肥満の人では、様々な臓器がインスリン抵抗性になっていると考えられます。恐らく脳のインスリン抵抗性も高くなっているために、食物摂取の調節が上手くいっていない可能性も高いと思います。
視床下部には摂食行動を促進する摂食中枢と摂食行動を抑制するので満腹中枢と呼ばれる中枢が存在し、通常では摂食行動を調節しています。
今回の研究では、末梢インスリン作用と中枢インスリン作用を区別し、痩せた人、過体重や肥満の人における中枢インスリン作用を評価して、インスリン抵抗性の影響を受ける脳領域を特定することを目的としています。インスリンの鼻腔内投与により、末梢のグルコース濃度に影響を与えることなく、インスリンを直接脳に送って、脳のインスリン作用を選択的に調べています。
対象は健康な痩せた25人、過体重の10人、肥満の13人で、BMIは19~46の範囲です。MRIにより、鼻腔内インスリンまたはプラセボを投与する前と15分後と30分後に脳血流を測定しました。(図は原文より)
上の図は脳の前頭前野の脳血流の変化を示したものです。左側のグラフはBMIによって調整されたインスリン抵抗性指数と脳血流の関係です。インスリン抵抗性が高いほど脳血流は多く、逆にインスリン感受性が高いと鼻腔内インスリンにより脳血流が低下しています。真ん中の図は脳血流が変化している領域です。右中前頭回の部分です。右の棒グラフはインスリンとプラセボを投与してから30分後の痩せた人と肥満の人の前頭前野の脳血流変化を示しています。全く逆の変化を示していて、痩せた人ではインスリンにより脳血流は低下していますが、肥満では脳血流がインスリンで増加しています。
上の図の左側の図は、インスリン投与15分後の視床下部の脳血流の変化と、内臓脂肪量との関係です。内臓脂肪が少ないほど視床下部の脳血流は低下しています。右の図は視床下部の領域を示しています。
上の図は、インスリンとプラセボの日の間の高カロリーの甘い食べ物の欲求の評価です。黄色が女性、黒が男性です。左が痩せた人、右側が肥満の人です。プラセボと比較してインスリン後の痩せた人と肥満の間の有意差が男性のみで認められました。痩せた男性へのインスリン後の高カロリーの甘い食べ物の欲求は有意に減少しました。
結果として、脳のインスリン感受性は過体重と肥満の人の前頭前皮質、および内臓脂肪組織が高い人の視床下部で選択的に損なわれ、食べ過ぎを抑制する制御が低下した可能性があります。視床下部と前頭前野の抑制が起きると、満腹感が高まり、食物への欲求が弱まる可能性があります。また、視床下部のインスリンシグナル伝達障害は、自律神経系の反応の変化により、内臓脂肪の蓄積を増加させる可能性があるのかもしれません。
さらに、前頭前野は、他の動物と比較して人でもっとも発達した部分であり、記憶や感情の制御、思考や創造性を担う脳の最高中枢であり、様々な高度な活動を担ている脳の領域です。その領域のインスリンシグナル伝達障害が起きている場合には、食欲の抑制も働かなくなっているのでしょう。
肥満だけが問題ではなく、恐らく高インスリン血症が問題となり、脳のインスリン抵抗性を起こすと思われます。脳のインスリン抵抗性を改善するにはインスリンの過剰な分泌を抑えることだと思います。そのためには糖質制限です。
糖質過剰症候群
「Selective Insulin Resistance in Homeostatic and Cognitive Control Brain Areas in Overweight and Obese Adults」
「過体重および肥満の成人の恒常性および認知制御脳領域における選択的インスリン抵抗性」(原文はここ)