がんの診断には生検という検査が行われることがあります。細胞を太い針で取って、それを調べてがん細胞の存在を確認するのです。しかし、針を刺すという行為により、そこにとどまっているがんを拡散させる可能性があります。
今回の研究では、前立腺特異抗原(PSA)値が高いため泌尿器科に入院した男性45人を対象としました。75歳以下で、PSA値が3.0 < PSA ≤ 20 ng/mL、または直腸指診で腫瘍が疑われる男性としました。超音波ガイド下でコアニードル生検(CNB)を行いました。生検後の静脈血に存在する上皮細胞物質(ECM)の量を調べました。ECMが静脈に認められるということは、がんの組織が損傷して、血行に乗り、がん細胞の拡散の可能性があることを示唆します。
では、どうだったでしょう?
転移が証明されていない生検で前立腺がんと診断された23人の患者と、がんが陰性だった15人の患者を調べることができました。生検で前立腺がんと診断された23人中9人と、前立腺がんではなかった15人中1人において、生検の前に血中に上皮細胞物質の拡散が認められました。
生検で前立腺がんと診断された23人中19人、前立腺がんではなかった15人中2人で、生検後に血中に上皮細胞物質が認められました。
生検で前立腺がんと診断された患者で、最後の生検から20秒以内に採血された8例中5例で、30分以内に採血した15例中9例で、生検後に上皮細胞物質が有意に増加しました。
前立腺がんではなかった患者で、生検後20秒以内に採血された4人のうち血中に上皮細胞物質の増加が認められた患者はいませんでした。30分以内の採血では2人が上皮細胞物質を認めました。
生検前後で上皮細胞物質の変化を考えると、生検で前立腺がんと診断された23人中14人で、生検後に上皮細胞物質が増加しました。前立腺がんではなかった15人中1人で生検後に上皮細胞物質が増加しました。
興味深いことに、生検前にすでに血中に上皮細胞物質が認められた人が何人もいます。恐らく触診などでも、細胞が拡散してしまうのでしょう。そして、それはがんと診断された患者群の方が多いことを考えると、がん組織が脆弱なのか、拡散しやすいとも考えられます。診察時の触診ががん細胞をばら撒いている可能性は非常に恐ろしいことです。何度もグリグリするのは危険なのかもしれません。
そして、生検は太い針を刺しますので、局所的な外傷を引き起こしています。そこから血中にがん細胞が広がっている可能性があるのです。
PSA値の測定が一般化されたことにより、悪性度の低い前立腺がんまで見つかってしまう可能性が高くなっています。早期発見が本当に良いことなのか、余計な手術がされる可能性がないのか、よく考える必要があるでしょう。前立腺がんの手術や放射線療法はQOL(生活の質)を著しく低下させるリスクがあります。もちろん、PSA測定=過剰診断と安易に考えない方が良いかもしれませんが、難しい問題ですね。
例えば、ある研究(ここ参照)では、PSA値が9.4 ng/mLで生検によるグリーソンスコアが6の70歳男性の場合、健康状態を考慮しないと過剰診断の推定確率は34%と計算しています。併存疾患がない場合は27%に低下し、糖尿病と心血管疾患がある場合は51%に上昇します。つまり、併存疾患があれば、がんで死ぬよりも先に別の疾患で死ぬ方が多くなってしまうのです。
いずれにしても、命を助けるはずの医療が、逆に命を削る可能性すらあります。
男性の前立腺がんの生検ががんをばら撒く可能性があるのであれば、女性の乳がんも同じように考えられますよね。それについては次回以降で。
「Prostate biopsy sampling causes hematogenous dissemination of epithelial cellular material」
「前立腺生検によるサンプリングは、上皮細胞物質の血行性播種を引き起こす」(原文はここ)
検査による早期発見が、必ずしもその後の健康的な生活を保障出来ないのは、
残念な事です。
せめて医療側からの説明と、患者側の選択が保障できればと思います。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
早期発見が場合によっては過剰な医療になってしまうこともあります。
結果論と言えば結果論ですが…
最近、この界隈ではGleason score 6なら治療せず経過観察で十分という考え方が広がってきています。
一方で、Gleason score 7は3+4なのか4+3なのかで、評価が分かれるようですね。
女性の乳がんでも、low-grade DCISについては「治療せずに経過観察でよいのでは」という議論が出てきているようです。
ちなみに、LCISはすでに悪性疾患としては扱われなくなっています。
Caesiusさん、コメントありがとうございます。
いずれにしても生検で診断ですから、low-gradeではなかった場合、リスキーですね。