LDLコレステロール値を低下させることが最も有効な治療であると思っている人が、いまだにいます。それはLDLコレステロールが「悪玉」コレステロールという名前を付けられてしまったことと、それを信じ込まされたことによります。しかし、本当のところはLDLコレステロールそのものが悪いわけではありません。
私は、一般的な血液検査ではLDLコレステロール値よりももっと中性脂肪値とHDLコレステロール値に注目すべきであると考えています。心血管疾患のリスクは中性脂肪値が高く、HDLコレステロール値が低い方がリスクが高くなると考えられるからです。
(「糖質制限とLDLコレステロール上昇」「コレステロールを恐れ過ぎてはいけない LDLコレステロール値が低いほど死亡率が上がる!」など参照)
今回の論文では中性脂肪値とHDLコレステロール値によって3つの群に分けてこれまでの危険因子を比較しています。低中性脂肪は97mg/dL以下、高中性脂肪は142 mg/dL以上です。一応中性脂肪値の正常範囲は150未満であるので、正常値上限であっても高い群に振り分けています。高HDLコレステロールは57mg/dL以上、低HDLコレステロールは46 mg/dL以下としています。これもHDLコレステロール値の正常値は40以上なので正常値下限であっても低HDLコレステロールに振り分けています。
そうしたところ、従来の危険因子よりも中性脂肪とHDLコレステロール値で明らかなリスクの差を認めました。(図は原文より)
上の図は濃いグレーのバーが低中性脂肪ー高HDLコレステロール群、薄いグレーのバーが中間群、白いバーが高中性脂肪ー低HDLコレステロール群です。
左上がLDLコレステロール値が高い群と低い群、右上が高血圧の有無、左下が身体活動の高低、右下が喫煙の有無で分けています。一目瞭然で、低中性脂肪ー高HDLコレステロール群がどの項目においてもリスクが低いことがわかります。LDLコレステロール値の高低では大きな違いは認めません。他についても同様です。
最低でも中性脂肪は100未満の2桁、HDLコレステロール値は50以上を目指し、できれば中性脂肪/HDLコレステロール値の比を1.3以下にしましょう。この比が2以上の方は今すぐ糖質制限を始めることを考えた方が良いと思います。
「Low triglycerides-high high-density lipoprotein cholesterol and risk of ischemic heart disease」
「低中性脂肪-高HDLコレステロールと虚血性心疾患のリスク」(原文はここ)
要約
背景:
高中性脂肪値(TG)-HDLコレステロール値(HDL-C)(TG 142 mg/dL以上、HDL-C 46 mg/dL以下)は、虚血性心疾患の高リスクと関連している。一方で、低TG-高HDL-C(TG 97mg/dL以下、HDL-C 57mg/dL以上)は低リスクと関連している。従来の危険因子は、高TG-低HDL-Cと共存する傾向がある。低TG-高HDL-C値の場合、従来の危険因子を有する被験者は虚血性心疾患のリスクが低いという仮説を検証した。
方法:
ベースラインで虚血性心疾患がない53歳から74歳の2906人の男性の観察コホート研究。
結果:
8年間、229名の被験者が虚血性心疾患を発症した。従来の危険因子:LDLコレステロール値(170mg/dL以下または170mg/dL以上[中央値])、高血圧の状態(血圧 150/100mmHg以上または投薬を受ける)、身体活動のレベル(4時間/週以上または4時間/週以下)、および喫煙状況(非喫煙者対喫煙者)によって層別化された。高TG-低HDL-Cの男性での発生率は低リスク層で9.8%〜12.2%、高リスク地層では12.2%〜16.4%であった。低TG-高HDL-Cの男性ではそれぞれ4.0%〜5.1%および3.7%〜5.3%であった。原因となるリスクの推定値に基づいて、全被験者が低TG-高HDL-Cであった場合、虚血性心疾患の35%が予防された可能性がある。
結論:
虚血性心疾患の従来の危険因子を有する男性は、低TG-高HDL-Cの場合、虚血性心疾患のリスクが低い。