糖質制限をするとLDLコレステロールが上昇する人が結構な割合でいます。糖質制限反対派やLDLコレステロール悪玉説を信じている人は、このことをもって糖質制限が危険だということもあるでしょう。
私も糖質制限をしてLDLコレステロールが上昇しています。糖質制限を始める前は少しLDLコレステロールが高く、始めたばかりのころはLDLコレステロールが下がり、その後上昇しました。
しかし、LDLコレステロールが減少したり、それほど変化しない人もいるでしょう。
今回の研究では、どのような特徴の人がLDLコレステロールの上昇を来たすのかを分析しています。以前より発表されるのを待っていた論文です。「lean mass hyper-responder」 phenotype(「除脂肪体重ハイパーレスポンダー」表現型)という仮説です。LDLコレステロール200mg/dL以上、HDLコレステロール80mg/dL以上、および中性脂肪70mg/dL以下を「除脂肪体重ハイパーレスポンダー」表現型としています。分析の対象は597人です。
この研究では私が読む限り、以前というのが定義がちょっと曖昧です。以前というのはどこまで糖質を摂取していたのかがわかりません。まあ、それは置いておいて、2018年以降の以前の検査と最近の検査を比較しています。以前の代謝と健康に関するマーカーは、LDLコレステロールの増加を予測していました。
以前の高HDLコレステロールと低中性脂肪、低中性脂肪/HDL比はより大きなLDLコレステロール増加を予測します。(今回の研究での中性脂肪/HDL比は日本の単位と同じです)
分析するモデルにもよりますが、以前のHDLコレステロールが1増加するとLDLコレステロールは0.53増加し、以前の中性脂肪が1減少すると、LDLコレステロールは0.19増加します。以前の中性脂肪/HDL比が1減少すると、LDLコレステロールは10.5増加します。また、BMIが1減少するとLDLコレステロールは6.1増加します。
(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は横軸がBMIを4つのグループに分けたもの、縦軸がLDLコレステロール変化、Z軸が以前の中性脂肪/HDL比です。最も低いBMIと最も低い中性脂肪/HDL比の人と比較すると、最高のBMIおよび最高の中性脂肪/HDL比の人では、LDLコレステロールは平均134対40mg/dLと3.4倍の差がありました。つまり、痩せていて、中性脂肪/HDL比が低いほど、糖質制限でのLDLコレステロール上昇が大きいことになります。
上の図は現在の中性脂肪/HDL比での分析ですが以前の中性脂肪/HDL比と同様の結果です。最も低いBMIと最も低い中性脂肪/HDL比の人と比較すると、最高のBMIおよび最高の中性脂肪/HDL比の人では、LDLコレステロールは平均116対35mg/dLと3.3倍の差がありました。
非ハイパーレスポンダー | ハイパーレスポンダー | ||
年齢 | 51.5 | 50.5 | |
BMI | 24.5 | 21.9 | |
炭水化物摂取量 | 28.7 | 21.8 | |
現在 | LDLコレステロール | 220.1 | 315.6 |
HDLコレステロール | 71.7 | 98.6 | |
中性脂肪 | 76.9 | 46.9 | |
中性脂肪/HDL比 | 1.2 | 0.5 | |
以前 | LDLコレステロール | 144.7 | 149.5 |
HDLコレステロール | 61.0 | 75.6 | |
中性脂肪 | 103.7 | 65.7 | |
中性脂肪/HDL比 | 2.0 | 1.0 | |
変化量 | LDLコレステロール | 75.4 | 166.1 |
HDLコレステロール | 10.7 | 23.1 | |
中性脂肪 | -26.8 | -18.8 | |
中性脂肪/HDL比 | -0.8 | -0.5 |
上の表は除脂肪体重ハイパーレスポンダーと非レスポンダーとの比較です。現在のLDLコレステロールを比べてみると、非レスポンダーの平均LDLコレステロールは220.1であり、レスポンダーは315.6と大きな差があります。ただし、ベースラインの以前のLDLコレステロールは違いがありません。変化量がレスポンダーでは166も増加しているのです。レスポンダーと非レスポンダーの違いはベースラインのLDLコレステロールではなく、HDLコレステロールと中性脂肪、中性脂肪/HDL比、およびBMIでした。もともとHDLコレステロールが低く、中性脂肪が高く、中性脂肪/HDL比が高く、BMIも高めの人の方がLDLコレステロール上昇が少ないと考えられるのです。
上の図はレスポンダーと非レスポンダーおよび米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)のいわゆる一般のデータとの比較です。BMIはレスポンダーで最も低く21.9で、非レスポンダー24.5、NHANESでは28.8でした。同時にレスポンダーでは顕著にLDLコレステロールとHDLコレステロールが高く、中性脂肪が低くなっていました。しかもその傾向は糖質制限でより強くなっていました。
さらに興味深いデータがあります。非常に強い糖質制限をしている5人のデータです。この5人は1日25g未満の糖質制限をする超低炭水化物食によって大きくLDLコレステロール上昇を来たし、その後スタチンの内服は拒否し、ちょっと糖質を増やす(1日50~100g)試みをしたときのLDLコレステロールの変化を調べています。もちろんこの5人は家族性高コレステロール血症は遺伝子検査で否定されています。
参加者 | 超低炭水化物食前 | 超低炭水化物食後 | 低炭水化物食 | LDLコレステロール変化 | |
1 | 総コレステロール | 214 | 797 | 294 | -480 |
LDLコレステロール | 116 | 665 | 185 | ||
HDLコレステロール | 81 | 122 | 95 | ||
中性脂肪 | 84 | 50 | 72 | ||
中性脂肪/HDL比 | 1.0 | 0.4 | 0.8 | ||
2 | 総コレステロール | 209 | 698 | 497 | -223 |
LDLコレステロール | 122 | 583 | 360 | ||
HDLコレステロール | 72 | 97 | 122 | ||
中性脂肪 | 54 | 70 | 67 | ||
中性脂肪/HDL比 | 0.8 | 0.7 | 0.5 | ||
3 | 総コレステロール | 197 | 311 | 180 | -124 |
LDLコレステロール | 137 | 239 | 115 | ||
HDLコレステロール | 45 | 65 | 54 | ||
中性脂肪 | 62 | 56 | 36 | ||
中性脂肪/HDL比 | 1.4 | 0.9 | 0.7 | ||
4 | 総コレステロール | 179 | 387 | 272 | -122 |
LDLコレステロール | 113 | 317 | 195 | ||
HDLコレステロール | 49 | 59 | 61 | ||
中性脂肪 | 86 | 54 | 56 | ||
中性脂肪/HDL比 | 1.8 | 0.9 | 0.9 | ||
5 | 総コレステロール | 218 | 423 | 318 | -100 |
LDLコレステロール | 141 | 336 | 236 | ||
HDLコレステロール | 57 | 69 | 66 | ||
中性脂肪 | 98 | 74 | 64 | ||
中性脂肪/HDL比 | 1.7 | 1.1 | 1.0 |
上の表は1日25g未満の糖質制限をする超低炭水化物食の前後の脂質の検査値と、さらにLDLコレステロール急上昇後に適度(1日50~100g)の糖質摂取をした時の変化です。こんなにちょっと糖質を増やしただけで、LDLコレステロール値は大きく変動しています。1番と2番の人ではなんとLDLコレステロール500を超えています。スタチンの好きな医師が見たらパニックを起こしそうな値です。でも家族性ではありません。
この5人のデータですべてのことを言えませんが、中性脂肪/HDL比が1以下と非常に低い方が糖質による変動も大きい傾向があるような感じがします。また、糖質制限でもHDLコレステロールがあまり増加しない人がいますが、その方がLDLコレステロール上昇も少ないのかもしれません。
今回のデータは私が集めた糖質制限をしている人のデータと一致しています。もちろん、私のデータは以前のデータがないので、変化はわかりませんが、多くの人のLDLやHDLは一般の人よりも高くなっています。(「みなさんの血液検査データ2020 集計 その3」「その4」「その5」「その6」など参照)
欧米人と比較すると日本人はBMIが低いので、LDLは増加しやすくハイパーレスポンダーが多い可能性があります。また、非常に運動量が多い痩せた人も糖質制限にLDLが反応しやすいかもしれません。
糖質制限でLDLコレステロールが大きく上昇する人の特徴は痩せているまたは筋肉量が少なく、もともとのHDLが高く、中性脂肪が低い人である可能性があります。
私自身はLDLコレステロールが上昇しても気にしていません。しかし、どうしても気になるのであれば、糖質摂取量をちょっとだけ増やしてみるとLDLコレステロールが減少するかもしれません。
人類は進化の過程で、糖質摂取量は非常に少なかったでしょうし、BMIも恐らく低かったのではないかと思います。そう考えると、実はLDLコレステロールは非常に高いことの方が初期設定であり、逆に現代の糖質過剰摂取により多くの人ではLDLコレステロールが減少してしまっていると考えられるのではないかと思います。本当の人類のハイパーレスポンダーは糖質過剰摂取でLDLコレステロールが非常に低下している人なのかもしれません。
心血管疾患も糖質過剰症候群です。LDLコレステロールが犯人扱いをいまだに受けていますが、根本的に間違っていると考えます。糖質制限をしていることを前提とした高LDLコレステロールは問題がないと思っています。
「Elevated LDL-Cholesterol with a Carbohydrate-Restricted Diet: Evidence for a ‘Lean Mass Hyper-Responder’ Phenotype」
「炭水化物制限食によるLDLコレステロールの上昇:「除脂肪体重ハイパーレスポンダー」表現型の証拠」(原文はここ)
清水先生、おはようございます。
私も糖質制限によりLDLが上昇しました。糖質制限前は、脂質関係はいわゆる基準範囲内だったと思います。身長は172 cm、体重は73 kg程度で、おそらくここ20年程変わりません。太っているというより、ウエートトレーニングをしていた影響で体重はあります。腹囲は80 cm程度です。
私もLDLの値を気にしていないのですが、健康診断での指摘がやっかいです。
じょんさん、コメントありがとうございます。
恐らく、痩せていたり、筋肉が多く体脂肪率が低い人の方が糖質制限でLDLコレステロールが上昇するのだと思います。
不健康な食事をしている人たちのデータを集めた健康診断の基準なんて役に立たないと思っています。
清水先生
いつも大変参考にさせて頂いております。有り難うございます。
ちょうど10年前から糖質制限を開始しましたが、陸上部で長距離をしていた私の体型は正にこれです。中性脂肪が半減しながら(40に)、HDLは倍増し(90に)、現在のLDLは200くらいを推移しています。50歳になった記念に頚動脈エコーで確認してみようかと思っています。
ありおさん、コメントありがとうございます。
結構体型関係ありそうですね。頚動脈エコーなんともないと良いですね。