内服薬の併用による腎臓へのトリプルパンチの大ダメージ「トリプルワーミー」

Triple Whammy(トリプルワーミー)という言葉を知っていますか?Whammyには呪いとか魔力という意味もありますが、不運や致命的な一撃という意味もあります。「double whammy」という形で使われると「ダブルパンチ」や「二重苦」という意味です。だからTriple Whammyは「トリプルパンチ」や「三重苦」という意味です。いずれにしてもとんでもない打撃を受けることを意味します。

この言葉が医療の中で使われることがあります。レニン-アンジオテンシン系阻害薬、利尿薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の3つからからなる薬物療法に関連する急性腎障害(AKI)を「トリプルワーミー」と呼んでいるのです。どれも腎臓に影響をもたらす薬ですが、この3つを併用すると、腎臓が大きなダメージを受ける可能性があります。

もちろんすべての人体に対するメカニズムが解明されているわけではありませんが、それぞれの薬には効果があり、そのメカニズムはわかっています。しかし、良い効果に対するメカニズムだけではありません。副作用をもたらすメカニズムもあります。また良い効果のメカニズムが他の薬と併用した場合、悪いメカニズムに変わってしまうこともあります。

これら3つの薬は、それぞれ異なる作用によって腎血流量を低下させます。

①ARB/ACE阻害薬:腎臓の輸出細動脈の収縮を抑制させる結果、糸球体内圧が減少し、腎血流量が低下する。

②利尿薬:循環血流量を減少させることで、腎血流量を低下させる。

③NSAIDs:腎臓の輸入細動脈を収縮させる結果、腎血流量を低下させる。

ARB/ACE阻害薬は腎保護作用があるように言われていますが、薬剤性腎障害を起こす薬として有名ですね。このブログでもいろいろ書いていますが、様々なリスクも増加させる薬です。

利尿薬にもいろいろ種類があります。ループ利尿薬(有名なのはラシックス、一般名フロセミド)は腎血流量を低下させにくいので、腎機能が低下した患者に降圧目的で使いやすい、と言われていますが、ある研究ではトリプルワーミー急性腎障害の原因の利尿薬として、サイアザイド系利尿薬で1.98倍、アルドステロン拮抗薬で2.19倍、、ループ利尿薬で4.40倍も急性腎障害の可能性が高くなりました。(ここ参照)トリプルワーミーに関して利尿薬の立ち位置はあくまで循環血流量の減少なのかもしれません。(ただし、バソプレシン受容体拮抗薬は急性腎障害のリスクを上げませんでした)

夏は汗をかいて、脱水に気を付けて、と言われます。特に高齢者は脱水になりやすいなどとも言われます。しかし、その高齢者の中には普段から高血圧の治療とはいえ、利尿薬を処方されて循環血流量を低下させられている人も多いでしょう。本当に利尿薬は必要な薬でしょうか?暑いから水分補給に塩分補給で、利尿薬で水分も塩分も排泄って何をやっているのでしょうか?

特に高齢者などは痛み止めに頼っている人も多いでしょう。整形外科などでは比較的安易に痛み止めのNSAIDsは処方されます。様々な病気や症状があるために、いくつもの科に受診している人も多いでしょう。それぞれの科の医師はそれぞれが出したい薬をだしますので、他の科の薬なんてあまり考えません。トリプルワーミーの処方は簡単に起きてしまいます。

この3つの薬の急性腎障害は、ある研究では、現在の薬の使用は、急性腎障害の発生率1.31倍、使用開始後30日間に1.82倍としています。(ここ参照)

日本の医薬品副作用報告データベースによる研究を見てみましょう。急性腎障害は18,415件報告され、そのうち7,466件でトリプルワーミー薬が使用されていました。

下の表はトリプルワーミー薬なしと比較した単一薬群、2薬群、3薬群の調整ROR(報告オッズ比)を示しています。(表は原文より改変)

RAS阻害薬利尿剤NSAIDs調整済みROR [95% CI]
1
シングル
+1.43 [1.35–1.50]
+1.76 [1.66–1.88]
+1.18 [1.12–1.25]
合計1.41 [1.36–1.46]
ダブル
++2.41 [2.27–2.56]
++1.55 [1.40–1.71]
++1.70 [1.50–1.93]
合計2.13 [2.02–2.24]
トリプル
+++2.44 [2.14–2.77]

単一薬群で1.41、2薬群で2.13、3薬群で2.44倍でした。

上の図はトリプルワーミー薬の最後の薬が処方されてからの経過日数と急性腎障害の累積発症率です。3剤併用および単剤では、2剤併用と比較して急性腎障害の発症が有意に早くなりました。

上の図は、3剤併用したときに何を最後に追加したかによる違いを示しています。RAS阻害薬(ARB/ACE阻害薬)および利尿薬にNSAIDsを追加した場合の急性腎障害発現は、他の併用パターンより早くなる傾向がありました。

上の図は、単剤における累積発生率です。NSAIDsが一番早く急性腎障害を起こします。RAS阻害薬(ARB/ACE阻害薬)は比較的ゆっくり増加しています。

上の図は2剤併用での累積発生率です。NSAIDsに利尿薬を追加した場合、急性腎障害が急速に起きています。RAS阻害薬にNSAIDsを追加した場合や、利尿薬にNSAIDsを追加した場合も早く急性腎障害が起きています。

いずれにしてもトリプルワーミー薬の処方は十分な注意が必要です。製薬会社は意識してなのか、無意識なのか、それとも仕方がないのか、人間の腎臓を弱らせる薬を色々出しています。肝臓や腎臓は代謝に重要です。まさしく肝腎要です。その臓器を弱らせれば、死に至らなくてもずっと医療に依存しなければならなくなる可能性が高くなります。できる限り薬は飲まない方が良いでしょう。

実際にはさらに腎臓を攻撃する薬もあります。それを含めたらクアドラプル(quadruple)ワーミーです。それについては次回以降に。

「Time until onset of acute kidney injury by combination therapy with “Triple Whammy” drugs obtained from Japanese Adverse Drug Event Report database」

「日本の医薬品有害事象報告データベースから得た「トリプルワーミー」薬の併用療法による急性腎障害発現までの時間」(原文はここ

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