以前の記事「低温調理の謎?」で書いたように、フジテレビの「めざましテレビ」の名物コーナー「ココ調」の中で、低温調理をすると高温調理よりもタンパク質が多くなり、脂質は圧倒的に少なく、糖質も少なくなり、水分量が多くなる、という結果が出てびっくりしました。
そこで、この時に使われた「カロリーアンサー」という機器のメーカーに問い合わせてみました。すると、「事実関係を確認するためにお時間をください」との返事でした。しかし、なかなかその後の答えが来ないため、無視されたかと思いましたが、先日メールで返事がきました。その内容は、
「ご報告:
調理テストにて使用しました鮭の種類が違う事が判明致しました。
通常調理 : サーモン(アトランティックサーモンもしくはトラウトサーモン)
低温調理 : 秋鮭
よって通常調理サンプルの脂質値が高い値の結果となりましたが、
弊社へは、収録の際に調理前のサンプル品が違う事が伝えられておらず、
また不適切なコメントにより誤解を招きました事をお詫び致します。
テレビ収録時と同じ料理研究家の浜口様監修のもと、再度収録時と同様にサーモンで同部位を使用し、再現性の確認をしましたところ、通常調理時より低温調理時のサーモンのほうが、
カロリー、脂質が低く、たんぱく質、水分量が高く、炭水化物の数値には変化が見られず
100gあたり0.1g程度でした。マリネ液の影響で炭水化物が1gと測定されることがありましたが、採取するサンプルの状態を整えたうえで測定したところ、再現しませんでした。
カロリーにつきましては、上記脂質値の違い(サンプル品の違い)による影響となります。
テレビ局下請会社の担当者には、今後はこの様な事が無いよう依頼いたしました。
弊社側においても、検証協力の際のサンプリング等へ十分注意致します。
この度は、不適切なコメントにより誤解を招きました事を謹んでお詫び申し上げます。」
追加の質問の後の返事です。
結果的には、番組の内容は正しかったのですが、
サンプルの魚種の違いと部位の違いによって栄養成分値の差が、
過大になってしまったと考えます。
再現性を確認した際の低温、通常調理時の
それぞれのサンプル重量、栄養成分値につきましては、
添付データの通りです。ご参照下さい。
サーモン(アトランティックサーモンまたはトラウトサーモン)は、
北海道の漁港などで採れる秋鮭と比較し、見た目からも脂身が多く、
そちらがカロリー、脂質に影響していると考えます。
つまり、別の品種の魚を使って実験していたことになります。栄養素を90gで比較すると
エネルギー(カロリー) | タンパク質 | 脂質 | 炭水化物(糖質) | |
秋鮭 | 120 | 20.1 | 3.7 | 0.09 |
トラウトサーモン | 203 | 18.7 | 13.2 | 0 |
アトランティックサーモン | 213 | 18.1 | 14.5 | 0.09 |
もともとから秋鮭は他と比べると脂質が少なく、タンパク質が多いのです。そして、検証実験のデータをいただきました。検証実験では同じトラウトサーモンを使用しています。
1.検証データ(トラウトサーモン) | ||||||||||
検体名 | 重量(g) | 熱量(kcal) | たんぱく質(g) | 脂質(g) | 炭水化物(g) | 水分(g) | ||||
サーモンのマリネ 通常 | 100 | 188 | 18.5 | 12.7 | 0.1 | 67.7 | サンプルの重量: 87g (生の状態では、94g) | |||
サーモンのマリネ 低温 | 100 | 174 | 19.6 | 10.6 | 0.1 | 68.7 | サンプルの重量: 87g (生の状態では、90g) | |||
2.めざましテレビ放映時データ | ||||||||||
検体名 | 重量(g) | 熱量(kcal) | たんぱく質(g) | 脂質(g) | 炭水化物(g) | 水分(g) | ||||
サーモンのマリネ 通常 | 100 | 256 | 16.4 | 20.7 | 1 | 61.3 | ||||
サーモンのマリネ 低温 | 100 | 127 | 22.9 | 3.9 | 0.1 | 73.4 |
明らかに、検証実験のデータはめざましテレビのデータと比べて違うことがわかります。もともと脂質量が圧倒的に少ない秋鮭と脂質量の多いサーモンを使って実験しためざましテレビの内容はウソなのです。同じ種類の鮭で部位が違うなどであればまだしも、違う種類を使用していたのは、明らかに意図的でしょうね。
ただ、検証実験でも低温調理の場合の方が脂質が少なくなりました。これはもともとの切り身の状態での栄養素の量がわかりません。同部位を使用したと言っていますが、同一の魚の同じ部位だったのかはわかりません。違う魚であれば個体差もあるでしょう。全く同じ条件で脂質が違うのであれば、どうしてこのようになるのか疑問が残ります。低温調理でその脂質はどこに行ってしまったのでしょう。
水分は低温調理の方が残存するでしょう。タンパク質はこれも個体差かもしれませんし、誤差範囲かもしれません。
めざましテレビの放送内容で、「焼きすぎると、やっぱりカロリーも高くなりますし、油も出てきて脂質も高くなりますし・・・」というコメントは適切なものではありません。検証結果では低温調理の方が脂質の量が少なく、全くウソではなかったものの、いくつものサンプルで実験すればほとんど違いがない可能性もあります。ただ、焼きすぎでカロリーが高くなるとか、油が出てくるとかはウソです。
この番組で使われた「カロリーアンサー」ですが、外務省が運営する外国人向けサイト「Web Japan」に掲載されました。(その記事はここ)
電子レンジのような形で、料理を皿に乗せてそのまま栄養素の測定が可能なのです。ただ、現在はこの記事の旧タイプは製造中止になっています。現在のタイプはお皿ごと測定はできないようです。お皿ごと測定できるのであれば、一家に一台あるといいなぁとは思いますし、電子レンジにこの機能が組み込まれれば非常に便利ですね。恐らく値段がものすごく上がってしまうのでしょうけど。
それにしても、テレビ業界は懲りないですね。平気でウソの情報を流すのですから。鵜呑みにしてしまう人も大勢いるでしょう。
ちなみに、トラウトサーモンは鮭ではなく鱒(マス)です。海面養殖によって生産されたニジマスをトラウトサーモンと呼んでいます。恐らく回転寿司のサーモンはこの安いトラウトサーモンだと思われますし、イクラも安いものは鱒の卵です。日本産の鮭の卵のイクラは鱒のイクラとかなり価格が違うと思います。でも舌の性能が悪い私には鱒の卵も鮭の卵も違いが判りません。
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