循環器科であろうと他の科であろうと、医師は抗血小板療法を受けている冠動脈疾患患者の消化管出血のリスクについて警戒しているでしょう。 しかし、多くの医師は下部消化管出血のリスクを無視して上部消化管出血の予防に重点を置いています。 実際、抗血小板薬は下部消化管出血の発生率を増加させ、PPI(プロトンポンプ阻害薬)の使用により悪化します。(「NSAIDsとPPI併用で下部消化管出血リスク上昇」参照)さらに、PPIが抗血小板薬と相互作用し、抗血小板薬の効果を弱めることが多くの研究で証明されています。
ある研究では、PPIと抗血小板薬のクロピドグレルの併用は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の心血管イベントリスクを検討しています。(ここ参照、表はここより改変)
対象はPCI後2週間以内にクロピドグレルの処方を受けた99,836人で、このうち、35,772人(35.8%)はPPIを併用し、64,064人(64.2%)はPPIを併用しませんでした。下の表はクロピドグレル単独群とPPI併用群の様々な心血管イベントのリスクを示しています。
HR(95%CI) | |
---|---|
心筋梗塞 | |
クロピドグレル | 1.00 |
PPI + クロピドグレル | 1.23 (1.15–1.32) |
冠動脈疾患 | |
クロピドグレル | 1.00 |
PPI + クロピドグレル | 1.28 (1.24–1.33) |
脳卒中 | |
クロピドグレル | 1.00 |
PPI + クロピドグレル | 1.21 (1.05–1.40) |
全死亡率 | |
クロピドグレル | 1.00 |
PPI + クロピドグレル | 1.71 (1.58–1.86) |
冠動脈疾患による死亡率 | |
クロピドグレル | 1.00 |
PPI + クロピドグレル | 1.52 (1.37–1.69) |
上の表のように、クロピドグレル単独群と比較して、クロピドグレルにPPI併用群では、心筋梗塞のリスクが1.23倍、冠動脈疾患1.28倍、脳卒中1.21倍、全原因死亡率1.71倍、冠動脈疾患による死亡率が1.52倍でした。
他の研究も見てみましょう。(ここ参照、表もここより改変)急性心筋梗塞後に抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を受けている17,274人が対象です。66.6%( 11,487人)がPPIによる治療を受けていました。
臨床エンドポイント | PPIあり(%) | PPIなし(%) | 調整OR(95%CI) |
---|---|---|---|
消化管出血 | 122(1.1%) | 10(0.2%) | 5.574 (2.902-10.697) |
主要な心血管および脳血管の有害事象 | 568 (5.0%) | 271(4.7%) | 1.026 (0.877-1.203) |
全原因死亡 | 471(4.1%) | 248 (4.3%) | 0.938 (0.791-1.112) |
心筋梗塞 | 61(0.5%) | 16(0.3%) | 1.529 (0.872-2.678) |
脳卒中 | 69(0.6%) | 16(0.3%) | 2.125 (1.216-3.682) |
上の表に示すように、消化管出血はなんとPPIありの方が多く、リスクが5.574倍になっていました。脳卒中はPPIありの方が2.125倍でした。
臨床エンドポイント | 30日間 | 6ヶ月 | 1年 | 2年 |
---|---|---|---|---|
調整HR(95%CI) | 調整HR(95%CI) | 調整HR(95%CI) | 調整HR(95%CI) | |
消化管出血 | 5.577 (2.903-10.696) | 4.988 (2.742-9.069) | 4.331 (2.488-7.563) | 3.650 (2.188-6.082) |
主要な心血管および脳血管の有害事象 | 1.049 (0.905-1.211) | 1.070 (0.934-1.225) | 1.095 (0.963-1.246) | 1.123 (0.994-1.270) |
全原因死亡 | 0.965 (0.822-1.131) | 0.945 (0.817-1.096) | 0.940 (0.817-1.083) | 0.971 (0.848-1.112) |
心筋梗塞 | 1.297 (0.855-1.968) | 1.580 (1.102-2.265) | 1.812 (1.296-2.536) | 1.773 (1.301-2.412) |
脳卒中 | 2.202 (1.287-3.763) | 2.270 (1.401-3.675) | 2.261 (1.454-3.515) | 2.072 (1.388-3.091) |
上の表のように、PPIの使用期間で分けると消化管出血と脳卒中に関しては30日間から2年間までずっとリスク増加が認められました。心筋梗塞は6か月以上のPPI使用でリスクが増加しました。
もう一つ見てみましょう。(ここ参照、図もここより)経皮的冠動脈インターベンション (PCI) 後の15,839人を対象としています。チカグレロルという薬とアスピリンを比較していますが、今回はアスピリンのみを採り上げます。
上の右側の方がアスピリン群で、PPIを併用した人と併用していない人で比較したものです。上から、複合エンドポイント(POCE:全死亡率、心筋梗塞、脳卒中、または再血行再建術)、ステント血栓症、BARC(Bleeding Academic Research Consortium)のタイプ3または5の出血、タイプ2の出血、有害臨床イベント(NACE)です。PPIの併用により複合エンドポイントのリスクは1.27倍、全原因死亡は1.53倍、心筋梗塞1.46倍、脳卒中1.92倍、再血行再建術1.22倍、有害臨床イベント1.26倍でした。
様々な研究が示すように、上部消化管出血を予防するために、本来の目的である心血管疾患の予防効果が大きく減弱し、心血管イベントリスクが増加してしまいました。PPIは、下部消化管出血のリスクを高め、抗血小板薬の効果を阻害し、様々なリスクを増加させます。
さすが、PPIはマッチポンプ薬の代表ですね。
それにしても恐ろしいですね。冠動脈疾患に必要と言われて薬を飲み、それには副作用があるので、その副作用の予防のために薬を飲むと元々の疾患のリスクが上がるなんて。患者が減らないわけですね。なんか本末転倒です。そうならないためにも普段からの食事が重要でしょう。
本末転倒「本来重視すべきもの(本)と、それ以外のもの(末)を逆にしてしまうこと」
医療産業の(本)がそもそも利益優先、患者の健康はそれ以外のもの(末)なのでしょうか。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
企業はもちろん健康よりも利益優先です。