PPI(プロトンポンプ阻害薬)は小腸を損傷する

プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)またはアスピリンを服用している患者の上部消化管出血の治療と予防の主力の薬と位置付けられています。しかし、この効果は十二指腸を超えて広がることはないようです。逆に小腸を損傷するリスクが高くなるようです。

まずは、健康な人を使った人体実験的研究から。対象は57人の健康な人です。病気でもないのに薬を飲まされます。NSAIDsの中のCOX2阻害剤セレコキシブ(200 mg、1日2回)とプラセボを2週間投与する群(COX-2+プラセボ群)と、セレコキシブとPPIラベプラゾール(20 mg、1日1回)を2週間投与する群(COX-2 + PPI群)に無作為に割り当てました。すべての人は、研究開始時にカプセル内視鏡検査で評価され、研究開始2週間後に再度評価されました。カプセル内視鏡下で観察された小腸損傷(潰瘍およびびらん)の発生率と数をグループ間で比較しました。(図は原文より)

上の図はCOX-2+プラセボ群とCOX-2 + PPI群における小腸損傷の発生率です。COX-2 + PPI群ではなんとたった2週間で44%も小腸損傷が発生しています。COX-2+プラセボ群と比較して2.67倍も小腸損傷リスクが高くなりました。

上の図は小腸の空腸と回腸の部位別での損傷発生率です。左の空腸粘膜損傷はすべてびらんであり、COX-2 + PPI群でのみ確認されました。右の回腸粘膜損傷の発生率には 2 つのグループ間で有意差はありませんでしたが、数値的にはCOX-2 + PPI群の方が2倍以上になっています。(37% vs 17%)。また、潰瘍(22% と 33%)やびらん(10% と 13%)の発生率にも差はありませんでした。

サンプル数は少ないかもしれませんが、明らかにPPIはNSAIDs投与による小腸損傷リスクを増加させました。恐らく小腸の腸内細菌叢が大きく変化するのが要因の一つでしょう。もちろん、貧血になるほどの損傷ではありませんでしたが、潰瘍やびらんが増加して良いことはありません。

もう一つ研究を見てみましょう。PPIの下部消化管(小腸と大腸)出血リスクを検討したすべての関連研究を検索した、341,063人を対象とした12の研究のメタアナリシスです。

その結果は次のようです。(図は原文より)

上の図はPPI使用による下部消化管出血の可能性、リスクを示しています。PPIで下部消化管出血の可能性(オッズ比)は1.42倍になり、リスク(ハザード比)は3.23倍にもなります。

上の図はアスピリンまたはNSAIDs使用者での、PPIによる下部消化管出血の可能性、リスクです。下部消化管出血の可能性は1.64倍になり、リスクは6.55倍にもなります。

上の図は、部位別の出血リスクです。小腸出血の可能性は1.54倍でした。

大腸出血のリスクはPPIの使用と関連し、6.55倍でしたが、解析に含まれていたのは1件の研究のみでした。

非常に興味深いことに、12の研究のメタアナリシスなのですが、その多くが日本の研究なのです。いかに日本でPPIが過剰に使われているかを示唆するものでしょう。

PPIは上部消化管の保護には有用かもしれませんが、その代わり下部消化管を損傷する可能性が高くなります。安易なPPIの使用は止めた方が良いでしょう。PPIはマッチポンプ薬の代表です。PPIで得られる恩恵よりも、それによって被る有害な副作用の方が多いかもしれません。

「Proton Pump Inhibitors Increase Incidence of Nonsteroidal Anti-Inflammatory Drug-Induced Small Bowel Injury: A Randomized, Placebo-Controlled Trial」

「プロトンポンプ阻害薬は非ステロイド性抗炎症薬誘発性小腸障害の発生率を増加させる:ランダム化プラセボ対照試験」(原文はここ

「Impact of proton pump inhibitors on the risk of small bowel or colorectal bleeding: A systematic review and meta-analysis」

「プロトンポンプ阻害薬の小腸または大腸出血リスクへの影響:系統的レビューとメタアナリシス」(原文はここ

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