血糖値スパイク(グルコーススパイク)という言葉がテレビでも聞かれるようになりました。食後の高血糖の危険性が本当にしっかりと伝わっているかは疑問ですが。
食後にスパイクするのは血糖値だけではありません。中性脂肪値もスパイクします。これを中性脂肪スパイク(TGスパイク)と勝手に呼ばせていただきます。
TGスパイクは血糖値のように簡単な測定器がないので、採血を行わないとわかりません。
食後に数時間の間、中性脂肪値が上昇することは知られていますが、この上昇が大きい、つまりTGスパイクがあると問題があるのではと考えています。
血糖値のスパイクは1~3時間ですが、TGスパイクは4~8時間と長いです。恐らく、血糖値スパイクを起こしているような人はTGスパイクも起こしていると考えています。
以前の私の人体実験「大量のコレステロールを摂るとどうなるか? その1」で示したように、卵10個に含まれる脂質はおよそ60gですが、私の中性脂肪値は33から105へ増加しただけで、4時間後には低下してきています。私の体は非常に迅速にカイロミクロンで運ばれた中性脂肪を処理したのだと考えられます。カイロミクロンの半減期は1時間以内と言われています。
通常はリポタンパク質リパーゼ(LPL)によってカイロミクロンの中性脂肪は70~90%消失します。残りのカイロミクロンレムナントは中性脂肪が本当は少ないはずです。しかし、このような迅速な中性脂肪の処理が行われない場合、非常に長時間中性脂肪が上昇した状態が続き、しかもその中性脂肪値も非常に高くなると考えられます。つまり、レムナントの中の中性脂肪が非常に多い状態になり、しかもなかなか肝臓に取込まれないままでいることになるのです。ただ、VLDLが増加することが脂肪摂取後4〜6時間の中性脂肪の食後の増加に寄与するとも言われています。脂肪摂取後すぐの中性脂肪増加はカイロミクロンによるもので、4時間以降の増加はVLDLの増加がメインなのかもしれません。時間でうまく分けられるわけではないのかもしれないので、カイロミクロンのレムナントとVLDLの両方が関与しているのでしょう。
しかし、いずれにしても食後に中性脂肪が大きく増加することは、小さな危険なLDL(sdLDL)増加と関連しています。空腹時の中性脂肪値が高いことも問題ですが、食後の高中性脂肪も問題だと思います。両方だとさらに危険は増すと考えます。
下の図は空腹時の中性脂肪が高い場合とTGスパイクを起こした場合のsdLDLとの関連を示しています。(図は原文より)
この研究では、LDLの粒子の大きさを測定し、25.5nm以下をsdLDL、25.5nmより大きいものを大きなLDLとしています。LDLの粒子の大きさは連続しているので、様々な大きさのLDLが混在しています。どの大きさの範囲のLDLが多いかを測定し、ピークがsdLDL側にあれば、sdLDLが出現していると考えていると思います。
図のAは空腹時の中性脂肪が150mg/dl未満であり、食後の中性脂肪が230mg/dl未満の人です。Bは空腹時の中性脂肪が150mg/dl未満であり、食後の中性脂肪が230mg/dl異常の人ですう。Cは軽度の空腹時の高中性脂肪があり、空腹時が150以上200mg/dl未満で、食後の中性脂肪が230mg/dl未満の人です。Dは空腹時が150以上200mg/dl未満で、食後の中性脂肪が230mg/dl以上の人です。
結果を見ると明らかにDのグループのsdLDLの発生率は高く、およそ80%です。逆にAのグループは20%ちょっと程度とかなりの差があります。BとCはその中間あたりです。
そうすると、空腹時の中性脂肪値が150~200mg/dlと軽度であってもsdLDLは発生しやすく、食後の中性脂肪増加が加わるとかなり危険が増すことが考えられます。
sdLDLを有する人は、カイロミクロンレムナントの消失の遅延およびVLDLの産生速度増加と異化速度の低下を示すと考えられます。
上の図のように今回の研究では食後6時間しか測定をしていませんので、その後の状況はわかりませんが、別の研究では6~8時間の中性脂肪の増加がsdLDLと関連しているというものもあります。上の図でもTGスパイクは6時間が最も高い値を示していますが、その後さらに上昇するかもしれません。しかし、AとCのグループでは4時間をピークに低下してきていますし、スパイクというほどの山にはなっていません。つまり、4時間以上の段階でさらに中性脂肪値が増加することはカイロミクロンのレムナントかVLDL(またはVLDLのレムナントのIDL)がたくさん存在していて、肝臓やその他の組織での中性脂肪の取込みなどが上手く行っていないと考えられるのです。
上の左の図は横軸が空腹時の中性脂肪値、縦軸が食後の最大の中性脂肪値です。空腹時の中性脂肪を177で区切り、食後の中性脂肪を230で区切ると、空腹時177以上、食後230以上であると100%sdLDLが発生しています。右の図のように空腹時が53~176の場合、食後の中性脂肪が230以上に増加するかどうかによって60%と24%という2.5倍の違いとなります。
ここで、間違って欲しくないのは、「食後の中性脂肪値が高くならないように、脂肪を制限すれば良い」と短絡的に考えてほしくはありません。もしかしたら、脂肪を制限すれば食後に中性脂肪は増加しないかもしれません。しかし、糖質制限もして脂質制限もしたらあなたはタンパク質だけを摂ってエネルギーを得なければなりません。もしそうしたら恐らく死んでしまいます。この食後の中性脂肪の増加はあくまで糖質過剰摂取をしてきたことによって起きているのであり、脂質が悪いわけではありません。進化の過程を考えても脂質は非常に重要な役割があると考えられています。絶対に勘違いしないでください。糖質制限をしながら脂質はたっぷりと摂りましょう。
まずは空腹時の中性脂肪をしっかりと低下させましょう。恐らく糖質制限をすれば自ずと食後の中性脂肪値も上昇しなくなると思います。心配であれば次回の血液検査であえてたっぷりと脂質を摂った後4時間後くらいに測定してみてはいかがでしょうか?
「Association Between Small Dense Low-Density Lipoprotein and Postprandial Accumulation of Triglyceride-Rich Remnant-Like Particles in Normotriglyceridemic Patients With Myocardial Infarction」
「正常中性脂肪血症患者におけるsdLDLと中性脂肪に富むレムナント様粒子の食後蓄積と心筋梗塞との関連」(原文はここ)