鉄と乳がんの関係

「鉄はある種の症状を改善するかもしれないが、ある種のがんを増加させるかもしれない」という記事で書いたように、がんと鉄の関係は明らかにあるようです。乳がんについてもその記事の中で書きましたが、今回はもう少し付け足したいと思います。

乳がん細胞ではフェロポーチンは減少していて、それは、不安定な鉄の増加と関連しています。フェロポーチン遺伝子の発現低下は予後不良と関連しています。フェロポーチンを調節するのはヘプシジンというもので、ヘプシジンが高くなるとフェロポーチンは減少します。

ヘプシジンは血液中の鉄によって変化しますが、鉄が増えればヘプシジンの合成が増えます。さっき書いたようにヘプシジンが増えるとフェロポーチンは減少します。そうすると、乳がん患者が鉄のサプリメントをたくさん使ってしまうと、ヘプシジンが増えて、フェロポーチンが減る、そしてがんが促進する。という図式も考えられるのです。そうするとフェロポーチンを人為的に上げてやれば、乳がんの増殖を抑えることができるかもしれません。ただ、正常な細胞においても鉄は必須のものなので、極端な鉄欠乏にしてしまうと、エネルギーが不足します。逆に、元気のないがんの患者に鉄を与えると元気を回復しますが、それはがんも元気になってしまいます。非常に難しいところです。

ただ、閉経前では鉄欠乏が乳がんの再発率上昇と、閉経後は鉄の負荷が乳がん発生と関連していると考える研究もあります。(原文はここ

さらに、マウスの段階ですが、若年性の乳がんは鉄欠乏に関連しているという研究もあります。(原文はここ

また、鉄代謝に関連する遺伝子の発現と乳がんの予後との間の著しく強い関連性を示す、鉄代謝および乳がん予後に関与する61個の遺伝子のほぼ半分が、実際に統計的に有意な関連を有するという研究があります。(原文はここ

遺伝子がこんなにたくさん関わってくると私の手には負えません。

また、乳がんの治療の管理、進行状況などを判断する腫瘍マーカーとして、フェリチンが有効だとしている論文があります。(原文はここ

この中では、健康な女性では、閉経前女性と閉経後女性の間で、フェリチン濃度の統計的に有意な差異が観察され、両乳がん群では、フェリチン値は健常な閉経前女性よりも高かったそうです。進行した乳がんの患者では、フェリチンは初期外科的治療を受ける患者群の術前レベルと比較してさらに上昇したということもわかりました。

下の図で、Ⅰが閉経前の健康な女性、Ⅱが閉経後の健康な女性、Ⅲが乳がんで手術前、Ⅳが進行性の乳がん女性のそれぞれのフェリチン値です。

 

 

(クリックで拡大、図は原文より)

これを見るとかなりフェリチンというのは範囲が広く分布しているのがわかります。だから、フェリチンの値がいくつだから健康で、いくつだからがんのリスクが高いとは一概には言えません。しかし、がんの患者さんの方がフェリチンが高い傾向であり、進行に従いさらに高くなる傾向があります。これはもしかしたら、がんに鉄を供給しないような保護機構である可能性があります。また、閉経に伴いフェリチンが増加し、それと乳がんの増加は関連している可能性もあります。さらに、がんによってフェリチンは増加するので、フェリチンが高いことがそのまま悪いかどうかはわかりません。つまり原因と結果がどうなのかがはっきりしません。

しかし、フェリチン値が50ぐらいで線を引くと、それ以下のフェリチン値では明らかに閉経前の乳がん患者は少なくなります。そうすると、フェリチン値が50を超えたら「良かったね」とも言えない気がしてきませんか?

やはり、正直なところ「わからない」が今の結論です。しかし、がん細胞が発生するときも増殖するときも鉄がいっぱい必要なことは確かです。乳がんだけの話ではありません。正常細胞にも必要ですが、がん細胞にも必要なんです。では、質問です。「鉄は安全ですか?」

私の答えは「わかりません」です。または「ときとして危険」です。私の推奨は、やはり鉄欠乏にならないように「食事から摂取」です。

4 thoughts on “鉄と乳がんの関係

  1. このグラフはとても興味深いですね!
    F川先生のブログでは
    「女性は鉄!鉄!鉄!」
    とおっしゃっているので、
    サプリを使ってでも補給したほうがいいのではないか?
    という気になってきますが、少し冷静になれます。
    たしかにフェリチンがいくつだからどうだとは
    一概に言えないですね。

    あと個人でフェリチン値を知るのって
    少し難しいんですよね。
    フェリチン測定のためだけに血液検査をしようとすると
    保険適用外。
    「貧血なんです~」とかいってお医者さんに
    診療の一環として血液検査をしてもらえば
    保険で知ることができるそうです。
    簡単に知れないということは
    あまり重要視されてない数字ということ
    なんでしょうか。。。

    とりあえずわたしは日々スーパー糖質制限をし
    週1回レバーの日をもうけることにしました。
    このおかげかどうかわかりませんが、
    生理痛がだいぶ軽くなりました。

    ただ、レバーの適正摂取量について
    ネットでいろいろ調べたのですが
    バラバラでよくわかりません。
    週1回100gでもどうも摂りすぎのようなんですが
    先生はどれくらいがいいと思われますでしょうか?
    普段MEC食でブロッコリーも少し食べてるので
    わざわざレバーを食べなくてもこれで十分ですかね?

    1. ゆうこさんコメントありがとうございます。

      フェリチンのように個人差が大きいものをいくつが適切というのは難しいでしょう。糖質制限をしていればこれぐらいの値になりますよ!なんて変ですよね?
      ちなみに私は興味があり測定してみましたが、たった(?)108です。糖質制限をする前500以上あった人が糖質制限をするようになったら半分に減った人も知っています。もちろん一桁の値は問題かもしれませんが、本当のところのその人にちょうどいい値なんて誰にもわかりません。だから、調子が悪くないのであれば敢えてどんどん上げる必要はないでしょう。鉄の代謝についてはまだまだ分からないことが多いと思います。

      レバーについてはやはりビタミンAの過剰摂取の問題がありますから、週に1回100gは多いかもしれません。MEC食なのでそこに卵やチーズが加わるのでどうしてもビタミンA過剰になりがちです。

      鉄は吸収の問題もあるので、どれくらいが適切なのかは難しいですね。ちなみに鉄の吸収を良くするにはビタミンCが有名ですが、実はビタミンB2の方が有効だという研究もあります。豚レバーなんて鉄吸収が非常に良いかもしれませんね。
      私は男なので敢えて鉄の摂取は意識していません。肉も卵もチーズも魚もいろいろ食べているので十分だと思っていますが、女性はどうしても鉄が少なくなるので、意識して摂る必要はあります。しかし、MEC食であれば十分だと私は考えます。ときどき気が向いたらレバーで良いのでは?

      うつやパニックの人とそうでない健康な人が同じようにサプリが必要というでは問題です。以前の記事にも書いたように、吸収されないで腸に残った鉄がどのような悪さをするかまで考えた方が良いでしょう。

  2. シミズ先生ご丁寧にコメントありがとうございました。

    糖質制限でフェリチン500が半分以下になった人がいるなんて
    驚愕です!
    本当に一体いくつが適当なのかわからん指標ですね。

    スーパー糖質制限を行って、体調は良くなりこそすれ
    悪くは全然なってないので、当面ブロッコリーやくるみの
    摂取で鉄に関してはヨシとしようと思います。

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