HDLコレステロール値が低いといくつかのがんリスクが増加する

多くの医師はLDLコレステロールが高いと、患者にそれを指摘し、薬を飲むように促し、それに従わないと心血管疾患になったり、死んでしまうと脅します。

しかし、HDLコレステロールが低くても指摘されないことが多いのではないでしょうか?

今回の研究では、HDLコレステロールとがんとの関連を分析しています。性別と年齢がマッチングされたがん患者30,968人と非がん対照群30,968人が対象です。平均年齢は71.5歳で、46.3%が女性でした。総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の平均値は、各患者について、指標日前3年間の検査パラメータの平均値です。(表は原文より改変)

検査値OR(95%信頼区間)
総コレステロール(mg/dl)
 200未満1
 200~2500.93 (0.89–0.97)
 > 2500.89 (0.82–0.95)
LDLコレステロール(mg/dl)
 100未満1
 100~1600.97 (0.93–1.02)
 > 1601.02 (0.94–1.09)
HDLコレステロール(mg/dl)
 40以上1
 39~351.02 (0.96–1.09)
 35未満1.22 (1.13–1.31)
中性脂肪(mg/dl)
 150未満1
 150~2000.98 (0.94–1.02)
 > 2000.99 (0.94–1.04)

上の表のように、がんに関連したのは総コレステロールとHDLコレステロール値です。総コレステロール値が200~250mg/dLだと、がんの可能性は0.93倍で、250以上だと0.89倍と、コレステロール値が高いほどリスクが低くなりました。一方HDLコレステロールが35mg/dL未満だと、がんの可能性は1.22倍になりました。

検査値女性男性60歳以下61~70歳71~80歳80歳以上
総コレステロール(mg/dl)
 200未満111111
 200~2500.91 (0.85–0.96)

p  = 0.002

0.95 (0.90–1.00)

p  = 0.046

0.99 (0.90–1.09)

p  = 0.852

0.92 (0.85–1.00)

p  = 0.056

0.93 (0.87–0.99)

p  = 0.030

0.87 (0.80–0.95)

p  <0.001

 > 2500.88 (0.80–0.97)

p  = 0.008

0.87 (0.78–0.98)

p  = 0.022

0.96 (0.81–1.13)

p  = 0.598

0.95 (0.83–1.10)

p  = 0.492

0.88 (0.77–0.99)

p  = 0.035

0.74 (0.63–0.88)

p  <0.001

LDLコレステロール(mg/dl)
 100未満111111
 100~1600.95 (0.88–1.03)

p  = 0.212

0.98 (0.92–1.04)

p  = 0.445

0.95 (0.84–1.07)

p  = 0.427

0.90 (0.81–1.00)

p  = 0.047

0.98 (0.91–1.06)

p  = 0.600

1.02 (0.93–1.12)

p  = 0.722

 > 1601.03 (0.92–1.15)

p  = 0.616

0.98 (0.88–1.07)

p  = 0.622

0.99 (0.83–1.17)

p  = 0.901

0.87 (0.75–1.01)

p  = 0.061

1.02 (0.90–1.15)

p  = 0.793

1.23 (1.05–1.45)

p  = 0.012

HDLコレステロール(mg/dl)
 40以上111111
 39~351.17 (1.03–1.33)

p  = 0.015

(0.94~1.07)

p  = 0.933

1.19 (1.03–1.36)

p  = 0.017

1.03 (0.91–1.15)

p  = 0.674

0.99 (0.90–1.09)

p  = 0.856

0.93 (0.82–1.07)

p  = 0.310

 35未満1.56 (1.35–1.81)

p  <0.001

1.17 (1.08–1.27)

p  <0.001

1.43 (1.21–1.68)

p  <0.001

1.25 (1.08–1.44)

p  = 0.002

1.12 (1.00–1.26)

p  = 0.061

1.15 (0.98–1.35)

p  = 0.098

中性脂肪(mg/dl)
 150未満111111
 150~2001.00 (0.95–1.07)

p  = 0.886

0.95 (0.90–1.00)

p  = 0.059

1.04 (0.93–1.15)

p  = 0.513

1.01 (0.94–1.10)

p  = 0.743

0.96 (0.89–1.02)

p  = 0.178

0.92 (0.84–1.01)

p  = 0.070

 > 2001.06 (0.98–1.13)

p  = 0.140

0.94 (0.88–1.01)

p  = 0.051

0.97 (0.87–1.09)

p  = 0.619

0.97 (0.89–1.06)

p  = 0.473

1.01 (0.93–1.09)

p  = 0.856

0.98 (0.88–1.09)

p  = 0.723

上の表は、年齢または性別による関連性の違いです。その結果、HDLコレステロール値35mg/dL未満だと、がんの可能性は男性1.17倍、女性1.56倍でした。総コレステロール値250以上では男女ともにがんの可能性は低下しました。

年齢層別では、35mg/dL未満の低HDLコレステロール値とがんの可能性との正の相関は60歳未満の年齢層で最も強く、1.43倍でした。60歳未満ではHDLコレステロール39~35でも1.19倍でした。35mg/dL未満では、61歳から70歳でも1.25倍でした。

総コレステロール値とがんとの負の相関は、71歳以上の年齢層において認められました。

不思議なことに、LDLコレステロール160以上の80歳以上の年齢層でがんの可能性が1.23倍になっていました。

検査値消化器官呼吸器皮膚乳房前立腺尿路リンパ組織と造血組織
総コレステロール(mg/dl)
 200未満1111111
 200~2500.88 (0.80–0.97)

p  = 0.013

0.87 (0.75–1.00)

p  = 0.043

0.97 (0.89–1.07)

p  = 0.552

0.90 (0.79–1.03) p  = 0.1311.07 (0.95–1.21)

p  = 0.290

0.91 (0.79–1.05)

p  = 0.209

0.91 (0.81–1.03)

p  = 0.129

 > 2500.89 (0.74–1.06)

p  = 0.182

0.70 (0.51–0.87)

p  = 0.003

1.08 (0.92–1.27)

p  = 0.344

0.93 (0.76–1.15)

p  = 0.528

0.96 (0.75–1.23)

p  = 0.734

0.73 (0.55–0.97)

p  = 0.031

0.85 (0.69–1.05)

p  = 0.131

LDLコレステロール(mg/dl)
 100未満1111111
 100~1601.03 (0.92–1.16)

p  = 0.545

0.94 (0.79–1.11)

p  = 0.437

1.01 (0.91–1.13)

p  = 0.800

0.95 (0.80–1.13)

p  = 0.560

1.11 (0.97–1.27)

p  = 0.146

0.92 (0.78–1.09)

p  = 0.378

0.94 (0.82–1.08)

p  = 0.376

 > 1601.01 (0.84–1.20)

p  = 0.050

1.24 (0.96–1.60)

p  = 0.107

0.93 (0.79–1.09)

p  = 0.378

1.11 (0.88–1.40)

p  = 0.394

1.15 (0.92–1.45)

p  = 0.210

1.07 (0.82–1.41)

p  = 0.609

0.93 (0.75–1.14)

p  = 0.465

HDLコレステロール(mg/dl)
 40以上1111111
 39~350.95 (0.82–1.10)

p  = 0.468

1.25 (1.02–1.52)

p  = 0.029

1.01 (0.88–1.17)

p  = 0.851

1.19 (0.91–1.56)

p  = 0.208

0.96 (0.82–1.12)

p  = 0.581

0.95 (0.77–1.16)

p  = 0.593

1.16 (0.98–1.36)

p  = 0.090

 35未満1.29 (1.08.1.54)

p  = 0.005

1.37 (1.08–1.73)

p  = 0.010

1.22 (1.03–1.43)

p  = 0.019

1.18 (0.87–1.61)

p  = 0.298

1.10 (0.90–1.34)

p  = 0.356

1.19 (0.93–1.51)

p  = 0.160

1.27 (1.04–1.54)

p  = 0.019

中性脂肪(mg/dl)
 150未満1111111
 150~2000.98 (0.89–1.09)

p  = 0.718

1.02 (0.88–1.17)

p  = 0.806

0.93 (0.85–1.02)

p  = 0.135

1.04 (0.91–1.18)

p  = 0.598

0.90 (0.80–1.02)

p  = 0.093

0.95 (0.82–1.11)

p  = 0.530

0.90 (0.80–1.01)

p  = 0.080

 > 2000.96 (0.85–1.07)

p  = 0.422

1.04 (0.88–1.22)

p  = 0.669

0.91 (0.82–1.01)

p  = 0.080

1.05 (0.90–1.23)

p  = 0.506

0.81 (0.70–0.94)

p  = 0.004

1.12 (0.94–1.32)

p  = 0.198

0.99 (0.86–1.13)

p  = 0.832

上の表は、がんの部位別の関連です。HDLコレステロール値35mg/dL未満とがんの可能性は、消化器がん1.29倍、呼吸器のがん1.37倍、皮膚がん1.22倍、リンパ系および造血組織がん1.27倍でした。さらに、総コレステロール250mg/dL超と呼吸器がんおよび尿路がんとの間には負の相関傾向も認められました。

HDLには免疫調節、抗酸化作用、抗アポトーシス作用、抗炎症作用があると考えられています。HDLレベルの低下は、TNF-αやインターロイキン-6(IL-6)などの炎症レベルの上昇と関連しています。がんの進行における増殖および炎症経路に影響を与える可能性があります。

実際にはHDLが低い代謝状態が問題で、それによりがんのリスクが増加すると思っています。

多くの医師がなぜHDLコレステロール低下について、積極的に指摘しないのでしょうか?恐らく、ほとんどの医師はHDLコレステロールを上げる方法を知らないからではないかと思います。そして、HDLコレステロールを上げる薬も存在しないからだと思います。医師は薬がないと治療できないと思い込んでいます。

LDLコレステロールを下げる薬、スタチンはどうでしょうか?

以前の記事「糖質制限ではどうしてHDLコレステロール値が増加し、中性脂肪値が低下するのか? その2」で書いたように、メカニズム的にはスタチンによりコレステロールの合成が低下すると、細胞ではSREBP-2が増加し、コレステロールの合成と取り込みを促進しようとしますし、miR33aによりコレステロールの引き抜きに関わるABCA1によるHDL産生を抑えることになります。つまり、スタチンはHDLを低下させる可能性があるのです。

実際にも、「スタチンがHDLコレステロールを低下させることは珍しくない」で書いたように、スタチン治療を開始した患者のHDLコレステロールは20%の人で減少し、58%で変化がなく、22%で増加していました。

つまり、頼みのスタチンですらHDLコレステロールを上げる可能性が少ないのです。そうすると、医師はHDLコレステロールが低いことは見て見ぬふりをするのが一番です。メタボリックシンドロームの診断基準にあろうが、自分の処方で改善させられないものは無視です。

もし、医師がHDLコレステロール低値を指摘したら、そのときは是非どうしたらHDLコレステロールが増加するか聞いてみてください。運動はOKですが、バランスの良い食事をしてください、と言ったらアウトです。バランスの良い食事をしてくださいと言われたら、今もバランスの良い食事をしていますが、他に何を摂ったら良いですか?何を減らしたら良いですか?と聞いてみてください。うまく答えられる医師がどれほどいるでしょうか…

いずれにしても、HDLコレステロールが40を切っているようであれば、すぐに糖質制限を始めましょう。(本当は60を切っていたら始めた方が良いですが…)

「Low blood levels of high-density lipoprotein (HDL) cholesterol are positively associated with cancer」

「血中HDLコレステロール値が低いことは、がんと正の相関関係にある」(原文はここ

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