日本人の食事摂取基準(2025年版)の食物繊維の摂取基準

日本人の食事摂取基準(2025年版)(ここ参照)が発表されましたが、まあ代わり映えしないというか、役に立たないというか、相変わらずの内容です。

食物繊維について、目標量の策定方法として、「少なくとも1日当たり25~29gの食物繊維の摂取が、様々な生活習慣病のリスク低下に寄与すると報告されているが、食物繊維摂取量と生活習慣病リスクとの間に明らかな閾値は存在しない。」と書かれています。(ここ参照、下の図もここより)閾値が存在しないなんて当たり前でしょう。「WHOのガイドラインなどを踏まえて、少なくとも1日当たり25gの食物繊維を摂取した方が良いと考えられ、この値と日本人の摂取量との中間値を参照値とした上で、目標量を算定。」と書かれています。本当は25g摂取した方が良いけど、実際問題、現状を考えれば難しいので、その中間値を目標量と設定しているのです。

もしも、本当に25g以上の食物繊維が健康的であれば、そのように基準を示すべきです。でも、本当はウソだと知っているので、適当なところでごまかしているのでしょう。

下の図は2020年版の基準です。(ここ参照)

2025年版では下の図のように、30歳から74歳の男性のみ1g/日増加しました。(他にも多少の違いはありますが)

微妙過ぎる改定ですね。

ところで、1日当たり25~29gの食物繊維の摂取が、様々な生活習慣病のリスク低下に寄与するというエビデンスとして採用されたのは、次の論文です。

「Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses」

「炭水化物の品質と人間の健康:一連のシステマティックレビューとメタアナリシス」(原文はここ、図もここより)

メタアナリシスには、4,635人が参加した185件の前向き研究と58件の臨床試験から得られた約1億3,500万人年のデータが含まれました。上の方の図では、この研究の総死亡率、2型糖尿病発症率、大腸がん発症率だけを掲載していました。でも、他の疾患について、意図的に示していないのでしょう。この研究の他の疾患について見てみましょう。食物繊維摂取量が5g程度と非常に少ない人を1として比較しています。

上の図は心血管疾患発症率です。25gではリスクは0.83倍ですが、有意差は無しです。逆に15gでは0.75倍と有意にリスクが低下していますし、20gでも優位に低下しています。

上の図は冠動脈疾患発症率です。25gでは0.74倍と有意に減少していますが、30gでは逆に有意ではない0.84倍です。

上の図は脳卒中発症率です。有意にリスク低下があるのは、20gと25gであり、30gと35gでは有意ではありませんね。

上の図は心血管疾患死亡率です。これは15gでもリスク低下を示しています。

上の図は冠動脈疾患死亡率です。30gまでは有意にリスク低下していましたが、35gでは有意差なしになってしまいます。

上の図は乳がん発症率です。20gと25gでわずかにリスク低下していますが、30gでは有意差なしになってしまいます。

上の図は、すべての死亡率や発症率のまとめです。✓は有意にリスク低下を認めるもの、×は有意なリスク低下が認められないものです。

食物繊維の摂取量が増加するほど、様々な疾患の発症率や死亡率が低下しているとは言えないでしょう。

もちろん、こんなことは当然です。この研究のもとのデータは食事アンケートのデータです。非常に質の低いデータを大量に寄せ集めて分析しても、結局は質の低い結果しか導き出されません。こんないい加減なエビデンスをもとに、我々の食事摂取基準は決定されてしまっています。

どんなエビデンスを採用するかによって、恣意的に基準を操作できてしまいます。

もちろん私は食物繊維は重要な栄養素だと思っています。大腸の腸内細菌のエサですから。しかし、15gと20gや25gの差はどれほどあるのかは疑問です。多く摂れば良いってものでもないでしょう。

しかし、このような摂取基準ができると、多くの無知な医師や栄養士は、この基準が正しいとしか思わなくなってしまいます。そして、無意味な栄養指導がこれからも続くのでしょう。

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