運動は健康にとって重要です。代謝障害の改善にも有効でしょう。筋肉を増やせば、血糖値の抑制にもつながります。しかし、メトホルミンを飲んでいる人はちょっと注意が必要です。
メトホルミンはインスリン抵抗性の低下作用や、抗炎症作用があると考えられているので、筋トレには良さそうですが、ある研究では、メトホルミンは高齢者の筋トレに悪影響を及ぼしました。
65歳以上の健康な人をメトホルミン群46人とプラセボ群48人に分けました。メトホルミン群は試験期間を通して1,700mg/日のメトホルミン(結構多いですね?)を投与され、すべての人が14週間筋トレをしました。
その結果、インスリン感受性は両グループで筋トレによって改善しましたが、グループ間に有意差はありませんでした。(図は原文より)
上の図は、aが体脂肪率の変化、bは除脂肪体重の変化、cは大腿の筋量変化です。筋トレにより脂肪率は減少しましたが、グループ間に差はありません。しかし、メトホルミンは筋トレによる除脂肪体重の増加を抑制しました。bに示すように、プラセボ群では除脂肪体重が1.95%増加したのに対し、メトホルミン群では0.41%の変化で有意差な増加はありませんでした。cに示すように、メトホルミンは大腿筋量の増加も阻害し、プラセボでは3.90%増加したのに対し、メトホルミンでは有意な増加は見られませんでした。
筋力はどちらのグループも増強しましたが、有意ではありませんが、メトホルミン群の方が筋力の増加は控え目でした。
上の図は大腿の外側広筋を生検したときの、外側広筋における筋線維のタイプI型線維、タイプIIa型線維、タイプIIx型の線維断面積(CSA)を測定したものです。タイプⅠは遅筋繊維で持久力の筋肉で、タイプⅡは速筋繊維で筋力も強いです。タイプIIaはタイプIIですが、中間型速筋で、高出力と持久性のバランス型になります。
メトホルミンは筋トレによるタイプI型線維のCSAには影響を及ぼしませんでした。さらに、メトホルミンはタイプII型線維の肥大にも影響を及ぼしませんでした。II型CSAの平均変化はプラセボで18.5%、メトホルミンで14.5%でした。
そして、dに示すように、メトホルミンは筋トレ後の線維タイプの変化を抑制しました。メトホルミンはタイプI線維の減少を示しませんでした。プラセボはタイプI線維の割合が6.06%減少したのに対し、メトホルミンは2.50%の有意ではない増加を示しました。両群ともタイプIIa線維割合が増加し、プラセボでは12.9%増加し、メトホルミンでは7.48%増加しました。両群ともIIx/IIax型線維の減少は同様に認められ、プラセボでは−7.49%減少し、メトホルミンでは−10.1%減少しました。
上の図は大腿の筋面積および筋密度の変化です。総筋面積の平均増加は、プラセボでは6.43%、メトホルミンでは2.27%でした。また、メトホルミンは平均筋密度の増加率が有意に低く、プラセボは筋密度を4.13%増加させたのに対し、メトホルミンは筋密度を2.49%増加させただけでした。
つまり、筋トレ後に通常見られる、遅筋で筋線維内の脂質(筋細胞内脂質)に富むタイプI筋線維から速筋で筋細胞内脂質の少ないタイプII線維への移行は、メトホルミンによって鈍化されました。
通常はベースラインの大腿筋密度(TMD)が低いほど、筋トレに対する機能的利益が大きいことに関連しています。上の図のようにベースラインのTMDは、プラセボの筋トレ後の大腿筋密度の変化と有意に関連していましたが、この関係はメトホルミンの使用によって鈍化しました。つまり、メトホルミンは筋トレで得られる利益が低下してしまいます。
上の図のように、メトホルミンは、ベースラインの大腿筋密度(TMD)が低い人では、図のb、cで示すように、動的および等尺性筋力のパフォーマンス向上を優先的に阻害しますが、パワーについてはaに示すように阻害しませんでした。メトホルミンを服用している人は、ベースラインのTMDが低い場合も高い場合も、効果が少ないようです。
また、筋トレ後の筋間脂肪組織の減少は、メトホルミンで鈍化しており、プラセボは平均9.1%筋間脂肪組織面積を失ったのに対し、メトホルミンでは5.7%でした。
ベースラインの大腿筋密度(TMD)が低いほど、筋トレ後のTMDの変化率が高くなっていましたが、大腿筋密度(TMD)の変化が大きい人を比べてみると、次の図のようになりました。
上の図のように、TMDの増加が最も大きかった人では、筋力の平均変化率はグループ間で差がありませんでした。しかし、メトホルミンを投与された人では、脚伸展のパーセント変化は減少傾向にあり、最大の等尺性収縮のパーセント変化は有意に減少しました。タイプI線維と比較して、タイプIIは密度が高い傾向があり、タイプIIの適応が筋トレ後の筋力向上を促進します。
下の図のように、メトホルミンは、タイプIからタイプIIへの変化を鈍化させるので、メトホルミンによる筋線維タイプの変化の減少は、筋力増加の減少に寄与した可能性が高いと考えられます。
メトホルミンは、mTORC1阻害を介して筋肥大を阻害し、筋タンパク質合成の減少またはオートファジーの増加をもたらす可能性があります。
運動は健康のためです。しかし、薬やサプリはその効果を減弱する可能性があります。
メトホルミンを飲んでいる人は、飲んでいない人よりもさらに強く、多くの運動が必要になるかもしれません。
「Metformin blunts muscle hypertrophy in response to progressive resistance exercise training in older adults: A randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter trial: The MASTERS trial」
「メトホルミンは高齢者の漸進的抵抗運動トレーニングに対する筋肥大を抑制する:ランダム化二重盲検プラセボ対照多施設試験:MASTERS試験」(原文はここ)
「Associations of muscle lipid content with physical function and resistance training outcomes in older adults: altered responses with metformin」
「高齢者の筋肉脂質含量と身体機能および筋力トレーニング結果との関連:メトホルミンによる反応の変化」(原文はここ)






