糖尿病や肥満の薬、GLP-1受容体作動薬の副作用で有名なのが、消化器症状、その中でも嘔気嘔吐があります。
今回は症例報告です。70歳代女性。2型糖尿病および肥満度3(BMI51.1 )の診断にて他院医師より、GLP-1受容体作動薬セマグルチド0.25 mgの週1回の投与を受けていました。病状の経過が良好であることからセマグルチド0.5 mgに増量しましたが、1週間以内に嘔吐が頻回となりました。嘔吐は持続しましたが、体重減少(BMI42.2 )が得られたため、セマグルチド投与を継続しました。6か月後、食事摂取不能となり、嘔吐と心窩部痛の増悪のため紹介入院となりました。
食道胃十二指腸内視鏡検査では、下の図のように、胸部上部から腹部食道にかけて極めて重篤で巨大な潰瘍が認められました。(図は原文より)
上の図は入院時内視鏡検査所見です。全周に重度の潰瘍形成が認められ(A:食道接合部、B:中部胸部食道)、上部胸部食道( C )には複数の浅い横走潰瘍(矢印)が認められました。
セマグルチドによる反復嘔吐に起因する重症の胃食道逆流症と診断し、セマグルチドの投与を中止し、プロトンポンプ阻害薬(PPI)および粘膜保護薬を投与しました。2週間後、臨床症状は徐々に改善し、経口摂取が可能となりました。治療開始から1か月後の内視鏡検査では、下の図のように、重度の食道潰瘍は狭窄なく治癒していました
セマグルチドで報告されている吐き気と嘔吐の発生率は、それぞれ43.9%と24.5%です。非常に発生率が高いです。GLP-1受容体作動薬で胃食道逆流様症状のを報告する可能性は5.61倍です。
今回は食道狭窄が起きても不思議ではないレベルかもしれません。GLP-1受容体作動薬の無差別な使用は危険です。短時間作用型GLP-1受容体作動薬は、食道狭窄リスク1.284倍、異形成を伴わないバレット症候群リスク1.372倍、異形成を伴うバレット症候群1.505倍にリスク増加するという研究があります。(ここ参照)
今回、重度の逆流性食道炎を起こしました。さすがマッチポンプ薬。そして、その治療のためにもう一つのマッチポンプ薬のプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使う羽目になりました。その後のことは不明ですが、この患者がPPIを使い続けているのであれば、次の問題が起きても不思議ではありません。
「Severe reflux oesophagitis caused by repeated vomiting due to glucagon-like peptide-1 receptor agonist」
「GLP-1受容体作動薬による反復嘔吐によって引き起こされる重度の逆流性食道炎」(原文はここ)

