「その1」「その2」に続き糖質制限でLDLコレステロールが上昇してもスタチンは不要論を書いていきます。
今回は、その2の途中で少し書いた、インスリン抵抗性との関連についてです。
以前の記事「比較的若い女性の冠動脈性疾患のリスクはインスリン抵抗性で6倍、糖尿病で10倍」で書いたように55歳未満の比較的若い女性では冠動脈疾患のリスクはインスリン抵抗性で6倍、糖尿病で10倍と圧倒的に高くなっていました。しかしLDLコレステロールのリスクは大したことはありませんでした。
以前の記事「インスリン抵抗性が続くと心血管疾患のリスクが高くなる」で書いたように、心血管イベントのリスクは持続的なインスリン抵抗性で4.8倍も高くなります。LDLコレステロールなどが高い高脂血症(脂質異常症)はリスク因子ではありませんでした。
また「急性冠症候群とインスリン抵抗性」で書いたように、インスリン感受性のグループと比較した3年間での主要な心臓有害イベントのリスク比は、糖尿病と糖尿病性インスリン抵抗性でリスクが高く、最も高いのはHOMA-IRが5以上となる糖尿病性インスリン抵抗性グループでリスクは3倍前後でした。
インスリン抵抗性がアテローム性動脈硬化症の病因であるメカニズムはいくつもあります。血圧の上昇、グリコカリックスの破綻、血栓形成の増加、AGEs、一酸化窒素低下などです。どう考えてもインスリン抵抗性があると血管の機能や構造に悪影響があるでしょう。
一般的にはマクロファージがコレステロールを取り込んで、泡沫細胞になって、アテローム性動脈硬化のプラークを形成するとされていますが、人間のマクロファージを使った研究では、高インスリン血症はマクロファージの酸化LDL取り込みを 80% 以上増加させ、16時間でマクロファージへの脂質の取り込みをほぼ 3 倍増加させることを実証しました。(ここ参照)
LDLには質があります。大きなフワフワしたLDLは良質で人体にとって有益なLDLであり、小さな密度の高い危険なLDL(sdLDL)は非常に有害で、アテローム発生性であると考えられています。しかし、一般的な検査ではそれが無視されています。ただ単にLDLコレステロールだけを測定し、その値に応じてスタチンが処方されるのです。LDLが大きいのか小さいのかは特別な検査が必要ですが、他の検査値で十分に推測可能です。つまりHDLコレステロール値と中性脂肪値です。それぞれの値、中性脂肪/HDL比が重要です。
以前の記事「糖質制限とLDLコレステロール上昇」で書いたように、中性脂肪が十分に低い(できれば60以下)、HDLが十分に高い(できれば60以上)であれば、sdLDLは非常に少なくなると考えられます。(図はここより)
(上の図のフェノタイプAとBはLDLのパターンで、フェノタイプBはsdLDLに相当します)
以前の記事「中性脂肪/HDLコレステロール比と心筋梗塞」で書いたように、心筋梗塞のリスクは、中性脂肪/HDL比でみると、最も低いグループと比較して最も高いグループのリスクはなんと16倍にもなるのです。
さらに以前の記事「中性脂肪が低くHDLコレステロール値が高いと虚血性心疾患のリスクは低い」で書いたように、LDLコレステロールの高低は関係なく、低中性脂肪高HDLで虚血性心疾患リスクがもっとも低く、高中性脂肪低HDLが最も高くなっていました。(図はここより)
以前の記事「みなさんの血液検査データ2020 集計 その6 中性脂肪/HDLコレステロール比」で示したように、糖質制限をしている人はほとんどが中性脂肪/HDL比が大きく低下します。中性脂肪/HDL比はインスリン抵抗性の指標であることを考えると当然ですが。なぜ糖質制限をすると中性脂肪/HDL比が大きく低下するのかは以前の記事「糖質制限ではどうしてHDLコレステロール値が増加し、中性脂肪値が低下するのか? その1」「その2」などを参照してください。
sdLDLは酸化、糖化、糖酸化しやすく、危険です。sdLDLの増加は冠動脈疾患のリスクを増加させます。(「小さな危険なLDL(sdLDL)コレステロールと冠動脈心臓病のリスク」「sdLDLと冠動脈疾患と糖尿病」など参照)
当然ながら高血糖、糖尿病はLDLを糖化させます。LDLの構成成分のアポリポタンパクBの糖化レベルは、空腹時血糖、食後血糖、HbA1c と有意に相関し糖化アポリポタンパクBの割合は、肥満糖尿病グループの空腹時血糖、食後血糖と有意に相関していました。(ここ参照)
アテローム発生性脂質異常症のリスクの3要素はsdLDLの増加、中性脂肪の増加、HDLコレステロールの低下であると考えられています。上の図(図はここより)はちょっと以前の研究(この論文)について図示したものですが、この3要素を有する人は、年齢、性別、体重に関係なく、心筋梗塞のリスクが 3 倍に増加することを示しました。白いバーは冠動脈疾患あり、グレーのバーは冠動脈疾患なしです。総コレステロール(TC)およびLDLに差はなく、中性脂肪(TGs)とHDLは大きく差がありました。つまり、心筋梗塞などの冠動脈疾患を起こす人では必ずしもLDLコレステロールおよび総コレステロールが高くないのです。
sdLDL増加、高中性脂肪、低HDLはすなわちインスリン抵抗性を示しています。改善すべきはインスリン抵抗性です。心血管疾患は糖質過剰症候群ですから。スタチンは必要なく、必要なのは糖質制限です。
それでもまだLDLコレステロールの値に執着する医師は何らかの意図を持っているか、無知か、信じやすいタイプなのでしょう。
清水先生、このたびもありがとうございます。
sdLDL-cの計測については、デンカ株式会社から試薬が国内承認され、今年4月に発売されていますね。
https://www.denka.co.jp/storage/news/pdf/1003/20220329_denka_sldl-ex.pdf
また、現在検査が受けられる病院のMAPも作られていました
https://sd-ldl.com/sisetsu/index.html
残念ながら自由診療です。
3500円ぐらいです。
YouTubeにも高LDLの場合の薬を出す基準について、従来見解通りの意見を述べるお医者さんが多数いらっしゃいますが、見つけ次第コメントしていくつもりです。
りんりんさん
以前のデンカ社のsdLDL検査は精度があまり高くない、使い物にならないと思っていました。
今回の新しいものはよくわかりません。
私の記事内でsdLDLについて、わかりやすくアテローム発生性、危険な、という言葉を使っていますが、
恐らくはsdLDLそのものが悪さをするというよりは、sdLDLが増加する状態、つまりインスリン抵抗性や高血糖の状態が
危険でアテローム発生性だと考えています。
新しいsdLDLの検査がどこまでの信頼度かわかりませんが、あまりsdLDLに固執しなくても良いのではないかと思います。
清水先生、ご返信ありがとうございます。
そうですか、デンカ社のは精度が低いのですか…
どういう検査をお願いしたらいいのか色々考えてしまいます。
例えば、「LDL粒子数(LDL-p)」も良い指標だという論文をみたのですが
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21392724
こちらではNMRで計測するのだそうです。
素人なのでわからないのですが、そちらの方が精度が高そうでしょうか?
りんりんさん
返信はいらないとあったのでそのままにしていましたが、とりあえずお答えします。
あなたの健康を保証することは誰もできません。
健康を検査の数値だけで評価することもできません。筋トレさえ本当に健康的なのかはわかりません。
これまでの研究のほとんどは糖質過剰摂取の人を対象としたものばかりで、糖質制限の研究は全体から見れば非常に少ないです。
その中で、私なりの考えを記事としています。LDLに固執する必要がないと考えていますが、どうしても気になるのであれば、
自費で検査されれば良いのではないでしょうか?医師が必要と認めない検査は保険適応になりませんし、
それ相応の病名がないものに保険で検査はできません。
LDL粒子数が知りたいのであれば、とりあえずApoBを測定すれば推測できます。
また、頚動脈エコーは自費でもやってくれると思いますが、脂質異常症の病名があるので、
他の施設に行けば(医師が必要と考えれば)検査は保険でできると思います。
そもそも糖質制限は現在の日本の医療の中では「正しくない」食事法です。
普通の医師ならば「大丈夫」とは言わないでしょう。
せめて、大都市ならば恐らくは糖質制限を推奨している医師が一人はいるでしょうから、そこで評価してもらったらどうでしょうか?
現在のところ、その糖質制限を行うかどうかは自己責任となります。
その中で、自分の体の声を素直に聞き、体調を見て、自分なりに様々な糖質制限の情報を参考として勉強して検査の値を評価して、
それが正しいかどうか、自分にとって良いかどうかを自分自身で決めます。
ブログのコメントで言えるのは限界があります。
清水先生、このたびもありがとうございます。
sdLDLの計測用試薬がデンカ(株)から今年発売になっていましたね。
同社は「sdLDLどっとこむ」というサイトを作っていて、そこの説明の図が大変わかりやすかったです。また現時点で検査可能な施設のMAPもありましたが、残念ながら私の居住地にはありませんでした。
自由診療で、3500円くらいだそうです。
すみません、不具合で重複投稿してしまいました!
国民的な「高カロリー/脂肪/コレステロール/塩分は、健康の為にはとにかく減らす」洗脳は解けないですね。
誰とでも関われてしまうネット空間の怖さですね。