自己抗体とは自己の細胞や組織を抗原として反応する抗体であり、様々な自己免疫疾患の原因となっています。通常であれば、自己の細胞や組織に対して抗体は作られないと考えられていますが、自己免疫疾患では、自己抗体が産生されて病気が起こります。
しかし、この自己抗体というものは、様々なものがあり病気の原因になるものばかりではありません。恐らく、何らかの反応の中で出現して、どんな人にも産生され、悪さをしないマーカーのような自己抗体や、自己を攻撃するのではなく、自己を守る自己抗体も存在するのではないかと思います。シグナル伝達の役割もあるかもしれません。
拙著「肥満・糖尿病の人はなぜ新型コロナに弱いのか 「糖質過剰」症候群II」でも書いたように、ほとんどすべての疾患に自己免疫が関わっており、高血圧でさえ自己抗体は、アドレナリン受容体などに対して活性化作用を及ぼし、高血圧に関与しているのです。
今回の研究では自己抗体がインスリン抵抗性の人に存在するかどうか、存在する場合は、その自己抗原はどうなっているのか調べています。インスリン抵抗性(IR)16人とインスリン感受性(IS)16人の男性が対象です。インスリン抵抗性の判定はSSPG法(詳細は省略)という方法で行っています。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図はインスリン抵抗性(IR)群とインスリン感受性(IS)群の様々な数値です。年齢もBMIも2つの群で一致させています。有意差があるのはインスリン抵抗性があるかどうかだけです。
2つのグループの血液を調べると面白いことがわかりました。どちらも自己抗体が存在し、しかもインスリン抵抗性とインスリン感受性の人では明らかにその自己抗体に対する自己抗原を持っている割合が異なったのです。インスリン抵抗性で特異的に分離された122個の自己抗原が特定され、インスリン感受性では114個の自己抗原が特定されました。下の表はそのうちの上位10個の自己抗原をそれぞれ示しています。
抗原 | インスリン抵抗性 | インスリン感受性 |
---|---|---|
GOSR1 | 72.22% | 11.11% |
BTK | 50% | 5.56% |
GFAP | 50% | 5.56% |
ASPA | 44.44% | 5.56% |
NIF3L1 | 44.44% | 5.56% |
PGD | 44.44% | 5.56% |
ALDH16A1 | 44.44% | 5.56% |
KCNAB1 | 44.44% | 5.56% |
RNA_POLYMERASE | 61.11% | 16.67% |
GSTA3 | 61.11% | 16.67% |
抗原 | インスリン抵抗性 | インスリン感受性 |
CTNNA1 | 11.11% | 61.11% |
CDC37 | 5.56% | 50% |
LGALS14 | 5.56% | 50% |
BM88 | 11.11% | 55.56% |
NCBP2 | 11.11% | 55.56% |
PDDC1 | 5.56% | 44.44% |
ALS2CR8 | 5.56% | 44.44% |
PAFAH G SUBUNIT | 16.67% | 61.11% |
XRCC4 | 27.78% | 72.22% |
Influenza A Antigen (H3N2) | 44.44% | 88.89% |
インスリン抵抗性があるかどうかで自己抗原の存在割合に明確な差があります。すべての自己抗原が何を意味しているのかは調べていませんが、両方のグループで、自己抗原は主に細胞内タンパク質のようです。
肥満のインスリン抵抗性の男性の70%以上でGOSR1に対する抗体が検出されました。これは小胞体とゴルジ体の間、およびゴルジ体の間でタンパク質を輸送する機能があり、ゴルジSNAP受容体(SNARE)複合体というものの必須成分だそうです。もしかしたら小胞体ストレスに関連しているのかもしれません。
インスリン抵抗性の第3位の自己抗原のGFAPに対する自己抗体は2型糖尿病の約20%で出現しているようです。GFAPはグリア線維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein)というもので、中枢神経系のグリア細胞である星状膠細胞(アストロサイト)の細胞骨格内に存在する中間径フィラメントを構成するタンパク質だそうです。中枢神経の炎症などと関係している可能性がありますね。
進行した2型糖尿病患者のほぼ3分の1は、内皮細胞機能を阻害する自己抗体を持っているという研究もあります。(ここ参照)
逆にインスリン感受性で非常に多い自己抗体もいくつもあります。これらの自己抗体の一部は病原性が無いだけでなく、防御的な役割をしている可能性があります。
我々の体の中でも、様々な自己抗体が常に循環しているのでしょう。それが良いものなのか悪いものなのかは恐らく酸化ストレス、糖化ストレスなどによって変化するのかもしれません。
インスリン抵抗性は糖質過剰症候群です。糖質過剰摂取により病原性のある自己抗体が出現し、様々な疾患の原因や促進要因となる可能性があり、また、自己抗体でさらにインスリン抵抗性が増加する可能性もあると思います。
自己抗体は自己免疫疾患だけのものではありません。
「B Lymphocytes Promote Insulin Resistance through Modulation of T Lymphocytes and Production of Pathogenic IgG Antibody」
「B細胞は、T細胞の調節と病原性IgG抗体の産生を通じてインスリン抵抗性を促進する」(原文はここ)
「自己抗体は自己免疫疾患だけのものではありません。」
糖質過剰摂取を始めとした、人類のデフォルト(初期設定『糖質過剰症候群Ⅱ』より引用)
にそぐわない生活習慣によって、免疫反応も混乱しているでしょうね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
初期設定を大きく逸脱しても不具合を起こさないこともあるかもしれませんが、
多くの場合は混乱し、様々な不具合を起こす可能性が高くなると思います。