前回の記事「PPI(プロトンポンプ阻害薬)の暗黒面 その3 胃酸が逆流する本当の原因(仮説)」で書いたように、胃酸の逆流の犯人はSIBO(小腸内細菌異常増殖)そしてSIBOによって発酵してできたガス、その素となる糖質だと考えています。そして、SIBOは特にフルクトース(果糖)の摂取とも関連しています。
糖質は通常ほとんどが小腸で消化吸収されます。しかし、消化吸収の障害があったり、難消化性のものは大腸まで達し、そこで発酵し、水素や二酸化炭素、短鎖脂肪酸が生成されます。SIBOにより、吸収する前に細菌によって発酵が起こり、水素ガスが発生します。通常は食事摂取後早期20~40分でガスが上昇します。1~2時間後以降は大腸での発酵だと考えられます。SIBOでガスが発生すると胃酸の逆流に関連し、大腸でガスが発生するとIBS(過敏性腸症候群)と関連し、その二つの病態はオーバーラップしているようです。
糖質の種類それぞれ特異性のあるSIBOがあるようですが、抗生剤で改善する場合もあるようです。下の図はそれぞれ糖質特異性のあるSIBOを抗生剤を使って治療した後の水素ガスの状態です。左側が治療前、右側が治療後です。明らかにガスの発生が無くなっています。(図はこの文献より)(抗生剤の使用をお勧めしているわけではありません。)
現在は、果糖を摂取する量の非常に多いことが問題になっています。しかし、胃腸症状を表すには実際にはリンゴ1個程度でも起こりそうです。
「Fructose intake at current levels in the United States may cause gastrointestinal distress in normal adults.」
「米国において現在のレベルでのフルクトース摂取は、正常な成人で胃腸の苦痛を引き起こす可能性がある」(原文はここ)
この研究で吸収不良の徴候を示した果糖の量は25gです。リンゴ1個(260gとして)の果糖の量は、100g当たり果糖が6g+ショ糖4.8g(半分は果糖)なので、22g程度です。それに他の食品を加えれば、簡単に25gの果糖は摂取してしまいます。
(リンゴ100g当たり:ブドウ糖1.4g、果糖6g、ショ糖4.8g、ソルビトール0.7g
ショ糖を分解したとして、リンゴ1個当たり:ブドウ糖10g、果糖22g、ソルビトール1.8g)
ただ、果糖の吸収不良は単独で起きやすいのですが、ブドウ糖と一緒に摂取すると吸収不良が軽減します。逆にソルビトールやエリストリールと一緒に摂取すると吸収不良が増加します。食事は様々な食材の組み合わせなので、ときには吸収不良が起きやすく、ときには吸収不良はほとんど起きないこともあると思います。(図はこの文献より)
図は呼気の水素濃度を表しています。FGというのはフルクトース50g+グルコース50g、FEはフルクトース50g+エリストリール33.3g、Fはフルクトース50gです。横軸は食後の時間です。細菌の発酵により発生した水素ガスが呼気から出るのは食後2時間でピークとなります。(2時間後は大腸での発酵を意味しています)FGは変化がないので、発酵はしていないようです。しかし、Fは明らかに水素が上昇しています。さらにFEではFの2倍近い値になっています。つまり、フルクトース単独で50g摂取すると吸収不良は明らかに認めますが、エリストリールとフルクトースを一緒に摂取すると吸収不良がさらに増強してしまうのです。
ソルビトールでも、フルクトースだけ25g摂取した時に、呼気テストが陽性になった割合が52%だったのですが、フルクトース25gにソルビトール5gを加えると、なんと92%にまで陽性率が跳ね上がります。
逆にグルコースとフルクトースの組み合わせは、フルクトース50gにグルコースをそれぞれ50g、25g、12.5g加えた場合の呼気テストの陽性率は、グルコース50gでは0%、25gでは33%、12.5gでは70%にもなります。つまり、フルクトースとグルコースの比率が1:1であれば、吸収不良はほとんど起きないようですが、グルコースの割合が低下すると、どんどんと吸収不良が増加するようです。そう考えると先ほどのリンゴ1個ではグルコースはフルクトースの半分以下で、さらにそこにソルビトールが加わっているので、容易に吸収不良を起こしそうです。ソルビトールを多く含むものとして、リンゴ以外には、梨、さくらんぼなどがあります。
また、下のような研究もあります。説明できない胃腸症状を有する2390人の患者集団において、約3分の1は症候性の乳糖吸収不良であり、3分の2は症候性の果糖吸収不良であった。患者の4分の1は症候性のブドウ糖の吸収不良を併せ持っていたのです。
糖質が本当に人類にとって必要であれば、このような吸収不良がこんなに頻繁に起きるはずがありません。
「Unclear abdominal discomfort: pivotal role of carbohydrate malabsorption」
「不明瞭な腹部不快感:炭水化物吸収不良の重要な役割」(原文はここ)
乳糖不耐症は有名ですが、果糖吸収不良、ブドウ糖吸収不良が思ったよりも多く存在するのかもしれません。
実は私も以前、説明できないような食後の腹部の不快感がありました。不快感というより痛みです。以上に胃のあたりが張っているような感覚があり、長時間にわたり痛みを感じていました。消化器内科のドクターに相談しましたが、よくわからず、「PPIでも飲んでみたら?」とがっかりするような答えが返ってきました。(その時PPIを飲んでいたら逆効果でした。)以前は紅茶や緑茶を飲んだ後に起きる気がしていましたが、それ以外に何を食べたかはわかりません。糖質制限をするようになり劇的に頻度が減りました。もしかしたら、お茶の成分の何かが糖質の吸収不良を増加させていたのかもしれません。今でも少し果物を多く摂った後に軽い腹部の張りのような変な不快感が出ることがあります。
胃酸逆流症状だけでなく、何らかの腹部の不快感などの症状がある場合は、まずはしっかり糖質制限をしてみましょう。特に果糖とソルビトールの組み合わせは最悪かもしれません。糖質制限をして、症状が軽減したり、消失した場合はSIBOや糖質の吸収不良が原因である可能性が高いと思われます。PPIに頼っていては一生改善しません。
毎度お世話になっております。
逆流性食道炎を機に、その後約9ヶ月スーパー糖質制限を続けていて、途中、清水先生のご助言を得てPPIは離脱しました。
前回よりちょうど1年経過しましたので、本日胃カメラ検査を受けて参りました。
PPI離脱後は逆食の症状は全くなく、食後すぐに完全に横になったりしたらアレですが(笑)それ以外にはほぼ胸焼けも感じません。
今回の検査では食道には一部バレット食道と解釈できる状態が認められるようですが、これは昨年と変わっていません。
それとは別に急性胃炎と診断されたのですが、思い当たる節としては1ヶ月ほど前にややストレスを感じる時期があったこと、ここ2,3週間程度の間に暴飲暴食する機会が2,3度あったこと、ほぼ毎日のランニング(食後1-2時間後の夜間がほとんどです)後に氷水または炭酸水を一気に1L程度飲んでいたりすること、あたりでしょうか。
胃の自覚症状としてはまったくなく、しかしランニングを4ヶ月ほど前から始めて以降、喋っていて声が急にかすれるとか、痰が気になるようになったといったことはあります。たまたま時期が重なっただけかも知れませんが。それまではほぼ全く運動らしいことはしていませんでした。
で、問診時に糖質制限をしていること、PPIは止めたことなどは伝えました。
声のかすれは食道由来ではないと言うことですが、急性胃炎については気になるのでやはりPPI(10mmg)を続けた方が良い言われました。
もちろん服用を再開する機は毛頭ありません。
しかしこのまま放置していて良いものかどうかと少し迷っています。
主治医でもなく診察すら頂いていない先生にお伺いするのは大変厚かましく筋違いだと思います。
可能であれば何らかのご助言をいただけますと恐悦至極に存じます。
ねけさん、コメントありがとうございます。
おっしゃる通り何も診ていないので助言は難しいですが、単なる胃炎なら、ストレスでも起きますし、
暴飲暴食でも起きますし、アルコールでも起きます。症状がないなら大した胃炎ではないのかもしれませんが、
所見を見ていないのでわかりません。
症状があるのであれば、一時的にPPIを使用することは問題ないと思います。
申し訳ありませんが、これ以上は何とも言えません。
無理を申しました。申し訳ありません。
自己判断にはなりますが自己責任にて対処することにいたします。
ありがとうございました。