アルツハイマー病は糖質過剰症候群です。3型糖尿病とも考えられています。認知症の予防は40代から必要でしょう。
今回の研究では、認知症と診断されていない60歳以上の2型糖尿病患者197人を対象として、ベースラインおよび2年間の時点で、認知機能の検査として、ミニメンタルステート検査(MMSE)、モントリオール認知機能評価の日本語版(MoCA-J)、および数字記号置換検査(DSST)を実施しました。そして、持続血糖測定(CGM:フリースタイルリブレProを使用)から得られる血糖コントロール時間(目標血糖値範囲内で過ごした時間の割合:TIR)との関連を調べました。実際には血糖値ではなくグルコース値ですが、血糖値と表現します。
平均年齢は68.8歳、HbA1cは7.0%、TIRは77.0%でした。
平均センサー血糖値(SG)が70~180mg/dLの範囲にある時間(TIR)、SG値が180mg/dLを超える時間(範囲外時間[TAR])、SG値が70 mg/dL未満の時間(範囲外時間[TBR])、SG値が70~140 mg/dLの範囲にある時間(TITR)、とします。
2年間の各認知機能スコアの変化では、MMSEスコアは、ベースラインの29.0から28.8へと有意に減少しました。一方、MoCA-JスコアおよびDSSTスコアは、2年間で有意な変化はありませんでした。
分析の結果では、TIRと2年間のMMSEの変化、TIRとMoCA-Jの変化およびDSSTの変化との間に有意な関連が認められました。(表は原文より改変)
MMSEの低下 | MoCA-Jの減少 | DSSTの減少 | |
---|---|---|---|
変数 | OR(95%信頼区間) | OR(95%信頼区間) | OR(95%信頼区間) |
HbA1c(1.0%あたり) | |||
モデル3 | 1.476 (0.849–2.552) | 1.693 (1.066–2.717) | 1.192 (0.623–2.251) |
TIR(10.0%あたり) | |||
モデル3 | 0.660 (0.513–0.836) | 0.712 (0.572–0.875) | 0.747 (0.559–0.984) |
TITR(10.0%あたり) | |||
モデル3 | 0.702 (0.561–0.867) | 0.751 (0.621–0.900) | 0.752 (0.575–0.969) |
TAR(1.0%あたり) | |||
モデル3 | 1.041 (1.019–1.065) | 1.040 (1.020–1.063) | 1.024 (0.998–1.052) |
TBR(1.0%あたり) | |||
モデル3 | 0.972 (0.884–1.038) | 0.948 (0.852–1.021) | 1.035 (0.946–1.113) |
上の表は、それぞれの認知機能スコアの低下とそれぞれのパラメータの関連です。HbA1cの増加はMoCA-Jの減少の可能性を1.693倍にしました。70~180mg/dLの範囲にある時間(TIR)の増加および70~140 mg/dLの範囲にある時間(TITR)の増加は、MMSEの低下、MoCA-Jの減少、DSSTの減少の可能性を低下させました。
180mg/dLを超える時間(範囲外時間[TAR])の増加はわずかにMMSEの低下、MoCA-Jの減少の可能性を増加させました。
血糖値が70~180mg/dLの範囲にあるというのは、ちょっと甘すぎでしょう。糖質過剰摂取のバランス食であれば、これくらいの範囲にしかおさまらないのかもしれません。70~140 mg/dLの範囲にある方が実際には重要でしょう。
例えば糖尿病網膜症の発症リスクについて調べたある研究(ここ参照)で、70~140 mg/dLの範囲にある時間(TITR)を4つのグループに分けたとき、TITRが最も高いグループと比較して、その次に高いグループで1.47倍、3番目に高いグループで1.52倍、最も低いグループでは1.93倍でした。さらに、たとえ70~180mg/dLの範囲にある時間(TIR)が70%、80%、90%を超えても、TITRが10%減少するごとに、糖尿病網膜症発症のリスクはそれぞれ1.09倍、1.10倍、1.15倍でした。
またある研究(ここ参照、図もここより、表はここより改変)では、2型糖尿病患者においてTITRの10%低下ごとに、下の図のように全原因死亡リスクが4%、心血管疾患死亡リスクが4%増加しました。
下の表はHbA1cおよび空腹時血糖のグループ別の2型糖尿病患者におけるTITRを4つのグループに分けたときの全原因死亡リスクです。
全死亡率 | TITR(%) | 連続変数としてのTITR(10%減少ごと) | |||
---|---|---|---|---|---|
≥55.0 | 35.0~54.9 | 17.0~34.9 | <17.0 | ||
HbA1c <7.0% | |||||
HR(95%CI) | |||||
モデル3 | 1.00 | 1.22 (0.93–1.61) | 1.87 (1.31–2.66) | 2.16 (1.34–3.48) | 1.12 (1.06–1.19) |
HbA1c ≥7.0% | |||||
HR(95%CI) | |||||
モデル3 | 1.00 | 0.96 (0.81–1.14) | 1.09 (0.92–1.28) | 1.15 (0.98–1.36) | 1.03 (1.01–1.06) |
空腹時血糖<126mg/dL | |||||
HR(95%CI) | |||||
モデル3 | 1.00 | 1.25 (1.05–1.50) | 1.46 (1.19–1.79) | 1.56 (1.19–2.03) | 1.09 (1.05–1.13) |
空腹時血糖≥126mg/dL | |||||
HR(95%CI) | |||||
モデル3 | 1.00 | 0.90 (0.71–1.15) | 1.15 (0.91–1.44) | 1.23 (0.99–1.55) | 1.06 (1.03–1.09) |
上の表のように、HbA1c値が7.0%未満および空腹時血糖値が126mg/dL未満という、ある程度コントロールの良さそうな患者においてでさえ、TITRの減少は死亡率を上げてしまいます。
糖尿病の人が血糖値を70~140 mg/dLの範囲に収まるようにする食事は、恐らく糖質制限だけでしょう。カロリー制限は糖質過剰摂取食なので簡単に血糖値スパイクを起こすので、かなり難しいでしょうね。
糖尿病は糖質過剰症候群です。重要なのは糖質制限です。しかし、医療の中では血糖値を70~140 mg/dLの範囲に収まるようにするのは薬剤としか思っていないでしょう。
「Continuous glucose monitoring-derived time in range is associated with changes in cognitive function test scores in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus」
「持続血糖モニタリングから得た範囲内時間は、2型糖尿病の日本人患者における認知機能検査スコアの変化と関連している」(原文はここ)