「術前の糖質を含んだ水分は止めるべきかもしれない その1」で書いたように、術前に糖質を含んだ水分補給が大きなメリットがあるとは思えません。そして、デメリットを考えてみましょう。
周術期(手術前後の期間)は数日から数週間であるのもかかわらず、劇的な変化を体に起こす可能性があり、そのため、数日または数時間が大きな意味を持つ可能性があります。
手術を受けるということは、ストレスが加わり、炎症を引き起こし、免疫機能を低下させます。
また、術前に糖質を摂取するということは、どれくらいの糖質をどれくらいの速度で摂取するかにもよりますが、血糖値が上昇する可能性があり、インスリン分泌が増加するでしょう。
ご存じのようにインスリン、インスリン様成長因子(IGF-1)はがんを増殖させたり転移に大きな役割を果たします。またブドウ糖はがん細胞にエネルギーを与えることになります。(「太っているかどうかは関係ない インスリンが多いとがんで死ぬリスクが高い」など参照)
以前の記事「糖質を摂ると乳がんの再発リスクが高くなる!」で紹介した論文では乳がんで炭水化物の摂取量の維持、増加は再発のリスクを大きく高めました。(表は原文より改変)
乳がん組織のIGF-1受容体の状態 | 炭水化物摂取量の診断後の変化 | 乳がんの再発リスク比 |
---|---|---|
陰性 | 1.0 | |
陽性 | 1.7 | |
減少 | 1.0 | |
維持/増加 | 2.0 | |
陰性 | 維持/増加 | 1.0 |
陰性 | 減少 | 0.7 |
陽性 | 減少 | 0.6 |
陽性 | 維持/増加 | 5.5 |
自分のがん細胞にIGF-1受容体があるかどうかは調べないとわかりません。この研究では腫瘍のおよそ半数がIGF-1受容体陽性でした。がんになって糖質摂取量を減らした場合はリスクの増加はありませんでしたが、そのまま糖質を摂っていたり、増加させた場合にはIGF-1受容体陽性だとなんと5.5倍にも再発リスクが上がっていたのです。「何でも食べられるものを食べてね。」というアドバイスは間違っています。
手術という非常に大きな刺激は、休眠期で静かに眠っているがん細胞を起こし、がん細胞が休眠から脱出して、増殖を始める可能性を高めます。(ここ参照)また、手術によりがん細胞が循環に乗ってしまいます。
さらにがん細胞が増殖する際の細胞周期に対して、インスリンはその細胞周期を加速させる可能性があります。(ここ参照)実際に空腹時インスリンが高い人ほど、様々ながんの転移の発生や死亡率が高いと考えられています。(ここ参照)
乳がんにはインスリン受容体が非常に多いです。(「乳がんで糖質制限をした方が良い理由」参照)
術前の糖質の負荷は、がん細胞を良好な状態にして、手術中に脱出、分裂、増殖、生存させる可能性があり、その結果、がん患者の長期予後が低下する可能性があります。
そうであるならば、術前には水分補給だけにして、糖質を摂取しない方がリスクが低くなると思われます。逆に言えば周術期の糖質負荷が再発や転移、死亡のリスクを高める可能性があります。
術前の増殖しているがん細胞にエサを与える必要はありません。そして、手術直前に糖質を摂取するということは、がんの細胞周期を早め、より増殖しやすくし、がん細胞のコンディションをより良いものにしてしまうかもしれません。手術によって目覚めたがん細胞にも元気を与えてしまうかもしれません。手術前後という非常に短い時間であっても糖質摂取が予後に大きな影響を与える可能性があります。
次回以降ではその直前の糖質を含む水分補給の深刻な悪影響について書きたいと思います。
「Risk of breast cancer recurrence associated with carbohydrate intake and tissue expression of IGFI receptor」
「炭水化物摂取とIGFI受容体の組織発現に関連する乳がん再発のリスク」(原文はここ)
周術期での糖質摂取も問題ありそうですが、
そもそも癌を手術で切除する
メリット・デメリットが、
当事者であるはずの患者には不明です。
だから癌治療を始め、民間療法が頼られるのでしょう。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
民間療法というと範囲が広すぎるので、一概には言えません。
ただ、がんの治療はどれもメリットデメリットがあり、それは民間療法でも同様です。
リスクのない治療はありませんし、がんになっていることそれ自体が一番のリスクです。
あとはリスクアンドベネフィットの判断でしょう。