以前の記事「ラカント(エリスリトール)と心血管疾患リスク」「大量のラカント(エリスリトール)の摂取は血栓リスクを高めるかもしれない?」で、一部の研究グループは、エリスリトールは心血管に有害である可能性を報告しています。
今回は違うグループが、エリスリトールは脳の微小血管内皮細胞の機能に悪影響を与え、脳卒中のリスクを増加させるのではないかと言っています。
今回の研究は、ヒト脳微小血管内皮細胞を培養し、一般的な飲料摂取量に相当する量のエリスリトールに曝露した実験です。あくまで実験です。人工甘味料入り飲料に含まれる典型的なエリスリトール量(30g)に相当する6mMのエリスリトールで3時間処理しました。
上の図はエリスリトールが脳微小血管内皮細胞のROS(活性酸素)産生およびSOD-1(スーパーオキシドディスムターゼ-1)およびカタラーゼの細胞内発現に及ぼす影響を示しています。黒いバーがエリスリトール群です。どれも増加しています。
ROSが約75%増加し、SOD-1は約45%、カタラーゼは約25%増加です。つまり、エリスリトールは酸化ストレスを増加させ、それに反応して抗酸化タンパク質のSOD-1、カタラーゼが増加したことになります。
上の図は、エリスリトールが脳微小血管内皮細胞におけるリン酸化eNOS(内皮型一酸化窒素合成酵素)(Ser1177)およびリン酸化eNOS(Thr495)の発現、NO産生に及ぼす影響を示しています。NO(一酸化窒素)は血管内皮細胞から産生され、血管の拡張や血小板の接着を抑制するなど、動脈硬化を抑制する重要な物質です。NOはeNOSによって血管内皮細胞内で合成されます。
Ser1177のリン酸化は、eNOSの最大の活性化を誘導する一方、Thr495のリン酸化はeNOS活性を阻害すします。エリスリトールは、p-eNOS(Ser1177)の発現が約35%低下し、p-eNOS(Thr495)の発現が約40%増加し、NO産生は約20%低下しました。
上の図はエリスリトールが脳微小血管内皮細胞におけるBig-ET-1(ET-1の前駆体タンパク質)およびECE(エンドセリン変換酵素)の発現、ならびにET-1(エンドセリン-1)産生に及ぼす影響です。
ET-1は、内皮細胞によって産生される最も強力な血管収縮物質です。ET-1の過剰発現は制御されない脳血管収縮を誘発し、急性虚血性脳卒中のリスクと重症度を高めます。脳血流の深刻な減少とより大きな神経学的損傷をもたらすことになります。
ECEはエリスリトールの影響がありませんでしたが、Big ET-1およびET-1産生は大きく増加しました。
上の図は、エリスリトールが脳微小血管内皮細胞におけるt-PA(組織型プラスミノーゲン活性化因子)の発現およびトロンビン刺激に対するt-PA放出に及ぼす影響です。
細胞内t-PA発現は、エリスリトールで有意差は認められませんでした。しかし、トロンビンに対するt-PA放出は、エリスリトールで処理をしない場合約25%増加しましたが、エリスリトール処理の細胞ではt-PA放出はほとんどありませんでした。t-PAの血栓溶解機能の低下による線溶能の低下は、脳卒中のリスク増加と関連しています。エリスリトールがトロンビンに対するt-PA放出を阻害し、内皮線溶能の低下を示唆しています。
この結果はもちろん、実験的なものであり、生体内ではどうなるかはよくわかっていません。
以前にも書きましたが、毎日30gを一気に摂取するような大量のエリスリトールでなければ、恐らくは全く問題ないと考えます。大量摂取や頻回摂取は気を付けた方が良いかもしれません。
「The non-nutritive sweetener erythritol adversely affects brain microvascular endothelial cell function」
「非栄養甘味料エリスリトールは脳の微小血管内皮細胞の機能に悪影響を及ぼす」(原文はここ)