレステロールおよびスタチンの騙しのテクニック」など参照)
元々、糖質過剰摂取でリスクが高い人に、糖質過剰摂取を推奨して、さらに心血管疾患リスクを増加させて、薬を投与して、ほんのわずかな効果を大きく見せるのです。ほとんどの人は恩恵にあずかることさえできないのに、それは伏せられています。これで、心保護効果と言っていいのでしょうか?
この研究を踏まえて、GLP-1薬には心保護効果があると言っている人は、セールスマンである可能性が高いでしょう。
もちろん、GLP-1薬とプラセボを比較した試験もあります。心血管疾患、慢性腎臓病、またはその両方を患っている2型糖尿病の3297人に、GLP-1薬のセマグルチドまたはプラセボを投与しました。主要複合アウトカムは、心血管死、非致死性心筋梗塞、または非致死性脳卒中の最初の発生としています。観察期間の中央値は2.1年でした。(図は原文より)
上の図のAのように、主要複合アウトカムは有意にセマグルチド群で減少しました。セマグルチド群の6.6%、プラセボ群の8.9%で発生しましたが、26%も減少しました。絶対リスクの差は2.3%です。相手はプラセボですし、そもそも企業がスポンサーの試験なので、これくらいの差が出ないと困るでしょう。
もうちょっと内容を見てみましょう。上の図のBのように、非致死性心筋梗塞は、セマグルチドの 2.9%、プラセボの3.9%で発生しました 。絶対差は1%でリスクは有意ではありません。図のCのように、非致死性脳卒中はそれぞれ1.6%と2.7%で、1.1%の差で、これは有意にセマグルチド群が減少しました。
しかし図のDのように、心血管疾患による死亡率は両群で同様であり、セマグルチドは心血管死を減らすことは全くできなかったのです。もちろん全原因死亡率も全く減らせませんでした。
さらに困ったことに、網膜症合併症(硝子体出血、失明、または硝子体内注射剤もしくは光凝固療法を必要とする状態)の発生率はセマグルチド群で1.76倍と有意に高かったのです。
このようなレベルで、心保護効果があると言えるでしょうか?体重やHbA1cは下げるのに、糖尿病網膜症の合併症リスクが明らかに増加する。そのことを隠して、ほんのわずかな心臓に対する利益ばかりを誇大広告する薬が本当に必要でしょうか?
「Tirzepatide and the risk of atherosclerotic cardiovascular events: population based cohort study」
「チルゼパチドとアテローム性動脈硬化性心血管イベントのリスク:集団ベースのコホート研究」(原文はここ)
「Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes」
「2型糖尿病患者におけるセマグルチドと心血管系アウトカム」(原文はここ)



医療の世界も目新しい新製品を「誇大広告」で販売しているような、、、JAROに審査してほしい。