食後の過度の眠気は糖質過剰摂取が原因

私も糖質過剰摂取時代は、食後に過度の眠気を感じていました。食後の過度の眠気の原因は糖質過剰摂取です。

今回の研究は、症例報告ですが、非常に興味深い研究です。しかし対処方法が間違っています。

患者1
24歳の日本人男性患者が、3か月前からEDS(日中の過度の眠気)を発症していたため来院しました。当初は仕事中は起きていられたのですが、2か月後には眠気が強くなり、机で眠ってしまうことが多くなり、仕事のパフォーマンスが徐々に低下していきました。別の病院で睡眠ポリグラフ検査を受けたところ、無呼吸低呼吸指数(AHI)が1時間あたり2.2回(正常範囲:5回未満)と判明しました。EDSの改善を目的にカフェイン、モダフィニル、メチルフェニデート(←おいおい!何飲ませてるの?)を服用していましたが、効果はありませんでした。飲酒や習慣的な薬物使用はありませんでした。

身長は174.6cm、体重は77.2kg、BMIは25.3でした 。一般検査および神経学的検査の結果は異常ありませんでした。エプワース眠気尺度(ESS)のスコアは9でした。(ESSは日中の眠気を評価するもので、合計点数が11点以上で、睡眠時無呼吸症候群の疑いが強いと言われています。 合計点が1~4点でよく眠れているとされ、 5~10点は平均的な眠気です)。

甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、血清コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、プロラクチン、抗利尿ホルモンを含む代謝の検査は異常ありませんでした。HbA1cは5.4%(でした。MRIおよび脳波(EEG)は異常ありませんでした。

より詳しい病歴から、患者の眠気は食後である可能性が示唆されました。身体活動時を除いて、午前10~11時と午後2時に最も眠くなっていました。朝食を2時間遅らせてみたところ、2時間後に眠くなりました。炭水化物抜きの食事にすると、患者の眠気は減少しました。そこで、従来の120分間の75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)ではなく、240分間のOGTTを実施しました。(図は原文より、表は原文より改変)

患者1
治療前治療後
インスリン(μIU/mL)空腹時5.65.3
30分24.231.5
60分31.936.9
90分45.838.5
120分59.628.1
180分18.24.6
240分9.94.7
血糖値(mg/dL)空腹時8795
30分153185
60分211187
90分232151
120分224126
180分13158
240分8889
尿糖(mg/dL)空腹時
60分
120分200

上の表は治療前後のOGTTによるパラメータの推移です。患者はOGTT中に眠くなり、上の表のように、120分で血糖値が224mg/dLに達し、これは絶食状態の10.6倍のインスリン増加と関連していました。。インスリン抵抗性の指標のHOMA-IRは1.2、インスリン産生指数は0.28と正常でした。

そこで、SGLT-2阻害薬であるエンパグリフロジン10 mg/日の投与を開始しました。1か月後の追跡調査で、患者はEDSの症状がほぼ消失したと報告しました。その際のESSスコアは4でした。彼は元の仕事に復帰し、パフォーマンスはベースラインに戻ったそうです。彼はその後5か月間、同じ薬を服用し順調に経過しました。その時点で、2回目のOGTTを実施しました。上の表と下の図のように、治療前と比較して耐糖能が改善していることが明らかになりました。受診から2年3か月後、患者は同じ薬を服用しながらEDSは発症していません。

ただし、180分後には血糖値が58mg/dLとなり、機能性低血糖を起こしているように見えます。眠気はないけれど、冷や汗をかいたり、心臓がドキドキしているかもしれません。

上の図の (−) から (++) は、OGTT 中に患者が記録した眠気の程度を示します。(−) 眠くない、(+) 少し眠い、(++) 非常に眠い、です。治療前は75gブドウ糖摂取の1時間後から眠気が始まっています。そして、血糖値とインスリン分泌のピークも120分前後と遅れています。しかし、SGLT-2阻害薬内服後は血糖値のピークも60分前後と正常になっていますし、眠気もありません。

患者2
29歳の日本人女性患者が、ナルコレプシーの疑いで精神科医から紹介されました。3か月前、彼女は職場でも自宅でも日中の眠気を感じ始めました。会社秘書として運転中に、抑えきれない眠気を感じ、路肩に車を停めて短時間の仮眠を取ったり、眠気を紛らわせたりしていました。昼食後、彼女はしばしば机で眠ってしまいます。夕食後にシャワーを浴びている時でさえ、彼女は頻繁に眠気を感じていました。彼女は、睡眠麻痺(いわゆる金縛り)が数回、脱力発作を示唆するエピソードが1回あったと報告しました。診察時のESSスコアは17でした。

彼女は自閉症スペクトラム症と適応障害と診断され、臨床心理士によるカウンセリングを毎月受けていました。それ以外の既往歴はなく、飲酒や常用薬の服用もありませんでした。家族歴では、母親と兄弟が2型糖尿病を患っていました。

患者の身長は158cm、体重は58.5kg、BMIは23.4でした 。 一般検査および神経学的検査の結果に異常はありませんでした。代謝の検査の結果は、遊離チロキシン、TSH、ACTH、コルチゾール、成長ホルモン、プロラクチン値を含めて正常でした。HbA1Cは5.5%でした。睡眠時無呼吸検査では、呼吸イベント指数(REI)は4.9と正常でした。脳波および脳MRIの所見に異常はありませんでした。食後2時間に採取した脳脊髄液では、​​オレキシン値が381.6pg/mL(正常:> 110)を示しました。

食後眠気を示唆する出来事および 2 型糖尿病の家族歴に基づいて、OGTTを240分間実施し、その最中に眠気を催しました。下の表と図のように、絶食状態から120分後のインスリンが11.3倍増加しました。

患者2
治療前
インスリン(μIU/mL)空腹時7.8
30分60.6
60分65.1
90分80.2
120分88.1
180分66.5
240分8.9
血糖値(mg/dL)空腹時83
30分146
60分162
90分148
120分139
180分98
240分49

HOMA-IRは1.59でほぼ正常、インスリン産生指数は 0.83と高い値でした。α-グルコシダーゼ阻害剤であるミグリトール50mg を1日3回投与する治療を開始しました。 4 週間後の診察で、患者は日中の眠気が著しく減少したと報告し、下の図のようにシャワー中に眠くなるエピソードはそれ以降見られなくなりました

 

上の図の左が治療前、右が治療後で、自己記録した睡眠日誌です 。治療前は、(食事は黒色)食後30分から2.5時間という様々な間隔で日中の眠気( ピンク色の斜線が熟睡、ピンク色のみがウトウト状態です )が現れる傾向がありました。治療後は、眠気はほぼ消失しました。

ESS スコアは9でした。受診後2年3か月が経過しましたが、薬を服用している間はEDSは発症していません。彼女は臨床心理士の診察をやめて結婚しました。

患者1のOGTTは2型糖尿病のパターンです。しかし、空腹時血糖値もHbA1cも正常です。如何に空腹時血糖値もHbA1cも検出力が低いかわかりますね。空腹時血糖値はHbA1cが上昇し始めるころにはかなり耐糖能が低下しているはずです。患者2でも、OGTT1時間値は162 mg/dLで、155 mg/dLを超えてしまっています。

今回の研究の良いところは、過度の眠気と、血糖値スパイクの関連を示したことです。よくマスコミや専門家が低血糖で眠くなる、なんてウソを言いますが、食後の眠気は低血糖になるもっと前の、ピークの血糖値のころにやってきます。

糖質過剰摂取により、患者1も2も、余計な検査、余計な治療がされることになっています。患者1ではほとんど覚せい剤のメチルフェニデートを使用していました。しかもメチルフェニデートも無効の糖質過剰摂取による眠気って、本当に凄いですね。患者2はナルコレプシーまで疑われて、髄液検査が行われています。

そして、問題はその治療です。食後に過度の眠気の原因は食事の間違いにあり、糖質過剰摂取が原因です。医療は根本原因を取り除くことをせず、薬を使用してしまいます。この2人はこのままいけば、段々と耐糖能障害が進行し、様々な糖質過剰症候群が発症してくる可能性が高いでしょう。患者1では薬で治療しても血糖値のピークが180mg/dLを超えてしまっているのですから。

眠気はただの症状です。症状を治療して、原因をそのままにする医療があまりにも蔓延っています。医療にとっては利益になりますが、患者にとっては有害です。

食後に抗えないほどの強い眠気が来るようであれば、すでに耐糖能障害が進んでいる可能性があります。食後に過度の眠気を感じるようであれば、すぐに糖質制限を始めましょう。

「Excessive Postprandial Sleepiness in Two Young Adults Effectively Treated with Antidiabetic Medications」

「抗糖尿病薬で効果的に治療された2人の若年成人における過度の食後の眠気」(原文はここ

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