ビタミンのサプリメントは本当に有益か?抗酸化物質の暗黒面その1(動物実験)

以前の記事で、「ビタミンCとビタミンEのサプリメントは運動による効果を弱めてしまう」というのを書きました。今回は2回にわたり、もう少し難しい説明になりますが、抗酸化作用のあるビタミンのサプリメントの暗黒面を見ていきます。まずは動物実験での話です。

研究者らは、活性酸素(スーパーオキサイド)などのフリーラジカルと呼ばれる反応性の高い分子は酸化ストレスとなり、細胞を損傷させて老化を引き起こし、組織や器官の機能を損なうと考えていました。
しかし、最近の実験では、マウスおよび線虫において、フリーラジカルの増加がより長い寿命と相関することが示されています。 実際にある状況では、フリーラジカルは細胞修復ネットワークにシグナルとなっているようです。
そうだとするとビタミンやその他のサプリメントの抗酸化物質を服用することは、有害である可能性があります。

2010年の線虫を使った研究では、抗酸化物質が寿命を縮める可能性を十分に示唆しています。(研究の原文はここ

 

 

(クリックで拡大、図はThe Myth of Antioxidants 、Scientific American, February 2013より抜粋)

図を見てみると、青い線は通常の状態ですが、遺伝的に改変して、特定のフリーラジカルを産生するようにしました線虫(濃い目の赤い線)は、驚いたことに通常の線虫よりも平均して32%長く生存していました。 研究者が変異線虫に抗酸化物質(ビタミンC)を与えたとき(薄めの赤い線)、その長寿の利点は消えてしまいました。さらにその後の研究で、フリーラジカルを産生する除草剤という毒素を浴びた線虫は、未処理(除草剤を浴びていない)の線虫よりも58%長く生き、さらに、線虫に抗酸化物質を与えると、毒素の有益寿命延な効果が消えたと発表しています。

もう一つ、2006年に発表されたブタを使った研究です。(原文はここ

このブタの研究は正常なブタに慢性的に抗酸化物質のサプリメントを与えるとどうなるかを検討しています。健康なブタに抗酸化ビタミンCとビタミンE(アスコルビン酸1g /日およびdl-α-トコフェリルアセテート100IU / kg /日)を12週間与えたところ、ビタミンサプリメントを与えられていないコントロール群に比べて、心筋血流と血管の内皮機能が損なわました。

この結果は、抗酸化物質であるビタミンの作用は、そこにある酸化ストレスのレベルによって異なることを示唆しています。酸化ストレスが上昇している場合には、抗酸化物質は抗酸化作用を発揮して利益をもたらすのですが、酸化ストレスが上昇が上昇していない場合には利益はほとんどないか、逆に有害である可能性が考えられるのです。

1950年代にデニス・ハーマンが唱えた、酸化的損傷またはフリーラジカルによる老化説は、その説自体が老化しています。ハーマンはフリーラジカルは呼吸と代謝によってできる「副産物」であり、時間の経過とともに体内に蓄積され、年齢とともに細胞の損傷とフリーラジカルのレベルが上昇したため、老化の原因となるとの仮説を考えました。ハーマンは仮説をテストし、最初の実験の一つで、彼はマウスに抗酸化物質を与えたところ、マウスはより長く生きていたことを示しました。しかし、高濃度では抗酸化物質には有害な影響がありました。その後フリーラジカル老化説が一般的になりましたが、様々な動物実験で上のような矛盾した結果が出ています。

大量の酸化的損傷ががんや臓器の損傷を引き起こすことは明らかであり、酸化的損傷が心臓病などのいくつかの慢性疾患の発症に役割を果たすことを示す証拠はたくさんあるので、間違いはないでしょう。しかし、抗酸化物質は、保護する物質よりもはるかに少ない量で存在する場合、酸化的損傷に対して有効な物質として定義される、と「Free Radicals in Biology and Medicine」(Oxford Univ. Press,1999)では述べられているようです。

「酸化ストレス」は潜在的に損傷をもたらす、酸化剤と酸化防止剤との間の不均衡と定義されています。つまり、酸化促進剤と抗酸化物質との間のバランスが崩れたときに「酸化ストレス」となることを意味します。ビタミンEやビタミンCは、一般的に酸化防止剤と考えられていますが、酸化還元バランスに及ぼす影響は、条件が異なれば変化します。特に、ビタミンEは、トコフェロール媒介過酸化と呼ばれるプロセスにおいて、酸化促進効果を発揮することがあります。ビタミンEと同様に、ビタミンCによる高用量のサプリメントは、フリーラジカルによって引き起こされるDNA損傷の増加と関連していると言われています。また、ヒトのアテローム性動脈硬化性プラークにおける組織ビタミンEレベルと組織の脂質過酸化との間に強い正の相関が見出された、とする研究もあります。

酸化は体に害になるから抗酸化物質を大量に取り入れれば良い、なんて単純な話ではありません。生物は様々なバランスで成り立っています。様々な病気はこのバランスが崩れることにより起こることが多いのです。

次の記事では人間における抗酸化物質の暗黒面を見ていきます。

 

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