大学の公衆衛生の先生は、論文を書くことが仕事なのか、ほとんど役に立たないような研究を発表することが多いですね。しかし、このような論文が世に放たれると、独り歩きを始め、いつの間にか多くの人たちが信じてしまいます。
今回の研究では、味噌汁と口腔がん、咽頭がん、食道がんとの関連についての研究です。例によって、食事アンケートの質の低いデータを使用しています。結果と結論から先に書きましょう。
対象は、40~79歳のがん既往歴がない4万2,535人。中央値で14.4年の追跡期間におけるがん発症は145例です。
食塩摂取量が多いと、口腔がん、咽頭がん、食道がんの複合リスクが上昇することが示されました。食塩摂取量で3つのグループに分けたとき、最低群を比較した場合、最高群の複合リスクは1.67倍でした。過剰リスクは主に口腔がんと食道がんに認められました。食塩摂取源の中では、味噌汁の摂取が口腔がん、咽頭がん、食道がんの複合リスクと正の相関を示しましたが、その他の高食塩食品の摂取とは相関を示しませんでした。結論として、食塩摂取量が多いと、口腔がん、咽頭がん、食道がんの複合リスクが上昇することが示されました。
というものです。何か変ですよね。食塩摂取量が多いとがんが増加するのであれば、他の高食塩食品も関連があっても良さそうですが、味噌汁限定です。それであれば、がんリスクを上げるのは食塩ではなく、味噌汁特有の何らかの成分であるはずです。まあ、でも食塩摂取量で分けたので、そのような考えになったのでしょう。では、3つのグループの塩分摂取量を見てみましょう。(図は原文より)
上の図は、3つのグループの特徴です。その3つのグループの食塩摂取量の中央値を見てみましょう。最低群が3.2g、中間群が4.8g、最高群は6.7gでした。どう考えても少なすぎでしょう。日本人の平均の塩分摂取量は10g程度です。最高群でさえ10gよりもはるかに少ないのです。ものすごい過少申告のデータです。分析する意味のないデータです。
そんな非常に過少申告のとんでもないデータを使うと、最高群の口腔がん、咽頭がん、食道がんの複合リスクは1.67倍であり、食道がんは2.04倍でした。口腔がんと咽頭がんには有意なリスク上昇はありません。食塩摂取量1g増加ごとのリスクは、口腔・咽頭・食道がん複合で1.33倍、口腔がんで1.51倍、食道がんで1.38倍でした。
上の図は、味噌汁、干物、加工肉・魚、漬物の摂取によるリスクを示しています。味噌汁3杯以上で有意差ありの2.27倍のリスク増加でした。2杯では調整によりリスク増加ありでした。
上の図は横軸が食塩摂取量、縦軸は複合がんリスクです。3.2g食塩を境に、それ以上ではリスク増加傾向があります。しかし、有意差があるのはほんのわずかな範囲ですし、たとえ10g食塩でも有意差はないですし、5g付近からはほぼ横ばいです。食塩3.2gを達成するのは普通の食生活であれば無理ですし、本当にここまでの塩分摂取量が少なければ健康に有害でしょう。
また、著者が自ら考察していますが、食道がんは熱いものを摂取するとリスクが上がると考えられています。(「熱い飲み物が好きな方は食道がんにご用心」参照)
さらに、通常の糖質過剰摂取者であれば、味噌汁を飲む場合、白米も食べるでしょう。糖質過剰摂取によりがんリスクは増加するので、味噌汁に責任を擦り付けても本当のところはわからないでしょう。
それにしても、本当にどうでもいい研究は多いですね。塩分は健康にとって悪者であるのに、夏には塩分摂れ、摂れが連呼される日本です。変ですね。
「Consumption of salt and high-salt foods and the risks of oral, pharyngeal, and oesophageal cancers: the JACC Study」
「塩分および塩分の多い食品の摂取と口腔がん、咽頭がん、食道がんのリスク:JACC研究」(原文はここ)