以前の記事「その1」では、高LDLコレステロールの代表の家族性高コレステロール血症(FH)でもLDLコレステロールと心血管疾患に関連性がないことを書きました。
心臓の冠動脈の石灰化のスコアである、冠動脈カルシウム (CAC) スコアの方がLDLコレステロールよりも心血管疾患の予測因子として優れています。
以前の記事「LDLコレステロール値は心血管イベントとは無関係」で書いたように、LDLコレステロールが190を超えるような人であっても、CACが低い場合には心血管イベントの起こる可能性は低く、逆にLDLが77未満と非常に低くてもCACが非常に高ければイベントのリスクは高くなるのです。
もちろん、CACを測定するにはCT検査が必要で、LDLコレステロールのように血液だけではわかりません。しかし、一番重要なポイントはCACを下げる薬が存在しないことでしょう。つまり、CACを下げる治療が医師ではできません。そうすると、その代わりの治療対象が必要となり、それがLDLコレステロールなのでしょう。LDLコレステロールを下げることに意味がなくても、スタチンという薬が存在します。そうすると治療している気分になれます。
CACスコアは、糖尿病があっても無くても、若年、中年および高齢者であっても心血管疾患、致命的および非致命的な冠動脈イベントの最良の予測因子であることが証明されています。さらに、10 年以上にわたる長期的なリスク予測にも優れています。
206人の家族性高コレステロール血症(FH)を対象にした研究では、薬物治療で同じ程度にLDLコレステロールが低下(150mg/dl)していたのに、患者 1,000 人あたりの年間の心血管イベント発生率はCAC スコアが 0では発症率0で、1 ~ 100では26.4、>100では44.1でした。(図はこの論文より)
2,175 人のCACのある人(平均年齢42.5歳、95.1%男性)のデータを分析した韓国の研究(論文はここ)では、インスリン抵抗性を表すHOMA-IRで4つのグループに分けたとき、最も低いHOMA-IRは0.856未満、最も高いグループのHOMA-IRは2.008以上として、最もインスリン抵抗性が低いグループと比較して、最もインスリン抵抗性の高いグループの時間経過に伴うCAC スコアの増加のリスクは1.79倍でした。
さらに、CACスコア増加のリスクはインスリン抵抗性+肥満で3.35倍、インスリン抵抗性+肥満+脂肪肝で2.46倍でした。インスリン抵抗性も肥満も脂肪肝も糖質制限では大きく改善するものばかりです。
別の研究では、CACではありませんが、冠動脈アテローム性動脈硬化症はLDLではなく耐糖能の状態と関連がありました。下の表は冠動脈狭窄の重症度とプラークタイプの分布を示しています。耐糖能が正常な人では狭窄はすべて50%未満でしたが、前糖尿病と糖尿病では50%以上が75%以上の狭窄でした。糖尿病では石灰化も多くなりました。(図と表はこの論文より改変)
パラメータ | 合計 | 正常耐糖能 | 前糖尿病 | 糖尿病 | P値 |
---|---|---|---|---|---|
狭窄の重症度、n (%) | |||||
<25% | 39 (81.2) | 2 (1.6) | 1 (1.5) | – | |
25~49% | 9 (18.8) | 46 (37.1) | 18 (26.5) | – | |
50~74% | 0 | 7 (5.6) | 7 (10.3) | – | |
>75% | 0 | 69 (55.7) | 42 (61.7) | – | |
プラーク タイプ、n (%) | 576 | 976 | 336 | ||
プラークなし | 528 (91.7) | 852 (87.3) | 268 (79.8) | ||
石灰化プラーク | 9 (1.7) | 24 (2.5) | 33 (9.8) | ||
非石灰化プラーク | 19 (3.3) | 47 (4.8) | 15 (4.5) | ||
混合プラーク | 20 (3.5) | 53 (5.4) | 20 (6.0) |
下の図は冠動脈狭窄の重症度の各レベルと血糖のパラメータ(FPG:空腹時血糖値、PPG:食後血糖値、HbA1c)の関連を分析したものです。横軸は右に行くにしたがって重症化しています。
どれも血糖のパラメータが悪化するにつれて重症度も悪化しています。下の表は冠動脈アテローム性動脈硬化症の可能性を示しています。糖尿病では正常の2倍以上のリスクです。
血糖状態 | 0.031* | ||
正常 | 1.00 | ||
前糖尿病 | 1.03 (0.36–2.25) | 0.632 | |
糖尿病 | 2.11 (1.59–4.79) | 0.025 | |
HbA1c (%) | 1.77 (1.12–3.85) | 0.013 |
心血管疾患予防へのLDLコレステロール中心のアプローチは、他の病態生理学的メカニズムから注意をそらしている可能性があります。もちろん意図的に。LDLコレステロールがアテローム性動脈硬化を促進するという仮説を反証する証拠は非常に多くあるにも関わらず、ほとんど無視されてきました。
心臓とは別に心血管疾患の中で、脳の血管の問題も考える必要があります。比較的致死率の高いくも膜下出血はコレステロールとどのような関連があるでしょう。下の図は5つの研究における高コレステロール血症とくも膜下出血の可能性を示しています。(図はこの論文より)
ほとんどの研究で高コレステロール血症がある方がくも膜下出血の可能性は非常に小さくなっています。コレステロール値が高いと脳動脈瘤の破裂を防ぐようです。
LDLコレステロールが心血管疾患の原因ではないでしょう。スタチン医者が「インスリン抵抗性を改善しましょうね」と言いますか?糖質制限でLDLコレステロールが上昇しても、問題はないと考えます。
次回以降も糖質制限でのLDLコレステロール上昇が問題ないことを述べていきます。
冠動脈カルシウム (CAC) スコアを改善する治療法を是非!!
ただ、糖質制限などでの「予防」が優先事項なのでしょうね。
清水先生、おはようございます。
CACについては、LDLコレステロールではなく、インスリン抵抗性が重要なのですね。
それに関連して、HDLコレステロールと中性脂肪、そしてマグネシウムが重要なのですかね。
じょんさん、コメントありがとうございます。
LDLコレステロールは人体に必要なものです。質も考えずLDLコレステロールを悪者にするのは、スタチンが大きく関係しているでしょう。
当然、インスリン抵抗性、HDL、中性脂肪、マグネシウムの方が余程重要です。