塩分摂取と皮膚への貯蔵

汗をかいたときに、その中に電解質、特にナトリウムが多く含まれます。夏の暑い中での運動では、非常に大量の汗をかき、多量の塩分が排出されます。

循環血液量を5リットルと考え、そのうちの半分は血清として、血清ナトリウム濃度を140mEq/Lと考えると、8g程度のナトリウム、塩分にすると約20gが血中に含まれることになります。(計算合っているかな?)

以前の記事「暑い気候での運動で発汗、水分状態、塩分はどうなる?」で書いたように、暑い中で90分という時間の運動でおよそ8g塩分が失われます。「マラソン中のナトリウム喪失の個人差」で書いたように、やや涼しい中でのフルマラソンでも、人によってはナトリウム約6g減、塩分として約15g減と大きくマイナスバランスになっています。発汗時に血中の塩分20g中の15gが全て血中から失われてしまえば、人間は死んでしまいます。

実際には15gの塩分が汗で失われても、血中のナトリウム濃度はほとんど変化しません。つまり、失われた分、他から補充されるか、血中以外の場所にあるナトリウムが排出されているか、その両方か、のどれかでしょう。

これまでは水分およびナトリウムは細胞内液と細胞外液の2つのコンパートメント(区画)に分かれていると考えられてきました。細胞外液は血液と間質液で構成され、それらは一般的に平衡状態にあると考えられています。食事による塩分摂取量が増加すると、細胞外スペースにナトリウムが蓄積するので、理論上は、浸透圧を維持するために、140mmol(3.2g)のナトリウム追加ごとに細胞外液に約1リットルの水分が蓄積する必要があります。

しかし、水分が釣り合わなくても大量のナトリウムが蓄積する可能性があることがいくつもの研究で示されています。つまり、ナトリウムの一部は浸透圧とは関係のない状態でで保持されているのです。第3のコンパートメントでの過剰なナトリウムの非浸透圧貯蔵(相応の水分保持を伴わないナトリウム蓄積)が存在すると考えられ、そのコンパートメントは皮膚や筋肉なのです。そして、汗を出す汗腺はナトリウム恒常性に対して、腎臓以外のメカニズムの存在であると考えられます。ナトリウム調整は尿だけでなく、汗でも行われているのです。

浸透圧に不活性なナトリウム貯蔵が行われているということは、塩分を過剰に摂取した場合、体液量と血圧を緩衝するメカニズムとして機能する可能性があるのです。逆に考えれば、発汗など塩分不足になると思われる状況でも、体内で塩分補給が可能なのだと考えます。

その非浸透圧性貯蔵の臓器の最も重要なのが皮膚だと考えられています。皮膚がナトリウム貯蔵の緩衝システムとして機能し、皮膚のナトリウムが食塩感受性と高血圧に寄与していることも示唆されています。つまり、塩分摂取=高血圧のような単純なメカニズムではないのです。あるネズミさんの研究では、食塩に耐性ラットの浸透圧不活性ナトリウム貯蔵量は食塩感受性ラットの3倍であると計算されました。(図は原文より)

上の図は食事性塩分を緩衝する腎外(皮膚)のメカニズムです。通常、ナトリウムは真皮間質中の負に帯電したグリコサミノグリカン(GAG)に結合しますが、相応する水分がないため、高濃度のナトリウムが皮膚に蓄積します。塩分負荷時には、GAGのナトリウム結合能を超え、間質の高張状態が生じます。これがマクロファージの流入を招き、浸透圧感受性転写因子(TonEBP)を放出します。これが血管内皮増殖因子C(VEGF-C)の自己分泌を誘導し、間質のリンパ管新生につながります。VEGF-Cはまた、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現を誘導し、一酸化窒素(NO)産生を介して血管拡張を引き起こします。強化されたリンパ管ネットワークは、ナトリウムの全身循環への逆流を促進し、最終的に腎臓によって除去されます。これらのプロセスは、塩分負荷による血行動態への影響を緩和する役割を果たしています。

543mlの2.4%NaClという高張食塩水を急性注入した研究(ここ参照)では、4時間後に観察された血漿ナトリウム濃度の変化は注入後のピークから-1.8 mmol/Lの減少であり、Adrogue-Madias式(0.4 mmol/L)およびNguyen-Kurtz式(-0.9 mmol/L)によって予測される変化とは大きく異なっていました。さらに、尿中に回収されたナトリウムは、予想される排泄量の47%に過ぎませんでした。つまり、人間の体はかなりの量のナトリウムを浸透圧的に不活性化することができます。そして、高張食塩水注入中およびその後4時間において、収縮期血圧に変化は認められず、拡張期血圧は注入中に4mmHg有意に低下し、注入後にはベースライン値に戻りました。

皮膚には非常に多くのナトリウムが蓄積しています。猛暑といえど、通常の生活で汗によって失われるナトリウムは、血中のナトリウムには何も影響を与えません。恐らく皮膚のナトリウムが排出されているだけか、血中の損失をすぐに皮膚から補っているのだと思われます。夏のスポーツでもほとんどの人は塩分を摂取しなくても低ナトリウム血症になどなりません。汗で大量のナトリウムが失われているにも関わらず、血中のナトリウムが大きな変化をしないということは、排出されるナトリウムが全ては血液由来ではないということでしょう。

スポーツドリンク程度の電解質量で補えるのであれば、補充しなくても良いレベルでしょうし、逆にスポーツドリンク程度の電解質量を補わなければ人間の体がどうにかなってしまうのであれば、運動中に何人も死人が出るでしょう。

水分補給は水やお茶で十分であり、スポーツドリンクのメリットは全くないどころか、デメリットの方が上回るでしょう。メディアが猛暑だからといって塩分補給を連日推奨しているのは、恐らくスポーツドリンクメーカーがスポンサーだからでしょう。

「Skin Sodium and Hypertension: a Paradigm Shift?」

「皮膚ナトリウムと高血圧:パラダイムシフト?」(原文はここ

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