進行がんとケトン食

糖質はがんのエサです。かなりの糖質を削減した食事であるケトン食はがんの栄養療法として非常に有用である可能性があります。(「乳がんに対するケトン食の効果」参照)

今回の研究は大阪大学を中心としたグループのものです。ケトン食を3か月間摂取した37人のステージ4の患者のデータを分析しました。37人の患者には、8人の結腸直腸がん、6人の肺がん、5人の乳がん、4人の膵臓がん、および19人の他のがん患者が含まれました。

炭水化物は第1週は1日あたり10gに制限されました。脂質とタンパク質の量は、2:1のケトン比(脂質/タンパク質と炭水化物の比)の目標に従って調整されました。カロリー摂取量は、患者の実際の体重に基づいて30kcal/kg/日に設定されました。患者の体重を50kgとすると、総カロリー摂取量は1500kcal、炭水化物摂取量10g、脂質摂取量140g、タンパク質摂取量は60g(ケトン比2:1)です。(図は原文より)

上の図は1日のケトン食の代表的なメニュー(1日10gの炭水化物)

2週目から3か月間、炭水化物は20g/日に制限されました。総カロリー摂取量は1400〜1600 kcal/日、脂質摂取量は120〜140g、タンパク質摂取量は70g(ケトン比1:1)でした。3か月後、ケトン食を継続したい患者の場合、炭水化物の制限は30g/日以下(1食あたり10g以下)でした。必要な微量元素とビタミンはサプリメントによって提供されました。カロリー補給には、中鎖トリグリセリド(MCT)オイル(約50〜80 g/日)とケトンフォーミュラ(約30g/日)を使用しました。ケトンフォーミュラとは、乳幼児の難治性てんかんの治療用特殊ミルクです。

上の図は血中の様々なパラメーターです。左上からアセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、グルコース、インスリン、アルブミン、CRPです。アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸のレベルは1週間を最大として3か月間大幅に増加しました。空腹時血糖値とインスリン値の両方が大幅に低下しました。アルブミンとCRPは有意な変化を示しませんでした。

上の図はグルコースケトンインデックス(GKI)の計算式とケトン食療法後のGKIの程度を示しています。GKIはグルコースとβ-ヒドロキシ酪酸の比です。GKIを見ると患者の70%は3か月間中程度から高いケトーシスを示しました。

上の図はケトン食前後でのPET-CTによるがんの評価です。Aは58歳の大腸がんの男性、Bは55歳の肺がんの男性です。Aではケトン食と化学療法を開始してから3か月後、複数の肝転移(黄色い矢印)は劇的に減少しました。Bでもケトン食を開始してから4か月後、黄色い矢印の部分が劇的に減少しています。5人の患者が3か月でPET-CTの部分的な応答を示しました。ケトン食を開始してから1年後に臨床反応を調べると、3人が完全反応と7人が部分反応を示しました。反応率は27.0%でした。

上の図はケトン食による累積生存率です。ケトン食は患者の長期予後を著しく改善したと書かれていますが、ケトン食を行わない予後の詳しい数値は知りません。全生存期間の中央値は32.2か月(最大80.1か月)で、3年生存率は44.5%でした。乳がんで41.1か月、結腸直腸がんで19.0か月、膵臓がんで10.7か月でした。膵臓がんの抗がん剤治療の生存期間中央値はそれぞれ8.5か月~10.1か月だそうです。ちなみに日本の3年生存率(ステージ4)は、乳がん54.4%、大腸がんで30.3%、膵臓がんは2.6%です。(ここ参照)

進行した非小細胞肺がん患者のエルロチニブという抗がん剤治療による全生存期間の中央値は19.3か月であり、今回の研究では、エルロチニブで治療された肺がん患者の生存期間は81.2か月であり、この論文が書かれたときにはまだ生存しています。(肺がんのステージ4の3年生存期間中央値は11.8年です)

臨床データと予後との関係では。アルブミン(Alb)とCRPは、がん患者の予後の予測因子としてよく知られていて、Albが4以上では4未満よりも予後が良好でした。CRPが0.5以下では0.5より高い患者よりも予後が良好でした。さらに血糖値が90以下では90より高い患者よりも大幅に予後が良好でした。

また、ケトン食を開始して3か月後のケトン食-ABC(KD-ABC)スコアによりかなり生存率に違いが出ました。アルブミン4以上、CRP0.5以下、空腹時血糖値90以下であるとKD-ABCスコアは0となり、かなり生存率が高くなりました。

その他の血液データを見ると、下の図のようです。

腎機能はBUNは変化なく、クレアチニンは低下、eGFRは上昇していました。腎機能に対しては有害性はなく、むしろ有益である可能性があります。尿酸値は1週間後をピークに大きく増加していました。尿酸値の増加は糖質制限の初期でも良く認められます。

総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールは徐々に増加しました。インスリンが低下した影響でしょう。中性脂肪は増加しましたがその幅は大きくはなく、徐々に低下傾向でした。

もちろん、ステージ4の進行がんのすべての進行を完全にストップするほどケトン食のパワーは強くはないでしょう。しかし、もっと早い段階から始めていれば、もっと良い予後をもたらす可能性はあると思います。そしてさらに、がんになる前から糖質制限を始めていれば、がんになるリスクも非常に低下すると思います。

糖質過剰症候群

ケトン体

「Promising Effect of a New Ketogenic Diet Regimen in Patients with Advanced Cancer」

「進行がん患者における新しいケトン食療法の有望な効果」(原文はここ