すい臓がんの術後再発がケトン食のみで9か月間コントロールできた

糖質はがんのエサであり、糖質制限やケトン食はがんのコントロールに非常に有用な食事です。これまでのいくつもの報告を採り上げてきました。(「ケトン食の長期継続で進行がんの生存期間が劇的に改善」「脳に転移した肺がんに対するケトン食の絶大な効果」「進行がんとケトン食」「乳がんに対するケトン食のすごい効果」など参照)

今回は、すい臓がんの術後再発例に対するケトン食の有効性についてです。

すい臓がん(膵頭十二指腸乳頭がん)と診断された60歳の女性。化学療法を3サイクルして、膵頭十二指腸切除術という手術を受けました。術後補助化学療法としてS-1(抗がん剤)を6か月間投与しましたが、術後22か月の外来経過観察中に多発肺転移が判明しました。

化学療法を1年間実施し、部分奏効が1年間持続したため、残存肺転移に対し放射線療法を施行し、その後S-1を6か月間投与しました。放射線療法から10か月後、CT検査で肺転移の進行が認められました。全身化学療法の再投与を提案されましたが、過去の化学療法による末梢神経障害、倦怠感、脱毛によるQOL低下の副作用を理由に拒否し、代わりに厳格なケトン食療法を希望しました。(図は原文より)

上の図は、ケトン食の例です。A朝食、炭水化物14.1g。B昼食、炭水化物13.6g。C夕食、炭水化物13.8g。Dのように患者は毎朝、試験紙を用いて尿中のケトン体を検査しました。MCTオイル (中鎖脂肪酸トリグリセリド)を毎食使用しているようです。ケトン食は、1日の総摂取エネルギーが約1400kcalでした。炭水化物の摂取量は約40~50g/日(1食あたり15g)、タンパク質の摂取量は約30~50g/日、脂質の摂取量は約85~105g/日で、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油の量は1食あたり10gから始め、徐々に1食あたり20gまで増やしました。

上の図は、ケトン食開始後の臨床経過です。ダイエット開始後、9か月間、肺転移に関する腫瘍の大きさ、CA19-9およびHbA1C値に有意な変化は見られませんでした。

上の図は体組成の推移です。一番上の数字が体重、青い線が脂肪率、オレンジが筋肉量です。

ケトン食開始時の体重、体脂肪率、筋肉量はそれぞれ43.3kg、30.4%、28.3kgでした。4か月間の食事療法後、体重は4.5kg減少しましたが、筋肉量はわずか0.1kgの減少にとどまりました。さらに、体脂肪は3.6%減少しました。ケトン食開始後、空腹感を感じなくなり、気分も良くなったと報告されています。特に、脱毛や末梢神経障害が見られなかったことに満足しています。

ケトン食開始9か月後、体重、体脂肪率、筋肉量はそれぞれ37.2 kg(-6.1 kg)、18.0%(-12.4%)、28.7 kg(+0.4 kg)でした。また、CT検査では病状が安定し、腫瘍の大きさも23~24 mmと限定的に変化していました。ケトン食開始後10か月まで、CTスキャンで病状が安定していました。開始12か月後、CA19-9は2142 U/mLまで上昇し、CTスキャンで転移性肺腫瘍の進行が認められました。ケトン食を7か月継続し、ゲムシタビンを追加しました。さらに、2か月間、ゲムシタビンとナブパクリタキセルの併用療法に変更しました。最終的に咳嗽症状は悪化し、患者は最善の支持療法を受けることになりました。ケトン食開始から24か月後に患者は死亡しました。

患者の腫瘍は抗グルコーストランスポーター1の高発現を示しており、これは患者の高グルコース取り込み能力を反映しています。したがって、ケトジェニックダイエットが有効であった可能性が高いと考えられます。

もちろん、この症例のように、完全にがんを逆転できるわけではなく、がんの力が勝ってしまうことがほとんどでしょう。しかし、すい臓がんは根治手術後に再発した場合、あるいは切除不能な場合、予後不良とされています。抗がん剤を用いても、1年以上の生存期間を達成することは困難です。しかし、本症例は、ケトン食療法のみによって転移性肺腫瘍の進行が抑制されました。転移性すい臓がんをケトン食療法のみで9か月間安定した状態にできるというのは凄いことでしょう。

すい臓がん(膵管腺がん)の術後再発率は70%を超えます。再発後の平均生存期間は6.8~11.1か月です。ケトン食で9か月間安定した状態を得て、ケトン食開始から24か月生存できました。

プレプリントの動物を使った研究(ここ参照)によると、ケトン食は体重減少とは無関係に肥満関連すい臓がんを予防し、すい臓代謝の再プログラミングを誘導する、としています。逆に非肥満のすい臓がんでは、ケトン食はがんを促進してしまう可能性を示唆しています。もちろん、これはマウスの研究です。ただ、上の症例報告の患者は40kg台の体重なので、体重だけ見れば、決して肥満ではないはずですが、体脂肪率は30%なので、やはりこれが問題なのかもしれません。

しかし、最近の研究(ここ参照)では、ケトン体のβヒドロキシ酪酸がすい臓がん進行と臨床的に関連しており、すい臓癌細胞の転移を促進することを報告しています。この矛盾したことが、がんが一筋縄ではいかないことを示しています。がんのタイプによっては、ケトン食は悪い作用を示してしまう可能性もあります。

でも、多くのがんは糖質をエサにしています。私は迷わずケトン食を選びます。医師や医療従事者の、がん患者への「食べられるものは何でも食べて」という有害なアドバイスは聞き流しましょう。

「Postoperative recurrence of pancreatic cancer controlled for 9 months solely by severe carbohydrate restriction: ketogenic diet」

「すい臓癌の術後再発は、厳格な炭水化物制限(ケトジェニックダイエット)のみで9か月間コントロールされた」(原文はここ

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