以前の記事「PPI(プロトンポンプ阻害薬)は小腸を損傷する」では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の併用で、小腸損傷および下部消化管出血のリスクが高くなることを書きました。
今回の研究では、PPIとNSAIDsの併用患者とNSAIDsのみの患者との下部消化管出血のリスクの比較です。NSAIDs+PPI使用者とNSAIDsのみの使用者はそれぞれ8,728人でした。(図は原文より)
上の図はNSAIDs+PPI使用者とNSAIDsのみの下部消化管出血リスクです。NSAIDs+PPI使用者の方が2.843倍、有意に出血リスクが高くなりました。出血が発生した日の中央値は、NSAIDs+PPIで288.5日、NSAIDsのみで362日でした。
上の図は、65歳以上の高齢患者だけを比較しています。高齢者でもNSAIDs+PPIの方が、2.737倍出血リスクが高くなりました。
上の図は男女別です。Aが男性、Bが女性です。男性の下部消化管出血のリスクは、NSAIDs+PPIの方が2.963倍でした。女性はNSAIDs+PPIの方が 3.221倍でした。
上の図は集められた元の集団から、PPI使用者を除外して、NSAIDs+粘膜保護剤(MPA)使用者とNSAIDsのみを比較しました。粘膜保護剤のほとんどはユーパティリン(これは何だろう?ヨモギの葉から抽出したものらしい)とレバミピドでした。どちらの粘膜保護剤に関して、NSAIDs+粘膜保護剤(MPA)使用者とNSAIDsのみ下部消化管出血リスクは有意差がありませんでした。
NSAIDs使用者の上部消化管出血を予防するために、PPIがよく処方されることがあります。しかし、例え上部消化管出血のリスクを下げたとしても、逆に下部消化管の出血リスクを大きく増加させたのでは意味がありません。NSAIDsを使うなら、ほとんどの人はレバミピドで十分でしょう。
漫然とNSAIDsを使用するのも問題ですが、PPIの使用はもっと問題です。危険なマッチポンプ薬のPPIはできる限り早期に止めましょう。
「Risk of Lower Gastrointestinal Bleeding in Nonsteroidal Anti-inflammatory Drug (NSAID) and Proton Pump Inhibitor Users Compared with NSAID-Only Users: A Common Data Model Analysis」
「非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)とプロトンポンプ阻害薬の併用患者とNSAIDのみの患者との比較における下部消化管出血のリスク:共通データモデル分析」(原文はここ)