ビタミンのサプリメントであっても不都合な遺伝子のスイッチを切り替えてしまうかも?

遺伝子は親から受け継いだものですが、一度受け継いだ遺伝子はそのまま変わらないわけではありません。遺伝子はスイッチみたいなもので、何らかの要因でスイッチがオンになったり、オフになったりします。長寿をもたらすサーチュイン遺伝子のようにオンになって、良いものもあれば、オンになったことによって悪い遺伝子もあります。

では、どうしたら遺伝子のスイッチが切り替わるのでしょうか?それはわかっているものもありますが、全てはわかりません。恐らくわかっているものの方が少ないのではないでしょうか?

今回紹介する研究ではサプリメントによって悪い方へスイッチが切り替わってしまう内容です。マウスの研究ですが、人間とは違うではすまない可能性があります。人間と他の生物の遺伝子配列は多くの部分で共有しているのです。違いは数%ということもあるのです。だから、マウスで起きたことが人間でも起きうる可能性は十分にあります。

しかも、今回の研究で興味深いのは、妊娠中の母親ではなく、父親の方にサプリメントを与えて、そしてその子孫に記憶力低下という問題が起きてしまったのです。

サプリメントの思わぬ危険性(メチル基ドナーは父親を介して子供の記憶力を低下させる)

西川伸一 | NPO法人オール・アバウト・サイエンスジャパン代表理事

4/12(水)  Yahooニュースより

エピジェネティックス

「エピジェネティックス」という言葉にはあまり馴染みがないと思う。しかし、私たちが受精卵から発生・成長・老化するプロセスは、ほとんどエピジェネティックスに関わると言って良い。例えば発生過程で何百種類もの異なる細胞が生まれるが、核内のDNAはかわらない。細胞間の形や性質に差が生まれるのは、DNAが変化したのではなく、DNAの使い方を指示する情報の変化により決まっている。30億塩基もの長さの染色体上のどの遺伝子を安定にonにし、どれをoffにするか、これを決めている機構全体をエピジェネティックスと呼んでいる。  

DNAメチル化

エピジェネティックスによる情報は、細胞が分裂しても遺伝子と同じように子孫細胞に受け継ぐことができる。このおかげで、皮膚の細胞は皮膚のまま分裂を続け、急に血液になったりしない。(そんなことになれば体は維持できない)。このOn/Offを決める情報を維持するために様々な機構が存在するが、DNAに直接メチル基という旗を立てて、遺伝子を使いにくくする方法は重要な戦略の一つだ。

DNAのメチル化は環境により狂うことがある

メチル化されたDNAを子孫の細胞に受け継ぎ維持する機構を私たちは持っているが、メチル化するDNA部位はしばしば環境により狂わされる。深刻な問題となるのが、妊娠中の妊婦さんの食生活により、胎児のメチル化部位が変化する可能性だ。例えば、妊娠期間中に飢えにさらされた妊婦さんの子供は、糖尿病になりやすい。これは、遺伝子の変異によるのではなく、エピジェネティックス情報の変化に起因する。こうして変化したエピジェネティックな情報は、一生その子供につきまとうこともある。

現役時代、胎児のDNAメチル化の変化について教えるための教材として、低濃度のダイオキシンにさらされた妊娠マウスから生まれた子供が、DNAメチル化による遺伝子抑制が外れて毛色が変化することを報告した論文を使っていた。面白いことに、この毛色の異常は、メチルドナーと呼ばれるDNAメチル化反応の経路にメチル基を供給する餌を食べさせると予防することができる。食事によるDNAメチル化パターンのダイナミズムを教える目的には格好の論文だった。

メチル基ドナー

この時メチル基ドナーとして用いられたのが、メチオニン(アミノ酸)や葉酸やビタミンB12で、葉酸やビタミンB12はメチル基の供給に関わる回路を回すために重要な役割を演じている。このため、米国の医療期間では葉酸の血中濃度を上げるよう指導しているところもある。

しかしどんなに体に良さそうなサプリメントも、「過ぎたるは及ばざるが如し」で、葉酸の取りすぎは発生異常や、子供のアトピーを増加させることが報告されている。

この相反する結果を考えると、妊婦さんに対しては、「なるべくサプリメントを用いず、バランスの良い食事でしっかり葉酸を含む栄養をとること。そして、低栄養もエピジェネティックスを狂わすので、ゆめゆめ断食でダイエットなど考えないよう」が正しいアドバイスだろう。

お父さんの食べ物も子供に影響を及ぼす

通常食事によるエピジェネティックスの狂いが問題になるのは母体の話だが、最近マウスモデルの話だが、ドイツ・ボンにある神経変性疾患研究所から、お父さんがメチル基ドナーを摂取しすぎると生まれてきた子供の記憶力が低下しているという恐るべき論文が報告された。(原文はここ

研究のあらまし

この研究はわかりやすい。雄マウスを2群に分け、一方には普通の餌、もう一方にはメチルドナーを多く含む餌を6週間与えた、その後通常の餌で育てたメスマウスと掛け合わせ、生まれてきたマウスの成長を待って、認知機能や記憶力を定番の方法で調べるとともに、脳の生理学的検査、そして遺伝子発現やDNAメチル化状態を2群で比べている。

この時食べさせた餌には1kgあたり7.5gメチオニン、15gコリン、15gベタイン、15mg葉酸、1.5mgビタミンB12、150mg亜鉛が含まれている。このサプリメントのほとんどは、一般にもサプリとして出回っており、市販されているサプリの中にはは妊婦さんにも効果があるとうたっているものもある。また葉酸や、ビタミンB12は重要な代謝経路を回す働きがあり、疲れたお父さん向けのビタミンドリンクやエネルギードリンクに普通に含まれている。

結果

マウスの認知機能を調べる定番の認知機能検査と長期記憶検査の成績がこの餌を食べた雄マウスの子供では低下する。また、海馬の脳電気活動を調べた検査でも、記憶に関わるテータ波の低下がみられ、海馬の記憶回路形成に問題があることを示している。

次に脳の遺伝子発現を正常の子供と比べ、様々な遺伝子の発現が変化するとともに、カルシウムイオン濃度と膜電位に応じて開閉するカリウムチャンネル分子の発現が、メチル化により抑制されていることを突き止めている。

最後にDNAメチル化の異常がでたマウスにこのチャンネル分子遺伝子を導入すると、記憶の低下を治せることも示している。

メカニズムは不明

お父さんから子供に伝わるのは精子だけだ。この結果は、お父さんの精子のDNAがメチル基ドナーを食べることで余分にメチル化されたため、必要な遺伝子が発生過程でうまくOnにならなかったためと考えられる。父親の精子形成過程で起こったエピジェネティックな変化が子供に伝わり異常を引き起こすことはよく知られている事実だ。しかし精子のエピジェネティック情報は卵内で書き換えられる。従って、メカニズムを完全に解明するためには、精子形成から、受精、発生と長期にわたって染色体のエピジェネティックスを調べる研究が必要だ。

人間ではどうか?

では同じことが人間でも言えるだろうか?これを証明するためには、サプリを飲んだお父さんと飲んでいないお父さんを選んで、長期の疫学調査が必要で、すぐには結論が出ないだろう。

しかし、サプリが効くことを示すには十分な臨床治験が必要だが、サプリの危険性については、疑いがあれば避けるのが賢明だと思う。

我が国は、トクホ、トクホで、様々なサプリの効果をうたう宣伝が満ち溢れている。疲労回復目的など様々な理由でサプリやエネルギードリンクを飲んでいるお父さんも多いだろう。しかしこの論文が示したように、動物実験であっても、サプリやエネルギードリンクを飲んだ結果が子供に悪い影響を及ぼす懸念が少しでもあるなら、わざわざ金を払ってサプリやドリンクで栄養を補うことはやめたほうがいいと私は思う。

生殖年齢である方、これから子供を作ろうと思っている夫婦の方たちには非常に重要なことです。母親だけが栄養面に気を付ければ良いのではなく、やはり夫婦ともに食事、栄養が重要なんです。そして、安易にサプリメントや栄養ドリンクなどで一部の栄養を大量に体内に入れる危険性というのを認識する必要があります。

正直なところ、実際には遺伝子のスイッチが切り替わっても、切り替わらなくても、何も本人に変化はないでしょう。しかし、わからないところで、わからないことが起きている可能性があるのです。

もちろん、良いスイッチを切り替えることもあります。

PM2.5と戦うビタミンB群

2017.5.2  リンクでダイエット より 

ビタミンB群の補給により、微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染によって引き起こされる心血管疾患への影響を減らすことができるという。米国コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院の研究。(原文はここ

この研究では、18-60歳の健康な非喫煙者10人を対象に、PM2.5に2時間さらすという試験を2回行った。なお、1回目の試験の前には4週間に渡りプラセボ薬を、2回目の試験の前には4週間、ビタミンB群(葉酸、ビタミンB6、B12)のサプリメントを飲んでもらった。また比較のため、PM2.5を含まない空間で2時間過ごした場合のデータも取った。

その結果、ビタミンB剤を摂取していた場合、心血管系と免疫系に及ぼすあらゆる悪影響が覆されていたという。例えば、悪影響を減弱した割合は、心拍数に対しては150%、白血球数では139%、リンパ球数106%であった。

これは、大気汚染への暴露に対する生物学的・生理学的反応をビタミンB群サプリメントが改善するのかを評価した初めての臨床試験だ。

環境上の微小粒子汚染は、主に心臓血管系の急性作用を介して毎年世界中で370万人の早死の一因になっている。
「PM2.5は、最もよく見られる大気汚染物質の一種で、新機能と免疫系に負の影響を及ぼします。私たちの研究は初めて、ビタミンB群サプリメントがPM2.5による心機能障害と炎症マーカーへの急性作用を減少させるかも知れないという証拠を提供しています。」と研究者のゾン氏は話す。

ちなみにこの論文は、すでに3月に発表された「ビタミンB群が大気汚染によるエピジェネティック・マーカーへの負の影響を減少させる」という研究(原文はここ)を基にしたものだ。

なお、今回の実験に参加した人は、汚染度の低い都市に住む健康な成人であったため、もし対象が別のタイプの人―例えば心血管疾患があったり、子ども、高齢者、汚染度の高い地域の住人などであった場合、今回の結果はあてはまらないかもしれないと注意している。

今回紹介した二つの研究では、使っているサプリメントの成分(葉酸やビタミンB12)が共通しているものもあるのです。同じ成分でも、ある時は良いスイッチを、ある時は悪いスイッチを切り替えてしまうことがあるのです。

エピジェネティックに関してはまだわからないこともいっぱいです。あなたが食べているもの、あなたがしていることなど、いろいろなことが遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりします。サプリメントを摂ったとして、それが良い遺伝子のスイッチを切り替えるか、悪い遺伝子のスイッチを切り替えるか、それとも何も起きないか、それはまだ不明です。一度切り替わったスイッチがまた元に戻せないこともあります。そして、切り替わった遺伝子は自分の子供に遺伝します。

誰が何と言おうとサプリメントを摂るかどうかの選択は自分自身が決めます。もし、サプリメントを摂りたいのなら、覚悟を持って、自己責任でどうぞ。

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