化粧品やシャンプー、スキンケア、ボディケアなどの日常的なパーソナルケア製品には、パラベンやフタル酸エステルが含まれていることが多々あります。フタル酸エステルと書かれていなくても、香料の中に潜んでいることがあります。
パラベンとフタル酸エステルは体内で弱いエストロゲンのような作用を示すとされています。そして、エストロゲンシグナルの過剰は長年、乳がんリスクの増加と関連づけられています。
今回の研究では、定期的にパーソナルケア製品を使用し、がんの診断を受けていない健康な女性36人に、すべてのパーソナルケア製品をパラベンやフタル酸エステルを含まないものに28日間切り替えるよう依頼しました。薬はなし、食事制限はなし。ただ製品を変えるだけです。
参加者はパラベン含有パーソナルケア製品を週7日間、少なくとも1種類以上使用していました。さらに、人工香料の未公開成分であるフタル酸エステルは、参加者が使用するパーソナルケア製品の一般的な成分でした。
| 分析対象物 | ベースライン濃度範囲 | 全ての研究参加者 | 遺伝子発現研究対象 |
|---|---|---|---|
| 事後<事前/合計 | 事後<事前/合計 | ||
| 尿検査 | |||
| パラベン(μg/gクレアチニン) | |||
| MP | 0.00 – 648.35 | 29/36 | 12/12 |
| EP | 0.00 – 220.73 | 26/36 | 10/12 |
| PP | 0.09 – 361.97 | 32/36 | 12/12 |
| BP | 0.00 – 55.21 | 27/36 | 9/12 |
| フタル酸エステル(μg/gクレアチニン) | |||
| MEHHP | 1.40~39.00 | 20/36 | 6/12 |
| MEHP | 0.00 – 14.87 | 17/36 | 4/12 |
| MEOHP | 1.13 – 17.00 | 10/22 | 1/12 |
| MEP | 6.93 – 385.00 | 26/36 | 8/12 |
| 血清分析 | |||
| エストラジオール(pg/ml) | 6.50 – 357.00 | 23/36 | 9/12 |
| プロゲステロン(ng/ml) | 0.10 – 19.70 | 9/36 | 2/12 |
| SHBG (nM/L) | 25.70 – 247.10 | 20/35 | 8/12 |
上の表は、この試験前後の尿検査や血液検査で、試験前よりも試験後に減少した様々な物質を認めた人数です。すべてのパラベン、MP (メチルパラベン)、EP (エチルパラベン)、PP (プロピルパラベン)、 BP (ブチルパラベン) 、およびジエチルフタル酸エステル代謝物 MEP (モノエチルフタル酸)について、 試験後のサンプルで有意な減少を示しています。
血清エストロゲン(エストラジオール)、プロゲステロン、および性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の値は比較的変化がありませんでした。
発現変動遺伝子(DEG)は、異なる条件の間の比較において、発現量が大きく上昇または減少した遺伝子ですが、今回の研究で、パラベンおよびフタル酸エステルを含まないパーソナルケア製品の使用によって、主に乳房組織内で誘発された重要な分子変化には、26のDEGが含まれていました。対照群と比較して試験前後で発現比が30%~90%低下した遺伝子が多数あり、発現率が26%~334%増加した遺伝子も多数ありました。
特に、がん関連遺伝子26個中19個(73%)の発現は、比較的「正常な」へのシフトを示しています。ゼノエストロゲン(分子構造が天然のエストロゲンに似ている合成化学物質)レベルは、パラベンおよびフタル酸エステルを含むパーソナルケア製品の使用によって促進され、高がんリスク表現型を示し、パラベンおよびフタル酸エステルを含まないパーソナルケア製品の使用により逆転させ、リスクを減少させることを示しています。
パラベンおよびフタル酸エステルを含まないパーソナルケア製品の使用によって細胞経路の遺伝子発現が正常レベルにシフトすることで、ホルモン感受性乳房細胞の天然エストラジオールに対する応答性が再調整される可能性が高いことを示唆しています。
PI3K-AKTシグナル伝達経路は、乳がんにおいて頻繁に活性化され、細胞の生存、増殖、代謝、アポトーシス回避を促進します。そのPI3K-AKTシグナル伝達経路が、試験後の細胞で最も有意な減少を示しました。
試験後のDEGのうち、推定がん遺伝子の80%の転写レベルが対照群と比較して低下したのに対し、推定腫瘍抑制遺伝子の60%の転写レベルは上昇しました。その結果、対照群サンプルは、アポトーシス回避やS期亢進といったエストラジオール処理に対する機能不全の表現型と一致する細胞応答を示しましたが、試験後の乳房サンプルでは、この応答が健康で保護的な状態に回復しました。
比較的「安全」と思わされている化学物質曝露で、健康な乳房細胞ががん誘発性にプログラミングされていると考えられます。
パラベンとフタル酸エステルを含まない製品の使用のわずか28日で、健康な乳房細胞における乳がん関連の活動をオフにしました。 いつものシャンプー、ボディウォッシュ、保湿剤、メイクアップ製品など、女性が頻繁に使用するものには、パラベンとフタル酸エステルを含むことが多いでしょう。
今すぐに国は規制を強化するべきです。もちろん企業も自主的に規制するべきです。
乳がんを発症する女性はどんどん増加しています。自分自身でも様々な製品を使用する前に、何が含まれているかを確認しましょう。できる限りシンプルな成分のものを選び、香料と書かれたものには注意が必要でしょう。
「Reduction of daily-use parabens and phthalates reverses accumulation of cancer-associated phenotypes within disease-free breast tissue of study subjects」
「日常的に使用するパラベンとフタル酸エステルの削減は、研究対象者の無病乳房組織におけるがん関連表現型の蓄積を逆転させる」(原文はここ)