マラソン後の臓器ストレスと損傷のバイオマーカー変化

マラソンは過酷なスポーツであり、決して健康的ではありません。なんであんな長く走ろうとするのでしょうか?私には理解できません(?)でも、なぜか走ってしまいます。レース中は苦しいのに、ゴールして早く走るのを止めたいのに。ゴールしたら次のレースや来年のレースを考えてしまいます。

今回の研究は、そんなマラソンの前後における、臓器ストレスや損傷および水分補給に関する血液および尿のバイオマーカーの変化を調査しました。

対象は2024年ボストンマラソンに参加した72人の男女のランナーで、年齢50歳、平均完走時間3時間45分です。レース当日の平均気温は19℃、相対湿度は47%でした。尿比重や血漿浸透圧により低水分状態を評価しました。

下の表はベースラインとレース後の血液および尿分析です。(図は原文より、表は原文より改変)

全体、n = 67 男性、n = 34 女性、n = 33
ナトリウム、mEq/L
 ベースライン 141±2 141±2 141±2
 レース後 142±2 143±2 142±3
カリウム、mEq/L
 ベースライン 4.2 ± 0.4 4.2 ± 0.3 4.2 ± 0.4
 レース後 4.1 ± 0.4 4.2 ± 0.4 4.1 ± 0.4
イオン化カルシウム、mmol/L
 ベースライン 1.25 ± 0.04 1.25 ± 0.04 1.26 ± 0.04
 レース後 1.16 ± 0.07 1.16 ± 0.06 1.16 ± 0.07
血糖、mg/dL
 ベースライン 96±13 96±12 96±15
 レース後 128±28 123 ± 27 133±30
BUN、mg/dL
 ベースライン 17±5 19±4 15±4
 レース後 20±6 23±5 18±5
クレアチニン、mg/dL
 ベースライン 0.9 ± 0.2 1.0 ± 0.2 0.8±0.1
 レース後 1.5±0.4 1.6 ± 0.3 1.4 ± 0.3
ヘマトクリット値、%
 ベースライン 42±2 44±2 41±2
 レース後 43±4 45±3 41±3
ヘモグロビン、g/dL
 ベースライン 14.4 ± 0.8 14.9 ± 0.7 13.9 ± 0.6
 レース後 14.5 ± 1.2 15.2 ± 1.0 13.9 ± 1.1
血漿浸透圧、mosmol/kgH 2 O
 ベースライン 293±5 294±5 291±5
 レース後 299±6 300±6 298±6
尿浸透圧、mosmol/kgH 2 O
 レース前 358±237 403 ± 259 317 ± 211
 レース後 366±155 394±170 341 ± 138
尿比重、AU
 レース前 1.009 ± 0.007 1.011 ± 0.009 1.007 ± 0.008
 レース後 1.017 ± 0.015 1.017 ± 0.020 1.015 ± 0.007

上の表のように、レース前後の変化は、血中ナトリウム(1 ± 3 mEq/L)、イオン化カルシウム(-0.1 ± 0.1 mmol/L)、血漿浸透圧(6 ± 8 mosmol/kgH 2 O)、尿比重(0.008 ± 0.016 AU)などでした。男性は女性と比較して、血中ナトリウムおよび血漿浸透圧が高くなりましたが、ほんのわずかです。ランナーの25%(男性8人、女性10人)はレース後の尿比重が1.020を超え、ランナーの34%(男性16人、女性8人)はレース後の血漿浸透圧が300 mosmol/kgH 2 Oを超えました。つまり、レース後に低水分状態と判断されたランナーはわずか25%~34%でした。

急性腎障害リスクマーカーはどうでしょう。クレアチニンおよび血中尿素窒素(BUN)はともに女性と比較して男性の方が高く、レース後に上昇しました。

上の図は急性腎障害の尿中マーカーです。尿中TIMP-2 × IGFBP7 、NGAL、KIM-1はレース前からレース後にかけて増加しました。しかし、急性腎障害の尿中マーカーについては、男女間(真ん中の図)、または正常水分状態のランナーと低水分状態のランナー間(右の図)でレース前とレース後の変化に差はありませんでした。

上の図は若年者 (18〜39 歳)、中年者 (40〜59 歳)、高齢者 (60 歳以上) における臓器ストレスおよび損傷のバイオマーカーのベースラインからレース後への変化です。分析では若年者、中年者、高齢者の間でも差はありませんでした。

上の図は、ベースラインおよびレース後の腸管バリア損傷および骨格筋損傷のマーカーです。(詳細は省略)IFABP、sCD14、クレアチンキナーゼ(CK)は、いずれもベースラインからレース後にかけて増加しました。しかし、これも男性と女性、正常水分状態と低水分状態のランナーの間では、ベースラインからレース後の変化に差はありません。

研究に参加した60人のランナーのうち45人(75%)は、ベースラインからレース後のIFABP(腸管バリア損傷マーカー)が大きく増加しました。レース中にランナーが報告した症状で、消化器症状の総スコアは、男女間、水分正常状態と水分不足状態の間でも差は認められませんでした。さらに、消化器症状の総スコアと、IFABPおよびsCD14のベースラインからレース後の変化との間に関係は認められず、レース完走時間は、IFABP、sCD14、CKの変化を予測しませんでした。

つまり、何がわかったかというと、

・市民ランナーレベルで、マラソン後に臓器損傷のいくつかのマーカーが大幅に上昇し、胃腸系と腎臓系にかなりのレベルのストレスがかかったこと

・測定した変数のいずれにおいても男女の反応に違いは見られず、これは、性別が持久力運動中に観察される臓器ストレス増加の要因ではない可能性があること

・多くのランナーは脱水症状をうまく緩和することができ、その結果、尿と血漿に基づく水分補給マーカーはわずかに上昇したが、電解質の著しい不均衡は見られなかったこと

・水分補給が維持されたにもかかわらず、ランナーは急性の腎臓および腸管バリア損傷のマーカーが大幅に増加したこと。つまり、マラソン中の水分補給維持だけでは臓器損傷のリスクを完全に相殺することはできないということ。

・ 若年者、中年者、高齢者の間でバイオマーカー反応に明確な差は見られないこと。つまり、臓器ストレスおよび損傷に年齢は関係ないこと。

興味深い研究ですね。いずれにしてもマラソンは過酷で、不健康なスポーツであることは確かでしょう。暑い時期のマラソン、100kmのウルトラマラソンなどでも同様の研究をしてみてほしいですね。

マラソンで脚が痛くなっても、NSAIDs使ってはダメですよ。腎臓がやられてしまいます。

「Biomarkers of organ stress and injury following the Boston Marathon」

「ボストンマラソン後の臓器ストレスと損傷のバイオマーカー」(原文はここ

3 thoughts on “マラソン後の臓器ストレスと損傷のバイオマーカー変化

  1. 筋肉痛に内服はいかにも腎臓始め内臓に負担掛けそうですが、
    シップ(テープ剤)、ローション、クリーム、ゲル等様々な外用薬はどうなのでしょう?
    ストレッチやアイシングも賛否両論ですが、、

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      外用薬は一応、薬物の血中濃度は全身投与によって達成される濃度の5~15%にしか達しないとされています。
      なので、腎臓に負担はそれほどかからないと思います。

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