以前の記事「心血管疾患リスクを抑えるためにLDLコレステロールを下げることはほとんど意味がない」ではLDLコレステロールは数値ではなく、質が重要だということを書きました。
その質を見極める一つの指標は中性脂肪/HDLコレステロールの比です。中性脂肪/HDL比が低ければ、小さな危険なLDLは非常に少ない、質の良いLDLとなると考えられます。今回のみなさんの血液データから中性脂肪/HDL比を見てみましょう。
これまでの集計結果は→「その1」「その2」「その3」「その4」「その5」
今回もデータは飲酒50g以上の人は12時間以上の絶食、その他の人は8時間以上の絶食で、糖質制限1年以上の人を対象としています。
人数 | 平均値 | 標準偏差 | ||
男女合計 | 糖質制限 | 124 | 0.75 | 0.48 |
以前の記事「糖質制限とLDLコレステロール上昇」で書いたように、日本の岡山大学の研究では中性脂肪/HDL比が3.03以上では急性冠症候群を惹起しやすい冠動脈のハイリスクプラークが有意に増加するそうです。
私自身は以前の記事「糖質制限とLDLコレステロール上昇3 脂質をもっと食べるべき?(人体実験)」で参照した研究より中性脂肪/HDL比は1.3以下を推奨と書いていましたが、勘違いをしていました。申し訳ありません。(図は原文より)
単位がmmol/Lだったので、日本の単位に変換すると、中性脂肪/HDL比は3.0以下でした。ここに訂正いたします。(恥ずかしい初歩的なミスでした)
ただこの値は交差するポイントです。つまり、小さな危険なLDLをメインで持っている人の90%は中性脂肪/HDL比は3.0以上であり、中程度または大きいLDLを持つ人の83.5%は中性脂肪/HDL比は3.0以下だということを表しています。
しかし、下の図を見てみましょう。(図はここより)表現型A(phenotypeA)は、大きくふわふわしたLDLが優勢であることを特徴としており、表現型B(phenotypeB)は、小さく密度の高いLDLが主要に構成されています。上の図と同じような意味を表す図です。この図は日本の単位で示しています。
二つのタイプが交差するのは女性(上の図)で中性脂肪/HDL比は約3.5、男性(下の図)で中性脂肪/HDL比は3.8です。中性脂肪/HDL比が3.0付近だと小さな危険なLDLがメインである表現型B(phenotypeB)が10数%存在しています。それが中性脂肪/HDL比が1.0程度であれば、ほぼゼロになります。
また、日本のデータで、中性脂肪/HDL比が男性で2.6、女性で1.4以上だと、中性脂肪/HDL比が男性で2.5以下、女性で1.3以下の人と比較してインスリン抵抗性を有する割合が男性で2倍以上、女性で5倍以上高いという研究があります。(ここ参照)
他にも下の図のように、中性脂肪/HDL比が日本の単位では2.0未満(図では0.87未満)と比較して、それ以上の場合、2型糖尿病の発生率が有意に高くなるという研究があります。(ここ参照)
さらにまた、男性で中性脂肪/HDL比が1.51未満の人と比較して、1.51以上だと心臓の冠動脈疾患の死亡リスクが有意に高くなるという研究もあります。(ここ参照)
これらのことから、以前の記事では勘違いしていましたが、糖質制限をする上ではやはり、中性脂肪/HDL比は1.3以下を推奨としたいと思います。この値であれば小さな危険なLDL(sdLDL)が優位になることほぼゼロでしょう。
「Ratio of Triglycerides to HDL Cholesterol Is an Indicator of LDL Particle Size in Patients With Type 2 Diabetes and Normal HDL Cholesterol Levels」
「HDLコレステロールに対するトリグリセリドの比率は、2型糖尿病および正常HDLコレステロールレベルを有する患者におけるLDL粒子サイズの指標である」(原文はここ)