前回の記事で「太っているかどうかは関係ない インスリンが多いとがんで死ぬリスクが高い」ということを書きました。この記事ではがん全体でのリスクについてだったのですが、個々のがんではどうでしょうか?
がんと肥満には関連が認められています。しかし、肥満はもちろんですが、肥満は起こらなくても糖質を摂取することによりインスリンが分泌されます。このインスリンが乳がんにとって大きな役割を担います。
図は「Elevated insulin receptor content in human breast cancer.」
「ヒト乳癌におけるインスリン受容体の上昇」(原文はここ)より
上の図を見ると、左が正常細胞、右が乳房の線維腺腫の細胞、真ん中が乳がん細胞のもので、インスリンの受容体の数を表しています。そうすると、正常の細胞はほとんどインスリン受容体がないのですが、乳がん細胞には非常にインスリン受容体が多いことがわかります。実に約6倍です。つまり、正常の乳房の細胞はインスリンを必要としていませんが、乳がんの細胞はインスリンが大好きなんです。インスリン無しでは生きられません。
研究室で乳がんの細胞を増殖させるのに必要なものがあります。大量のグルコース(ブドウ糖)、EGFと呼ばれる成長因子、そしてインスリンです。そして、インスリンを断つと乳がんの細胞は死んでしまうそうです。つまり乳がん細胞はインスリン依存性なのです。正常な乳房細胞はインスリンに敏感ではありません。正常細胞はインスリンの受容体がないか、非常に少ないのでインスリン無しでも増殖できるのです。しかし、乳がん細胞はインスリンが必要なのです。
また、インスリンは、肝臓におけるインスリン様成長因子(IGF-1)結合蛋白の産生を抑制し、フリーのIGF-1を増やし、IGF-1の合成および生物学的活性を促進します。インスリンとIGF-1の両方ががんの増殖を促進します。
がん細胞はグルコース(ブドウ糖)をエサにしているので、このようにインスリンの受容体を増やして、グルコースをたくさん摂り込み、自分のエネルギーを確保していると考えられます。
だから、糖質を摂ってインスリンの分泌が高まると、乳がんの細胞は大喜びで、たくさんのグルコースを食べて、どんどん増殖していきます。
糖質制限により、元々のエサであるグルコースが減りますし、がん細胞がエサを摂り入れるためのインスリンも減ります。まだ、乳がん患者さんに糖質制限をしない理由がありますか?
「Unraveling the Obesity-Cancer Connection」
「肥満とがんのつながりを解明する」(原文はここ)