医師たちは必死にLDLコレステロールを下げたがります。脂質代謝のうち、まともにコントロールができる唯一のものだからでしょう。中性脂肪値を下げたり、HDLコレステロールを上げたりする有効な方法を医師たちは持っていません。(本当は食事だけで改善しますが)
がんの患者にも脂質異常はよく認められるでしょう。では、HDLコレステロール、LDLコレステロール、総コレステロール、中性脂肪、アポリポタンパク質A1(ApoA1)、アポリポタンパク質B(ApoB)などの血中脂質レベルが、がん患者の全生存期間(OS)および無病生存期間(DFS)を予測する上でどのように役立つのでしょうか?
今回の研究では、血中の脂質代謝の検査項目とがん患者のOSおよびDFSの改善との関連を調べました。85,173人のがん患者を対象とした156件の研究のメタアナリシスです。
治療前にHDLコレステロール値が高かった患者は、OSの延長と有意な関連を示し、リスクは0.76倍でした 。 がんの種類別に分けると、血中HDLコレステロール値の上昇が、がんの死亡リスクを有意に低下させたのは、乳がん0.52倍、膀胱がん0.56倍、大腸がん0.65倍、胃がん0.86倍、婦人科がん0.60倍、肝細胞がん0.78倍、肺がん0.63倍でした。さらに、民族を考慮すると、アジア人患者ではHDLコレステロール値の上昇がOSの改善と有意に関連し、リスクは0.76倍でした。
同様に、DFSの改善にもHDLコレステロール値の上昇は関係し、再発や全原因の死亡リスクは0.72倍でした。 がんの種類別に分けると、HDLコレステロール値が高いほど再発などのリスクを低下させたのは、乳がんで0.64倍、大腸がん0.71倍、胆嚢がん0.64倍、上咽頭がん0.70倍、腎細胞がん0.68倍でした。
一方LDLコレステロールの上昇は、非アジア人のみOSに対する改善があり、がん死亡リスクは0.59倍でした。ただ、LDLコレステロール値の上昇は乳がんのDFS低下には関連が認められ、1.48倍でした。逆に食道がんと腎細胞がんはDFSの改善があり、それぞれ0.60倍と0.67倍でした。
総コレステロール値の上昇はわずかにOSとDFSが長くなり、リスクは0.96倍でした。
中性脂肪値の上昇は全体のがんのOSには関連がありませんでしたが、婦人科がんのOS低下のリスクは1.18倍で、婦人科がんのDFS不良リスクも1.10倍でした。民族に関しては、非アジア系患者において、中性脂肪値の上昇はOS低下リスクが1.29倍でした。
ApoA1はHDLの構成成分なので、当然HDLコレステロール値とほとんど同様な結果でした。
ApoBはLDLの構成要素です、ApoBの上昇は、いくつかのOS低下のリスク上昇と関連しており、胃がんで1.19倍、アジア人で1.13倍、60歳未満で1.12倍でした。逆に肺がんのDFS延長と関連しており、リスクは0.70倍でした。
全体的に見れば、HDLコレステロール値、総コレステロール値、ApoA1値の上昇と、がん患者のOSおよびDFSの改善との間に有意な関連が認められ、一方で、LDLコレステロール値、中性脂肪値、ApoB値とがん患者のOSまたはDFSの間には有意な関連は認められませんでした。
多くの医師はLDLコレステロール値には非常にうるさいのに、HDLコレステロール値はスルーします。非常にHDLコレステロールの低い患者でも、ときどき「HDLコレステロールって何ですか?」と聞く人もいます。それほどHDLコレステロールについて説明されてこなかったのでしょう。
以前の記事「HDLコレステロール値が低いといくつかのがんリスクが増加する その1」「その2」で書いたように、HDLコレステロールが非常に低いと、がんリスクが増加します。
HDLコレステロールは糖質制限で爆上がりします。できればHDLコレステロール80mg/dLを目指したいですね。
「Blood lipid metabolic biomarkers are emerging as significant prognostic indicators for survival in cancer patients」
「血中脂質代謝バイオマーカーは、がん患者の生存に関する重要な予後指標として浮上している」(原文はここ)